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満州開拓団時代に…(1)| 秘密のあっ子ちゃん(150)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

六十歳代以上の方の「思い出の人探し」は、やはりどうしても戦争がからんだものが多くなります。南方で共に戦った戦友の生死。軍需工場で一緒だった同僚の消息。疎開先でお世話になった人の音信。などなど・・・
どのケースにもあの時代がもたらした重い人生があり、私はそんな依頼を受ける度に心を打たれます。
今回はそうしたケースの中から一つ、満州におられた方のお話をします。
依頼人は現在六十五歳の男性でした。彼の家族は両親と姉・兄・妹二人の七人で、昭和十一年、出身地の長野瞑から「満蒙開拓団」として満州へ入植したのだそうです。
村の半分ほどが貧しい長野での暮らしに見切りをつけて、満州の新しい大地へ希望に燃えて入植したのにもかかわらず、そこでの生活は悪条件下での開墾と寒さで、「それは厳しかった」と依頼人は話してくれました。
その話は電話を通してのものでしたが、あの時代のことなど全く知らない私にも、広大な満州の風景や地平線に沈む大きな夕陽や、その中で一生懸命働いている家族の姿が見えるようでした。

昭和十一年「瀾蒙開拓団」として六人の家族と共に満州(現在の中国東北部)へ入植した依頼人(六五)。 このおじさんの当時の苦労話に、「依頼」だということもすっかり忘れて聞き入ってしまった私ですが、彼女が登場してくると、やはりそこは職業柄と言いますか、「手掛かりになるのはどれだ?」という思いで話を聞き続けました。おじさんの家族が満州へ入植したのは、当時の政府の「二十力年百万戸計画」に基づいて、村長以下、村の半分が渡満したこと
によるそうなのですが、その中に彼女の家族も入っていました。彼女の家族は両親と息子二人、娘一人、そして末亡人になった父親の妹の六人で、当時五歳だった末娘が、今回おじさんが探してほしいという人なのです。異国での厳しい生活の中で、人々は助け合わなければ生きてはいけません。同じ村の出身ということだけではなく、そうした環境の中で両家族は内地にいたころよりも、より一層親しくなったそうです。
そんな中、日中戦争が起こり、両家の兄達も次々と「満州開拓義勇隊」に志願したり、現地徴用されたりしていき、彼は自分の二人の妹と共に、三つ違いの彼女の面倒をよくみたのだそうです。

昭和十一年、共に「満蒙開拓団」として満州(現中国東北部)に入植した依頼人と彼女の家族。二人は幼なじみとして、仲良く昭和二十年八月まで満州で暮らしたそうです。おじさんは十七歳、彼女は十四歳になっていました。
「苦しかったあのころ彼女と遊んだ記憶は唯一楽しい思い出です」と、おじさんは言っています。開墾の仕事は粗変わらず厳しく、彼女のお兄さんが戦死するということもあったのだそうです。
そしてあの昭和二十年八月十五日。おじさんは、その前後のことはあまり詳しくしゃべりたくないようでした。が、話の口ぶりから「すごい混乱だった」ことが、私にも理解できました。「十三歳だった上の妹は、そのころ死にました。十歳だった下の妹が残習孤児になることもなく、よくも無事に日本へ帰れたものだとしみじみ思います」それを聞いて私は、もうその当時のことを詳しく聞く気にはなれませんでした。おじさんの家族と彼女の家族は途中までは一緒に逃げてきたそうなのですが、長春近くで混乱に巻き込まれ、離ればなれになってしまったそうです。そしてその後の彼女と、彼女の家族の消息が全くわからないのだと言います。

<続>

突然彼女の連絡が途絶えて(2)| 秘密のあっ子ちゃん(149)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

おもしろ半分でかけたダイヤルQ2のパーティーライン。そこで知り合ったある一人の女性とやりとりした電話の数、十数回。

当然、依頼人の彼(二八)は彼女に一度会ってみたくなり、「今度会おう」と何度も誘いました。

しかし、その度に彼女は「その日は、仕事の関係で東京へ行くので」とか、「父が病気になり、看病しなければならないから」とか、あれこれ理由をつけては会おうとしなかったと言います。

私はどうも”くさい”と思い、依頼人に

「それは、彼女があなたに会えないような嘘を言ってるからじゃないのですか?」と聞く。

すると彼は、「いや、彼女はそんな嘘を言う子じゃありません」と真顔で怒って否定するのです。

私は、内心『そんなムキにならなくても…』と思いながら、再び聞きました。「そうですか。それで彼女はどんなタイプの人なのですか?」

彼の話によると、彼女は二十四歳で可愛い声の持ち主だそうです。そして、オーストラリア人と日本人のハーフで、ある週刊誌のミス・キャンパスにも選ばれたこともあり、現在はアルバイトで大阪空港の国際線のインフォメーションをしているとのことでした。

彼の頭の中では、彼女は”宮沢りえ”のような素晴らしく可愛い子と思い描いているようでした。

私は、彼の思い入れに水をさすようで悪い気もしましたが、そこは心を鬼にして言いました。

「どの内容も話ができすぎて、よけい嘘臭いですね。だいいち、そんな子がこの辺にウロウロしているとも思われませんけど…」

(しまった!最後の言葉が一言多かった)

