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一人娘の家出(2)| 秘密のあっ子ちゃん(236)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

  依頼人であるこのお母さんは、娘の家出人届けを出しに行った時の警察の対応が余程腹に据かねたようです。
『警察は届けを受け付けるだけで、事故にあうか事件に巻き込まれるかでないと動けないと言うんですよ!』
『ええ、警察は民事には不介入ということになってますので、原則として犯罪に関わっていない限り、家出人を捜し回るということはないんですよ』と私達。
『でもネ、近ごろは若い女性が殺されて死体が出てきたりしてますでしょ。そうなってからでは遅いから、警察にお願いに行ったのに、ろくに聞いてもくれないんですよ。あんまり腹が立ったので、『誰の税金で食べてると思ってんの !』と怒鳴ってしまいました』警察の民事不介入という前提を知らず、『警察は困った者の味方』と思って生きてきた彼女にとって、 それは本当に腹が立った現実なのでしょう。涙ぐみながらそう話したのです。
『届けを出してから警察からは一回だけ連絡がありました。この前、川が干上って白骨死体が出てきましたでしょ。お宅の娘さんじゃないかって。でも、死亡時期にはウチの子はまだ家にいましたから、別人と分り、ホッとしましたけど・・・』
『そうですか。でも、警察から連絡が入った時はびっくりされたでしょう? マ、そんな事件に巻き込まれることは滅多にないと思いますけど・・・』
『ええ。ウチの子はとても警戒心が強くて、知らない人とは絶対に言葉を交わしたりはしません。というのも、小さいころに誘拐されかかりましたから、それだけは厳しく言って聞かせてきたんです』
『えっ!?誘拐ですか?』
『ええ、小学校五年生の時でした』
その誘拐未遂事件というのは、娘さんが小学五年生の時、道を尋ねられた男の車に乗せられて何時間も連れ回されたというものでした。
『その男がガソリンを入れたスタンドの店員さんが、どう見ても親子ではないと不審に思って、警察へ通報してくれたので、娘は無事保護されたんですけど・・・』
『それは、身代金目的だったんですか?それともいたずら目的だったんですか?』
私はドラマのような話に驚いて、そう尋ねました。
『それは分りません。犯人がウチに電話してくる前に娘は保護してもらえましたから。でも、私は警察で『親のくせに、子供が連れ去られても気づかなかったのか!』とすごく怒られましたわ。あの時はそれだけ怒っておいて、今度は知らんぷりでしょ。だから余計腹が立ったんです』
『なるほど。で、犯人は捕まったんですか?』
『それが、取り逃がしたんです。でもその男もおかしいんですよ。その後、ウチに電話してきて、『示談にしてくれ』と言うんですよ。そんなことしたら捕まるのにねぇ。警察に通報したら、逆探知器はつけるわ、刑事さんが張り込むやらで、それは大変でした』
『へえー。それで犯人はどうなりました?』
ほとんど素人のように聞いてしまう私でした。その犯人は、結局捕まりませんでした。
『でも、身代金も取られず、いたずらもされないで、無事戻ってこられてよかったですねぇ』
一連の話で娘さんが無事だったと分ってホッとした私は、『感心して聞いている場合ではない』 とハッと我に返り、職務に戻ったのです。
『家を出られてから、 娘さんからは連絡はありましたか?』
『一度だけありました。それも家にではなく、私の会社へ電話してきたんです。きっと、あの時のことを覚えていて、家の方は逆探知でもされているのではないかと思ったんでしょう』
『誘拐ならともかく、 家出では警察も逆探知の機械を設置してくれませんしねぇ。それで、何とおっしゃってましたか ?』
『ちゃんと暮らしているから心配せずに、絶対探さないようにって。それで一方的に切ってしまったので、私は何も言えませんでした』そこまで言うと、彼女はまたも心配の想いがこみ上げてきたようでした。
こうして、私達はこの家出人探しを受けることになったのでした。
<続>

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