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やきもちの理由(1) | 秘密のあっ子ちゃん(38)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。
今回は幼なじみだった二人のお話しです。
依頼人は六十才の女性。 彼女は幼い頃から結婚するまで神戸市に住んでいました。兄弟は四才年上の兄と二つ違いの妹がいました。幼少時代は兄と共によく近所の子供達と遊びました。その中に、兄と同い年の彼がいました。彼と兄とは大の仲良しで、学生時代も社会人になっても親友でした。 彼女にとって、彼は初恋の人でした。いつ頃から恋心を持ったのかはもう記憶にはありませんが、娘時分には自分の心の奥底に、「この人」と決めていました。
昭和二十七年、彼女が十七才の時、彼は勤務していた会社から東京転勤を命じられました。それからしばらくして兄も結婚しました。当初は手紙や葉書のやりとりをして、彼女は彼と連絡を取っていましたが、それもいつしか遠のき、やがて彼が東京から再びどこかへ転勤してからは音信不通となってしまいました。彼女自身も自らの就職や親が勧める縁談話がいくつも出る中で、次第に彼の面影は薄れていきました。
彼女が彼の姿を最後に見たのは、兄の結婚式の日でした。それから四十四年の月日が流れました。
幼なじみで親友だった兄も、自らの結婚と彼(64才)の二度目の転勤を境にして連絡が途絶え、彼の所在は知りませんでした。
法事などで兄と顔を合わせた時、昔話が出た折などは兄も彼の話を懐かしそうにしてはいましたが、「探そう」というところまではいかず、結局そのままになっていました。その兄ももう三年前に亡くなってしまっています。
依頼人(60才)は常日頃、初恋の人である彼のことを兄以上によく思い出し気になっていました。そんな彼女が、彼の消息が分らなくなって四十四年目、当社の存在を知って依頼してきたのでした。
私達は真っ先に、当時彼が勤務していた会社へ聞き込みに入りました。しかし、彼は随分以前に退職しているらしく、彼に関する書類は残っていませんでした。 私達は引き続き、彼女が知っている限りの手がかりを元に調査を進めました。しかし、彼の所在は杳としてつかめません。
彼には二つ違いの弟さんがいて、実家は彼が東京へ転勤して間もなく、父方の田舎である石川県へ引っ越していました。私達は最後の手段として、石川県内で彼の実家か親戚筋を探し始めたのです。
私達は最後の手段として、石川県内で彼の実家や親戚筋を探し始めました。いつもの如く、この作業は多大な労力を必要としましたが、私達はついに弟さんの所在を突きとめることができたのです。
弟さんは祖父の代からの家業、呉服の柄の型の製作の仕事を継いでおられました。弟さんの話によると、お父さんが家業を継ぐのを嫌い、町に出られていたとのことですが、お祖父さんは元々初孫である依頼人の幼なじみを後継者として望んでおられたとのこと。しかし、彼自身が大手企業に就職し、結婚も婿養子として妻の籍に入ったため、結局両親と共に田舎へ帰った自分が継いだのだということでした。
なるほど、彼は姓が変わっているため、いくら手がかりを追っても途中で足跡が切れる訳です。
私達は弟さんに彼の連絡先を教えてくれるように頼みました。しかし、弟さんは何故か口を濁して、「兄の方からそちらへ連絡を入れるように、私から言っておきます」と答えられるのです。私は何か事情があるんだなとピンときましたが、それがどういうことかはもう少し後になって分るのでした。
<続>

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