と思ってもあとの祭り。彼はますますムキになって、「彼女は絶対にそんな嘘をつく子ではありません!」と言い返す。

私は、彼への「説得」はこれ以上無理だと判断し、話の続きを促したのでした。彼女の誕生日にプレゼントを送ろうと住所を聞くと「今、お姉さん夫婦の所に屈候している」と、その住所を教えてくれました。プレゼントを送って、一週間ほどしてから彼女から電話が入り、「お姉さん夫婦が引っ越す。自分も一人でアパートを借りる」と言ってきたのです。

それが最後の電話でした。一度、その住所を訪ねましたが、「そんな子はいない」と。

そして、彼はこうも言いました。

「その後、別の女性から交際を申し込まれもしましたし、親が『結婚しろ』とうるさくて見合いの話を進めたりもしているのですが、彼女のことが気になってまったくその気にならないのです。とにかく、彼女に一度会ってこの目で確かめないことには、僕の中で何も始まらない」

私は、「彼女の話したことが嘘であれ、真実であれ、とにかく彼女を探し出して一度会わせるのが、彼の心の整理にとって一番の薬だ」と思いました。

早速、私たちは「彼女」を捜し始めました。ところがと言うか、やはりと言うか、彼女がミス・キャンパスになったという週刊誌に問い合わせても、「ここ何年もそんな企画はしたことがない」という返答です。

また、大阪空港では「国際線のアナウンスにバイトの人は、使っていません」という回答なのです。私たちは無駄を覚悟で彼女の”お姉さん夫婦のマンション”にも聞き込みに入りました。 すると何と、そのマンションの部屋の住人は、最近入れ替わったどころか、

何年も同じ夫婦が住んでいるというではないですか!

より慎重に聞き込みに入った結果、「彼女」はその部屋の住人の三十六歳の人妻だったのです。

「どこがハーフやねん!」「なにが二十四歳やねん!」と私はあきれました。

これではどんなことがあっても彼には会えない訳です。

私は「彼女」を信じ切っている彼にこの事実を伝えれば、どんなに落胆するだろうかと恐る恐る報告しました。

しかし、彼は報告書を見るなり、「これで見合いする気になりました!」と意外にさばさばと言ったものでした。

とにもかくにも、『一件落着』というところです。

<終>

突然彼女の連絡が途絶えて(1)| 秘密のあっ子ちゃん(148)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

「突然連絡が取れなくなった」と飛び込んでこられる若い人たちの「現在進行形」の依頼の中には、どう見ても「探しても無駄だ」と思われるケースかいくつもあります。つい最近も二十三歳の男性がやってきて、「一年間つき合った彼女が、突然アパートを引き払ってしまった。何とかもう一度連絡を取りたい」と言うのです。

すぐに私は『それって、ふられているんじゃないの?』と思ったのですが、初めからそんな風につき放してしまっては、あまりにも彼がかわいそう。そういう訳でじっくりと話を聞き始めました。

しかし、聞けば聞くほど、「これは、探したところで彼女の気持ちは戻ってこない」と判断せざるを得ない。『ちょっと本人にはきついかな』とも思いましたが、それこそ「本人のため」とばかり、私は、「お金がもったいないと思うから、調査はやめといた方がいいと思うよ」と言いました。

こういう場合、ほとんどの依頼人は、その事態が示す本当の意味については自覚があるようです。でも第三者と違う所は、「わずかな希望を捨てきれない」という点なのです。

誰が聞いても明らかに「ふられている」という依頼には、とりあえず「探しても無駄だ」とはっきり伝えます。

しかし、たいていの場合、私に指摘されるまでもなく、『認めたくない現実』として、依頼人自身は既にうすうす分かっているようです。

「例え、そうであったとしても、このままでは自分の気持ちの整理ができない。イヤならイヤとはっきり彼女の口から聞かないことには、次に進めない」

ということで依頼を受けることになるのですが、そのあと彼が当社から引きあげるまでの時間のほとんどは「人生相談」ということになってしまいます。しかし、そういうケースとは異なり、なかにはら忠告しても『愛』があると信じて疑わず、当社が報告書を示すまで、まるっきり「騙されている」人もいます。

それは、女性より男性の方がはるかに多い。

やっぱり、男性の方が純情なんだなぁ…と思わざるを得ません。逆に言えば、「よくまぁ、こんなミエミエの嘘をつくわ」とあきれる女性がいるのです。

依頼人は彼女のことをとことん信じて疑わず、しかし、私から見れば「よくまぁこんな嘘がつけるもんだ」とあきれる女性がいます。

今回は、そんな純朴な方々に注意を喚起してもらうためにも、あえてそのお話をすることにします。

それはもう三年も前のことです。

人探しの調査の依頼に来られた男性は当時二十八歳で、見るからにスポーツマンタイプのさわやかな印象を受ける好青年でした。

彼の話はこうでした。

「三ヵ月くらい前、友人三人とおもしろ半分でダイヤルQ2のパーティーラインに電話したんです。そこでつながった一人の女性と意気投合し、話も盛り上がりました。その時、電話番号を彼女に教えたので、それからは彼女の方からちょくちょく電話が入るようになったんです」

