このページの先頭です

風にふかれるストレートヘア (4) | 秘密のあっこちゃん調査ファイル

 これは1994年に出版された、佐藤あつ子著「初恋の人、探します」(遊タイム出版)に収録されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。
『初恋の人探します。料金:着手金3万円。成功報酬3万5千円』
ここや!
和宏は次の日には寿司屋でアルバイトを始めていた。
柏本君が初めて当社に電話してきたのは平成元年の二月中旬でした。
「人探しをしてくれるんですか?」
どんな人をとも、いつごろのことだとも言わず、唐突にそう言ってきた彼を、私は最初、いたずら電話と思っていたのです。
学校が春休みや夏休みになると、中学生ぐらいの声で「探してくれますか?」といたずら電話がかかってくることがたまにあるのです。そんな時、「探したい人のお名前は?」「わかっていた時の住所は?」と二、三質問をすると、大概は答えられずにすぐに電話を切ってくれます。
けれど柏本君は違いました。質問内容にはしっかり答えてくれるし、声も真剣そうです。
「これは本物だな」
と思いました。しかし、声が若すぎるのが気になります。すべての質問を聞き終えてから参考までに年齢を聞いてみました。
「16歳です」
「ということは・・・高校一年生ですか」
私はウーンと考え込んでしまいました。
それまで未成年で学生の依頼を受けたことはありませんでした。引き受けていいものかどうかさんざん迷いましたが、結局、私はこのたずね人の依頼を受けることにしました。かけがえのない人を探したいという想いは年齢に関係ないと判断したからです。
調査の結果、千里さんは大阪府北部のある福祉施設の女子寮にいることがわかりました。
それを柏本君に報告して9ヶ月ほどたったある日、彼からまた電話が入りました。
「施設に電話したら、そんな子はいないと言われたんです」
私たちはすぐに確認調査を行ないました。やはり彼女は間違いなく、その施設の寮にいたのです。
施設の先生は私たちにこう言いました。
「あの子は家庭的には恵まれておりませんが、明るく元気にがんばっております。最近
はやっと落ち着いて、学校へも真面目に通っています。中学を卒業したら就職するんだとがんばっているんですよ。私たちもなんとか『卒業だけは』と懸命になっております。ここにいる生徒たちは複雑な事情を抱えている子が多く、外部からややこしい話も入ってきます。私たちはここでは親代わりですので、そういう話から彼女を守っていく義務があります。でないと、すぐ横道へそれていってしまいます。そういう訳で、外部との接触は一切させていないのですよ」
私たちは聞いたままの話を柏本君に伝えました。
「本当に彼女のことを思うなら、中学校を卒業するまでもう少し待ってあげてください。施設の先生がそう言っておられる以上、無理に会おうとすれば、純粋に彼女を心配するあなたの気持ちがうがって取られてしまいます」
そうアドバイスした私たちの言葉に、彼は素直に返事をし、わかってくれたようでした。
それから1年1ヶ月後、三度目、彼から電話が入りました。平成2年3月下旬のことです。
もう卒業式も終えただろうと、彼は今度は女友達に頼んで施設に電話をしてもらったといいます。しかし、施設からの返答は「いない」でした。和歌山の祖母宅へも連絡したらしいのですが、そこでも「どこにいるのかわからない」という返事だったそうです。
彼は私たちにもう一度千里さんの所在を調べてほしいと言ってきました。
調査の結果、千里さんはそのままあの施設にいたことがわかりました。彼女は中学を留年しており、義務教育期間までのもう1年、女子寮にいることになっていたのでした。
~ 続く~

Please leave a comment.

入力エリアすべてが必須項目です。メールアドレスが公開されることはありません。

内容をご確認の上、送信してください。