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憧れの主治医の先生(2)| 秘密のあっ子ちゃん(208)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

あこがれの若い医者(29)に会いに行くためにバスケットの練習の合間を縫って病院へ通い詰めた依頼人。廊下で先生が通るのを待ち、ひと言、ふた言、言葉を交わす…。そんなことが一年半ほど続いた十八歳のクリスマス。彼女は友人達で催すパーティーに先生を誘いました。
先生はかわいいクマの縫いぐるみを彼女へのプレゼントにと、持ってやってきてくれたのでした。その日のパーティーは盛り上がり ました。
先生は、病院にいる時よりもずっと気さくで、彼女の友人達ともすっかり親しくなって帰って行きました。
翌年の三月、彼女が高校を卒業することから、彼女は先生と交際を始めました。
二人で映画を見たり、食事をしたり、時にはドライブもしました。
彼女は勤め始めたばかりの会社の人間関係の悩みや両親とのいざ こざ、将来のことなど何でも先生に相談しました。
先生は自分のことを話すより、たいていそうした彼女の相談相手 になってくれていました。
二人の交際はこんな風に二年間続いたそうです。
彼女が二十歳の時、 両親の強い勧めで、ある縁談話が持ち上がり ました。両親は、早く彼女を嫁がせたいと思っていたそうです。
まだ嫁に行く気のなかった彼女は、このことも先生に相談しました。
先生は「一番大切なのは君がどうしたいか、ということだ」と答えました。
『まだ結婚なんて。それに好きなのは先生なんだから・・・』と思っていた彼女でしたが、両親の強い希望との間で板挟みになり、悩ん でいました。
そんな彼女を見て、先生はこう言いました。「そんなに悩むなら、一度会ってみればいい。それから決めても遅くないんじゃないかな?」
そのころ、先生に転勤の話が出ていました。彼女は絶対に転勤してほしくはなかったのですが、結局、転勤していきました。
「落ち着いたら、連絡するよ」
最後に会った日、先生はそう言って別れました。
その後、彼女はずっと先生の音信を待ちましたが、先生からの連絡はついにきませんでした。
たまりかねた彼女は、転勤先の病院に電話しました。しかし、先生はそれから半年もたたないうちに、また別の病院へ転勤しており、その後どの病院に異動したのかは教えてもらえなかったそうです。
四年後、二十四歳になった彼女は私たちに手紙を書いてきました。
「母が買ってきた雑誌に 目を通していて、貴社の記事が飛び込むように目に入ってきたのです。私にも探していただきたい方がいま す。何度も何度も記事を読み、その思いは募る一方で ペンをとった次第です」
そして、彼女はこうも書いています。
「あのころ、私の方もいろいろとありまして(結婚)、先生のご判断で連絡が途絶えたのだと思います。その後、私は結婚しないまま現在も一人です」

<続>

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