十数回も彼女と電話で話していれば、『一度彼女に会ってみたい』と思うのは当然のことで、彼は彼女を何回か誘っています。 しかし、その度に彼女はなにやかやと理由をつけては会おうとしなかった、といいます。私は、そこまでの話を聞いただけで、どうも『くさい』と思いました。

<続く>

名前の分からない彼女(2)| 秘密のあっ子ちゃん(147)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

「見つかるでしょうか?」と彼は聞く。

しかし、探偵社としてはこの質問が一番困ります。

依頼者としてはそれが一番の関心事だということは、私としてもじゅうじゅう承知なのですが、調査というのはやってみないと分からない。

材料が少ないから調査が判明しないということでもなく、逆に多いからといって絶対に見つかるとも限らないのです。それこそケースバイケースなのであって、調査に入る前の予測などまるで無意味です。最善の方策は、「判明に向けてあらゆる努力をする」ということしかありません。

ともあれ、私たちは「せめてもう一度だけでも会いたい」という彼の気持ちを受けて、東北新幹線で出会った彼女を捜すことになりました。しかし、あまりにも手掛かりが少ない。そもそも、依頼人は彼女の名前すら聞いていないのです。名前が分かっていないということは、調査するにはかなり厳しい事態です。

分かっていることと言えば、彼女は高校を卒業したばかりで、サッカー部のマネージャーをしていた。そして、仙台駅から乗車してきたということだけ。

そこで私たちは真っ先に宮城県下の高校をピックアップしていきました。すると公立・私立合わせて四十八市町に百十八校もの高校があったのです。

その百十八校すべてに対して、サッカー部があるか否か、昨年度のマネージャーは女生徒だったかどうかをしらみつぶしに当たっていきました。

こうして、彼女の高校をかなり絞り込めていけたのですが、ここでまた障害が立ち塞がってきました。

例のごとく『プライバシー保護のため』という理由でなかなか、その女子マネジャーの連絡先を教えてくれないのです。何度も学校に足を運び頼み込んだ訳ですが、学校側が「どうしても教えられない」という人については、やむなく先方の方から当社に連絡を入れてもらうようにしました。しかし、これは”賭け”と言えるもので、学校側がちゃんと相手先に打診してくれたとしても、先方の方で『なんのこっちゃ。なんで私から連絡せなあかんねん』(と大阪弁では言うわけはありませんが…)とつむじを曲げられては、この調査はおしまいです。

三日経ち、一週間が経ちました。それまでに調べることのできた女子マネージャーの中には、該当者はいない旨の確認は既にとれていました。 望みは連絡待ちのあと三人だけです。

八日目の朝、電話が入ってきました。それは頼み込んでおいた学校の先生でした。

「本人に連絡をとりましたところ、お宅がおっしゃっている日には東京には行ってないということです。人違いだと思いますよ」

「そうですか。わざわざご丁寧にありがとうございました」

残るは二人です。

『何としても連絡を入れてほしい!』そう願わずにはいられませんでした。

そして、ついに十日目の夕方、二人のうち一人から電話がありました。

「わざわざ電話までしていただいて、つかぬことをお伺いして申し訳ないのですが、今年三月六日の土曜日の午後四時ごろ、新幹線に乗られませんでしたでしょ

うか?」と私が聞く。

「えッ?」と彼女。

「何かその日は、就職後に下宿する東京の親類の家へ行かれるとかで…」

「あーあーっ、思い出しました。乗りました!」

思わず『やった!』と叫びそうになりました。

 

連絡待ちのサッカー部女子マネージャー二人のうち、一人からやっと電話が入りました。ついに彼女こそが依頼人の探している東北新幹線車内での「一目惚れの人」だということが判明したのです。

「あぁ、思い出しました。その日、新幹線には乗りましたが、それが何か?」と不審がる彼女。

そりゃあ、いぶかるのは当然のことです。

「実はあの時、あなたの隣に座っていて、仙台から上野まで話をされた男の人を覚えていますか?

「ええ、覚えています」

こうなると話はうんとしやすくなります。

私が彼女と別れてからの彼の気持ちやこれまでの経過を説明すると、最初は少し照れていた彼女も、彼に対してまんざらでもない様子で、一度会うことをOKしてくれたのでした。

約束のデートの日、彼がめかしこんで出掛けて行ったかどうかは知りません。はたまた、その後二人が交際を始めたのかどうかも、彼からの連絡がは入っていない今、知る由もありません。

ですが、あの電話の感触では何とかうまくやっているんじゃないかなぁ、と思っています。

<終>

名前の分からない彼女(1)| 秘密のあっ子ちゃん(146)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

当社に人探しの調査を依頼されてこられる方のなかでも、二十歳代の人たちは、前回お話ししました中年の方とは異なり、男性・女性半々の割合で依頼しにこられます。

それも『思い出の人探し』ということよりも、「ひと目ぼれの人を探してほしい」とか「三回デートしたけれど、突然連絡がとれなくなった」という”現在進行形”が多いようです。

今年の四月にもこんな依頼がありました。依頼人は、東京在住の二十四歳の営業マン。三月初旬、彼は盛岡からの出張の帰り、東北新幹線に乗車していたそうです。仙台駅で若い女性が乗り込み、空いていた彼の隣の席に座りました。ふとしたことから二人の会話が始まり、上野駅へ着くまでの二時間あまり、話が大いに弾んだそうです。

