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中学3年生からの依頼(1)| 秘密のあっ子ちゃん(213)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

これまで当社に依頼されてこられた人たちの年齢は実に様々ですが、今回はその中で最年少の方のお話しをしたいと思います。
彼のケースも、私が忘れることのできない依頼の一つなのです。
彼は、私が電話を取るなり、唐突に「探してほしいんですが・・・」と言ってきました。 声からして、どうも大人ではないようでした。それに話が唐突すぎるので、私は「悪ガキのいたずら電話かな」と思いました。いたずら電話なら、細かく話を聞き進むうちに、電話の主がしどろもどろになっしまうので、すぐに分かります。
ところが、彼の場合、こちらの質問にはっきり受け 答え、次第に彼の「探したい」という気持ちが私に伝わってきました。
しかし、やはりどう聞いても、彼の声や話し方は子 供っぽい。
私は「あなたのお年はいくつですか?」と聞きまし た。すると、彼は「中学3年生」と答えたのでした。 私は一瞬「え?」と絶句しそうになりました。そして「未成年だし、料金がいることだしこれはちょっと 受けかねるナ」と踌躇している私に、彼は「親にも 言ってあります」と言うのでした。
「ボク、すし屋でアルバイトしているから、お金の ことは大丈夫です。お母さんも自分のお金でするなら いいと言ってくれてます」
そして「あの子がどうしているか、とても心配なん です。どうしているか分かったらそれでいいんです」 と一生懸命、私に訴えてきました。
彼の話はこうでした。
彼にはずっとあこがれていた後輩がいました。彼女 は2歳年下の中学1年生でした。
彼は、よく彼女が放課後校庭でクラブ活動をしてい る姿を眺めていたり、あるいは、彼女が自分の教室の 前を通らないだろうかと、廊下の方ばかり気になって いたり・・・そんなことを繰り返していたのだそうです。
私は「若いころって、そういうことがあるんだよなぁ」と自分の中学時代を思いだしながら聞いていました。
そんなある日、彼は彼女の友人に突然呼び出されたのだそうです。
依頼人は、「もしかして、彼女からの伝言か?」と内心期待に胸をふくらませながら、屋上へ行ったのだそうです。
ところが、その友人の話とは、彼女の伝言どころ か、「私とつきあってくれない?」ということでした。
彼はガクッときて、その子には悪いと思ったのです が、その申し出をはっきり断ったのだそうです。
翌日、彼は再びその友人に呼び出されました。
「なんや、しつこいな」と思いつつ、屋上へ行くと 彼女の友人は彼にこう言いました。
「私とつきあわないんだったら、あの子がつきあい たいと言ってるヨ」
彼はうれしくて天にも昇る思いだったそうですが、 そこはオトコのコ。そんな気持ちはおくびにも出さ ず、そっけなく「いいヨ」と答えたらしいのです。
私は「彼女の友人の感覚はギャップがあるなぁ。さ すが、きょうびの中学生!」などと、変なことに感心してしまいました。
とにもかくにも、そんな訳で、おめでたく彼は憧れ の後輩の彼女とつきあうことになったのでした。

<続>

 

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