二人は新幹線を降りると「じゃあ、お元気で」と行きずりの人に交わすごく普通の挨拶をして別れました。

ところが、それから三日ほどしてから、彼はどうにも彼女のことが気になって

仕方なくなってしまったのです。

こういうケースは結構よくあります。その時は何とも思わなかったのに、あとになって気になって仕方ないということが、です。

人というものは、「その時は何とも思わなかったのに、しばらくしてその人のことが気になって仕方ない」ということが多々あるようです。当社にもこうしたケースがかなり持ち込まれます。

が、手掛かりの少ない場合が多く、『もっときちんと聞いておけばいいのに』と思ったりするものです。(マ、そういうことがあるからウチの商売も成り立つのだけれども…)

今回取り上げる男性(24)の場合も、その時ばかりはこれといった感情を相手に抱いてなかったものですから、彼女の名前すら聞いてなかったのです。

仙台から上野までの新幹線の車中で二時間も、ずっと話をしていながらです。 分かっていることといえば、彼女は高校三年生でサッカー部のマネージャーを務め、卒業したら東京での就職が決まっている。その日は就職後の下宿先の親せきの家へ挨拶に向かう途中だ、ということ。それだけなのです。

調査するにはあまりにもあいまいな材料ばかり。

彼は彼で、自分なりに調べようと努力したそうです。しかし、この漠然とした材料ではどこから手をつけたらいいか分からず「困り切った」らしいのです。

人は『ひょっとすれば二度と会えないかも知れない』と思うと、余計思いが募るようです。会って三日も経ってから急に気になり出す。探し当てるにも目ぼしい手掛かりどころか、名前すら聞いていない。

「どう探せばいいのか…。分からない」

時が経てば経つほどますます『もう一度会いたい』という思いが強くなっていくる。仕事中も彼女のことが頭から離れなくなる。

ほとほと困り果てていた時、たまたま当社のことを知って急いで電話してきたという具合なのです。

<続く>

連れ去られた?娘(2) | 秘密のあっ子ちゃん(142)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

 

家出した一人娘の調査を依頼してきた父親の話はまだ続きました。実は今回が初めての家出ではなかったというのです。

「そうです。最初の時(二月の家出)は友達関係にいろいろ聞いて回って、三日目ぐらいに京都でアパートを借りている短大の友人の所に泊まっていることが分かったんです」

「じゃあ、彼と一緒だったわけではないんですネ」と私。

「当たり前ですよ。あの男と一緒だったらただでは済ませませんよ」

「!?・・・で、お嬢さんはすぐに戻ってこられたんですネ?」

「いや、言うことを聞かず、また逃げようとしたので『卒業したら結婚させ

てやる』『それまではちゃんと家から学校に通え』と言い含めて連れて帰ってきたんですワ」

「それではなぜ、また家を出られたんですか?」

「そんなん、連れて帰る口実に決まってますやろ」

(そら、だましたらあかんワ!)

私は半分以上、あきれ顔。「マ、お話を聞いてますと、この場合は仕方ないんじゃないですか?」。

ところが、このお父さん、私の話を全然聞いていない。

席を立ちながら「まあ、そういうことなんで、あとは家内とよく打ち合わせて下さい。私は、これからちょっと仕事がありますので失礼させてもらいます

けど、よろしゅう頼んます。あてにしてまっさかいに!」と言うやあたふたと

出て行ってしまったのです。

「なんちゅう親父や!」。ムッとしている私に、お母さんが初めて口を開き

ました。

「すみません、主人はご覧の通りの性格ですので、私が何を言っても聞く訳

がありません」

「しかし、ご主人があれでは娘さんを見つけられても同じ繰り返しだと思い

ますヨ」

「私もそう思います。ですから、このお話、主人に断っていただけませんでしょうか?」

「実は、私もお断りしようと思っていたのです」

「そうしていただけませんか。それで、主人には内緒で私が依頼したいんですが、それを受けてもらえないでしょうか?」「え!?」本当に突拍子もない夫婦だと思いましたが、お母さんの方がよほど娘さんの幸せを考えていました。「主人は当分娘の結婚は認めないでしょう。子は親の言うことを聞くものだと

思っていますから…。私もこの緑談は、初めは乗り気ではありませんでした。だけど、こうなった以上娘の生活が成り立つようにしてやりたいのです。こ

のまま放っといたら、大学生の彼と苦労するのは日に見えています」

さらに、「せめて私だけでも娘の味方になってやらねば。二人は私が隠

します。主人にはいずれその時期がきたら話します」と。

そういう話ならと、私はお母さんの依頼を受けることにしました。

しかし、時間的余裕はありません。あの父親に見つかる前に、こちらで彼女たちを”保護”しなければならなかったからです。

そもそも若い二人の「駆け落ち」というのは、たいていだれかにその居場所を告げているものです。

ところが、短大生の彼女は『大学を卒業すれば結婚を許す』と、父親にだまされて連れ戻された前回の「苦い経験」から、自分の友人のだれにも連絡をし

ていませんでした。

友人たちも今回ばかりはかなり心配していて、私に嘘を言っている素振りはありません。

一緒にいる彼のご両親はというと、彼女の父親に怒鳴り込まれて初めて事態を知り、困り果てていました。

そこで私たちは、二人がバイトで働いていそうな大学周辺を軒並み当たりました。マ、人間というのは、全く知らない土地には行きにくいものですから。

聞き込みを開始して一週間目、苦労のかいあってやっと彼女がバイトをしていたファーストフード店を見つけたのです

彼女は、お母さんが味方だと分かって大変喜んだのは言うまでもありません。

あれから半年、無論、父親はまだ二人の仲を許してはいません。

しかし、私は、一見おとなしそうだけれど芯の強いあのお母さんがついている限り、「二人はまず大丈夫だ」と確信しています。

<終>

連れ去られた?娘(1) | 秘密のあっ子ちゃん(141)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

今回から家出人捜索のお話をしたいと思います。

家出人や蒸発者の捜索は、家族からの依頼だけに限ってお受けしていますが、ひと口に家出人と言ってもさまざまな事情があります。

ある日突然、会社から戻らなくなった夫。

子供に置き手紙を残し、ほんの少しの身の回り品だけを持って消えた妻。

「定職につけ」と厳しく叱った翌日からどこへ行ったかわからないプータローの息子。

駆け落ちをして電話一本の連絡もない娘…などなど。

まずは、今年の春に家を飛び出した十九才の女性のお話から始めます。

最初に彼女の父親から電話があったのは、三月下旬でした。

彼女は一人娘で、両親と共に奈良市に住んでいました。父親は船場の老舗の店を経営し、彼女は京都のある短大へ自宅から通学していたのです。
それが父親の話による一と、卒業を目前に控えた三月三日、何の置き手紙もなく突然、「家を出た」というのです。
相談に来られたご両親はさすがに傭伴(しょうすい)されていました。
「ひとり娘が短大の卒業を目前に、何の置き手紙もなく家を出てしまった」こう言って飛び込んでこられたご両親はひどくやつれたように見えました。

特に母親の方は見るのも忍びがたいほどで、私は『ご両親の心痛はいかばかりか』と、相談の内容を詳しく聞き始めたのです。

ところが、ところがです。父親の話を聞いているうちにだんだんと腹が立ってきました。

つまり、こうでした。

「娘さんが家出される原因に何か心当たりはおありですか?」

「あります。男に連れ去られたんです」

(え!?なにそれ?)

「『連れ去られた』と言うと誘拐ですヨ」と私。

「いやいやそうじゃなくて、その男というのは娘の高校時代の同級生で、親に隠れて四年もつきおうとったらししいです。今年の正月、その男がウチにやってきて、『将来、結婚させてほしい』というもんで追い返してやったんです」「娘は親の言うことをよく聞く素直な子やったのに、それ以降というもの反抗ばかりするようになって、みんなあの男がそそのかしているんですワ」

 

一人娘が短大の卒業式を前に家出したと相談に来た父親の話をよくよく聞いてみると、それは「家出」ではなく「駆け落ち」でした。

・また、このお父さんがひどい。

「結婚を前提に交際したい」と筋を通してあいさつに来た娘の同級生を怒鳴って追い返す。しかも、それからというもの反抗的になったお嬢さんの態度もその男性がそそのかしたのだという。そして彼女が家を出た理由に至っては「男が娘をだまして連れ去った」と言い出す始末なのです。私はと言うと、この父親の話を聞いているうちに、もちろんムカムカしてきました。(これじゃあ、娘さんも家を出たくなるわなあ)(いまだにこんな父親がいるんやなあ)しまいにし、頭痛を通り越して「ウーム」と感心してしまいました。

しかし、まだ納得するには早かったのです。

「正月、あの男を追い返してからというもの、素直だった娘が反抗的になって二月の初めに最初の家出をしたんです」

「えっ!?家を出られたのは今回が初めてじゃないんですか?」

<続>

依頼の理由は嘘で…(2) | 秘密のあっ子ちゃん(137)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

 既に購入した分譲マンションからそう易く引っ越しする訳にもいかず、彼女は困っていました。
 「私の居所が分かれば、彼はまた私を引っ張ろうとして、嫌がらせをしてくるに違いないと思います」
 「う~ん。そんな陰険な人なんですか?」
 依頼に来た時の印象とあまりにも違う依頼人(39歳)の人物像に、私は再度彼女に尋ねました。
 「本当に外づらはいい人なんです。私もつきあい始めたときは、そんな人とは夢にも思いませんでした。婦長さんも彼が入院していた頃との豹変ぶりにびっくりされていましたもの。結局は私の見る目がなかったということだと思ってますけれど…」
 これから彼の対応を考えると、「まずい、困った、どうしよう」と動揺があるであろうに、彼女は淡々と私に話してくれました。それが却って、彼女の言っていることこそが真実であるとの印象を強くし、彼女の人柄の良さと芯の強さが窺えたのでした。
 しかし、私はふと疑問を持ちました。
 「でも、それだけあなたに嫌われているのが分かっているのに、彼は何故そんなにひつこく追ってくるんでしょうねぇ?金のことでも絡んでいるんですか?」
 「確かに、これまで二百万円くらいは貸しています。でも、今は私からお金を引き出すためということではないと思います。もう、私もそんなにお金を持っていないのは、彼も知っていますから……」 
 彼女はそんな風に答えて、こう続けたのです。
 「私もお金を貸しているということがありましたから、ずるずるとこうなってきてたんですけれど、そんなことをしていればいつまでも切れませんから、お金のことはもういいんです。私としては、彼とは縁を切って、一からやり直したいんです」
 私は「なるほど」と思い、何とか彼女の力になってあげることはできないものかと考えていました。
 「では、あなたとしては、今、どういう風になるのか一番いいのですか?」
 私は彼女に尋ねました。 「それはやはり、彼が私のことを諦めてくれて、私の目の前から去ってくれることです」
 「では、こうしましょう」 彼女の意志を確認して、私は一計を講じました。
 「彼は私達にあなたとコンタクトを取ってほしいと依頼されてきたのです。これまでの経過を聞いていますと、ただ単に『彼女はあなたと接触するのは嫌がられています』と伝えたところで、彼があっさりあなたを諦めるとは考えられません。彼にあなたの前から消えてもらうには、少し荒療治になりますが、私は彼にこう伝えましょう。……」 私は彼女との話がついた後も、わざとすぐには依頼人に連絡しませんでした。彼女に連絡を取って、全ての事情を聞いた翌日、今度は彼女のお母さんから私あてに電話が入りました。 「この度は本当にお世話になっております。娘のしでかしたこととは申せ、あの人のひつこさにはほとほと困り果てていたんです。今は警察の方にパトロールを強化してもらったり、いざという時には知り合いの弁護士さんにお願いしたいと申し上げているところなんですけれど、実際、娘の勤務先や住居を変えても、これまでのあの人のやり方を見ていますと、『いずれ突き止められてしまうのでは』と、娘とも話していた矢先だったんです。それが、娘の調査をあの人がお宅さんのようなところに頼んでくれたのは不幸中の幸いだと思っています。本当にお手数をかけますが、何とかよろしくお願いします」
お母さんは、ただただ「くれぐれもよろしく」と私におっしゃるのでした。それを聞いただけでも、私には彼女達母子がいかに依頼人のやり方に困り果てているかがよく分りました。 私にしても、お母さんにひたすらお願いされなくても、乗りかかった責任上、何とか彼女が今後平穏に暮せるように力になりたいと考えていました。私だって、善意の人探しであるべきこの調査を、その動機を偽って彼女の居所を探させようとした依頼人には腹を立てていたのです。
 「当社では依頼時の契約の折りに、依頼人がご自分の氏名や住所、動機などについて、虚偽の内容をおっしゃっていた場合は即刻調査を中止し、違約金を申し受けることを明示しているくらいです。マ、今回、違約金ウンヌンなどと言うつもりはありませんが、何とか彼女が依頼人のひつこさに煩わされないように協力させていただくつもりです」 私は彼女のお母さんにそう伝えました。
 その後、私は依頼人にこんな風に対処したのでした。 まず、しばらくはこちらから依頼人に対し何の連絡もしませんでした。十日程が経った頃、依頼人の方から連絡が入ってきました。 「彼女へのコンタクトはどうなっていますか?」  「それが、大変だったんですよ。ちょっと様子がおかしいんです。その辺り、何か心当たりはないですか?」 
 私は「待ってました」とばかり、こんな風に答えたのです。
 「それが大変なんですよ。いつ行っても彼女はいらっしゃらなくて、まだ直接彼女とは接触できていないんです。ところが問題はお母さんで、異常に警戒心が強いんです。その警戒心は尋常ではなく、スタッフも『何か事情があるようだ』と言っています。あなたならその辺のことをよくご存じではないかと思いまして、一度お聞きしようと思っていたんです。何かお心当たりはないですか?」
 依頼人は一瞬絶句して、こう言いました。
 「……。いや、僕は分かりません。……。お母さんはどんな風な対応だったんですか?」
 「スタッフが『彼女にお伝えしたいことがあるのでお伺いした』と申しますと、どこの誰でどんな用件なのかを根掘り葉掘り聞かれるんです。こちらの社名とスタッフの氏名を名乗りますと、誰からの伝言なのかをしつこく聞かれます。あなたからは『恥ずかしいので、彼女以外には自分の名前を出さないでほしい』と言われてますので、困っていたところです」
 「彼女のお母さんに納得していただくためには、あなたのお名前を出さなければならない状況なのですが」 私がそう説明しても、依頼人は黙ったままでした。
 「あなたのお名前を出しても構いませんか?」
 私は再度念を押して尋ねました。
 「……いや、やはりそれは困ります。彼女本人ならいいですが、お母さんにはどうも…。何とか彼女直接に連絡を取ってもらえないでしょうか?」
 彼は言いました。
 「そうなると、少し時間がかかるかもしれませんよ」 私はそう答えて、彼女とコンタクトが取れれば、すぐにでも依頼人に報告すると告げたのでした。
 翌日、私は彼女に連絡をして、依頼人による嫌がらせは起きていないかを確認しました。
 「今のところは何も起こっていません。きっと、彼は私の居所が分かっても、佐藤さんとこに任せてあるので、今は安心しているんだと思います」 
そして、こう続けたのです。 「一応、私も自宅を出入りする時は気をつけるようにしているんですけど…」 私もその方がいいと思いました。というのも、私達が彼女の自宅への嫌がらせを止めることができたとしても、依頼人(39歳)が新しい勤務先まで知ってしまうと、また何を考えるか分からないと感じたからです。
 「帰宅時よりも、仕事に行かれる時を注意された方がいいですよ。今も車で出勤されているのですか? そしたら、尾行されているかどうかの確認はこうされたらいいでしょう」
 私は彼女に、依頼人が尾けているかどうかの確認の方法と、万が一尾けられていた場合の巻き方のアドバイスをしたのでした。
 そういう風に手を打っておいて、私は依頼人への報告書を作成しました。
 「彼女と何度もコンタクトを取ろうとしましたが、なかなか連絡が取れませんでした。あまりにもご連絡が取れないので、スタッフが住所地へ出向くと、彼女の母親が管理人や知人をすぐに呼ばれて、かなり厳しく追求されました。『不審人物』として警察も呼ばれそうになりましたが、事情をお話し、また当社スタッフが女性であったため、事が大きくならずに済み、最終的に母親のお話を聞くことができました」
 「母親はこんな風におっしゃっておられました。
 『お宅に詳しい理由を言う訳にはいきませんが、娘は病院の患者さんと個人的なトラブルがあって、それが原因で病院も退職しました。事情を知って、親としては聞きづてならないことでしたので、私が昔から懇意にしている警察関係の人に預けました。本人は今、その人の保護下にあります。二度とこんなことはあってはならないことですので、監視をしてもらっているのです。学生時代や職場の同僚の方とは連絡を断たせています』……」 
 私の報告書はさらに続きます。
「『娘は私の知り合いの警察関係の人に預けてあります。本人は今、その人の保護下にあって、二度とこんなことが起こらないように、監視してもらっています。学生時代の友人や職場の同僚との連絡は断たせています』」
 「『私には娘と連絡を取りたいと言っておられる方はどなたのことかだいたい分かります。娘が病院を辞めざるを得ない原因を作った人だと思います。もし、その人であれば、今、私がお話ししたことの意味はお分かりのはずです。その人に伝えてほしいのですが、そっとしておいてくれるのなら、これ以上何も言いませんが、また今度そういうことがあれば、親としては警察に行って事件にする腹を決めています。その辺のことは警察と弁護士ともよく相談しました。本人のためを思ったら、これ以上つきまとわないで、そっとしておいて下さい』」
 そして、
 「当社としましても、彼女のお母様の話で、だいたいの事情は察することができました。お母様のご要望どおり、そっとしておいてあげるのが、ご本人のためと思われます」と付け加えて、依頼人に送ったのでした。
 そうしておいて、彼女とお母さんに依頼人に送った報告書内容を伝えました。 「こういう形で報告書を送ってありますので、ここ二週間程は気をつけておいて下さい。これで、本人があなたに付きまとうのを断念すれば動きはないでしょうが、まだ諦めないのなら二週間くらいの間に必ず動きを見せると思います。その様子を見た上で、次の方策を考えましょう」
 私は言いました。
 「それでは、その二週間は自宅に戻らず、よそに行っている方がいいでしょうか?」
 彼女は尋ねました。 「そうですねぇ。どこか泊まれる所があれば、それにこしたことはありません。それと、もし動きがあれば、対応していただかねばならないのはお母さんですから、その辺のところをくれぐれもよろしくお伝え下さい」 そう私は答えました。彼女は大事を取って、しばらくは叔父さんの家に寝泊りすると言いました。
 「もし、依頼人に動きがあれば、対応していただかねばならないのはお母さんですから、その辺のところをくれぐれもよろしくお伝え下さい」
 私が彼女にそう言うと、早速、電話口にお母さんが出られてました。
 「今が娘の正念場ですから、佐藤がおっしゃられるようにさせていただくつもりです」
 二週間がたちました。
 依頼人から当社へは何の音さたもありませんでした。私たちにはあれだけうそを言っていたわけですから、具合が悪くて連絡どころか質問すらできないのだろうと思えました。
 しかし、やはり気になって、私は再び彼女に家に連絡を入れました。
 「ずっと気を付けていましたが、お陰さまで全く動きはありません。佐藤さんが書いて下さった報告書が功を奏しているように思います」
 お母さんの話でした。
 私は確認のためによほど依頼人に連絡を入れ、状況を探ってみようかとも考えましたが、かえってやぶへびになってもいけないと思い、このままもう少し様子を見ることにしました。
 「それでは、もし何らかの動きがあれば、すぐにご相談下さい」
 私はそう言って、電話を切ったのでした。
 ひと月がたったころ、彼女とお母さんが連れ立って当社にやってきました。
 「このたびは本当にお世話になりました。あれから、娘の周りには変な動きは何ひとつありません。おそらくあれで観念してあきらめてくれたんだろうと思います。これもすべて佐藤さんとこのような調査会社がかかわってくれたおかげです」
 お母さんはただただ私にお礼をおっしゃるのでした。彼女はまたこうも言いました。
 「いい勉強をさせてもらったつもりで、今後は男の人を見る目を養っていきたいと思っています。
 こうして、この件は一件落着したのでした。

<終>

依頼の理由は嘘で…(1) | 秘密のあっ子ちゃん(136)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

「ストーカー」という言葉があります。最近テレビで放映されて以降、我が社もマスコミの取材の折によく質問されます。
「『思い出の人を探したい』と言って、ストーカーみたいなことにはなりませんか?」
海外では、つけ狙われ追い回された女性が精神的な被害を蒙ったり、車などを傷つけたりするため、問題がクローズアップされて、「ストーカー法」なるものも作る動きがあるとか…。しかし、翻かって我が社へ依頼されてくる人について考えてみると、ストーカーに変身することはまずないと私は断言できます。
というのも、この問題は全て依頼の動機に関わるからです。「思い出の人を探したい」と言って来られる依頼人のほとんどは、相手が「元気かどうか」「幸せかどうか」と気づかって来られる、いわば「善意の人探し」です。
同時に、私達も「何故、探すのか」という動機を必ず聞きます。嘘を話されていると、辻褄が合わないとか、ニュアンスがおかしいとか、「そんなことで、お金を出してまで探す?」と疑問が湧いてきます。ですから、当然突っ込んで聞くことになります。すると、依頼者の方がしどろもどろになってくるのです。
例えば、金融会社が居所不明になっている債務者を安く調査させようと、「中学校の頃の同級生」と言ってくることもありました。しかし、話を聞いていると、本籍やつい一、二年前の勤務先など、とうてい「中学校のころの同級生」では知り得ないことを知りすぎていて、その嘘がすぐに分ってしまったことがあります。 あるいは、追いかけ回そうとか何かの仕返しをしようと考えて依頼されてきても、依頼人の「気がかりでしかたがない」という想いの発露がないため、二、三十分も話していれば、「この動機は嘘だな」と結構分ってくるものです。
しかし、今まで一例だけ、当の相手を探し当てるまで、依頼人の嘘が分らなかったケースがありました。
その依頼人は三十九才の男性でした。三年前、彼は腎臓を患い、ひと月程入院した経験を持っています。 彼が探してほしいという人は、その時に大変お世話になった看護婦さんでした。その人は二十七才で、仕事振りはなかなかてきぱきとしており、患者への対応もとても親切だったと言います。
彼は退院直後にお礼の品を送りたいと思い、病院に問い合わせて、この看護婦さんの住所を教えてもらっています。その後、何回か年賀状などのやりとりをしたということでしたが、今年の正月には「宛名不明」で葉書きが戻ってきたとのことでした。病院に問い合わせると、彼女は既に退職していて、その後の勤務先などは分からなかったのでした。
依頼人は私達にこう言いました。
「今、どうされているのか、気になって…」
こんな話なら、よくあるケースです。何年も経ってから、入院中にお世話になった看護婦さんに「一言お礼が言いたい」とか、「実は憧れていたので、再会したい」というケースは結構多いのです。ですから、この人探しの調査の依頼もそうしたケースの一つとして、私達は考えていたのでした。
もともと、依頼人は彼女のつい最近までの住所を知っていましたので、私達はまっ先に近所への聞き込みに入りました。彼女は依頼人が「非常に親切な看護婦さん」と言っていたことが頷ける程、近所でもとても評判のいい人でした。この近所の聞き込みで、「懇意にしていた」という人からこんな情報を得ることができました。
「あの人は本当にいいお嬢さんですよ。お父さんとお母さんは離婚されたんですけど、そんな暗い影は一切なくてネ。妹さんが嫁がれてからは、彼女がお母さんの面倒を見ておられたみたいですよ。もちろん、お母さんもパートに出て働いておられましたけど…」
「それが、半年くらい前に急に越されましてネ。何でも、妹さんの嫁ぎ先のそばだって言っておられましたけど…。あんまり急だったんで、私達もびっくりしたんです」
この話から、私達は妹さんの嫁ぎ先の近辺を丹念に当たって、彼女の現住所を判明させることができたのでした。
彼女の居所は判明してきました。
その報告をして一週間が経った頃、依頼人から、今度は彼女にコンタクトを取ってほしいという希望が入ってきました。
私達はすぐさま彼女に連絡を入れました。そして、その時の彼女とのやりとりで、なんと、依頼人が彼女を探したいという動機について嘘を言っていたことが発覚したのでした。
「実は、お宅様が以前お勤めされていた病院で、大変お世話になったという患者さんが、あなたが今、どうされているのか気になさって、お探しだったんです」と私。
「……。」
反応がありません。
私は変だなと思いました。というのも、普通こう言った場合、「まぁ!どなたですの?」とか、「いやぁ、そんな気にしていただいて有り難いです」というように、ほとんどが驚きと喜びの反応を示されるからです。 「ひょっとして、私を探しているというのは○○さんではないですか?」
「ええ。よくお分かりですね」
彼女の方から依頼人の名前が出ました。でも、その声は暗く沈んだものでした。 「…。その人のことは、私、困っているんです」
彼女は「お宅を信用して話しますけど」と前置きして、意外な話を始めました。 「確かに、彼は私が勤務していた病院の患者さんでした。初めは患者と看護婦という間柄だったんですけれど、彼が退院してから、私達、つき合うようになったんです。ところが、彼はとてもやきもち焼きで、仕事として患者さんに接していても、あれこれと疑い、私を責めることが多くなってきたんです」
「それがあまりにもひどくなってきて、私も嫌気がさしてきたので、別れ話を出したんです。そしたら、彼、病院まで乗り込んできて、自分の治療の時に『私がミスした』と喚き散らしたり、仕舞いには『俺から離れようとしたら、病院も勤められへんようにしてやるからな!』と脅したりするようになったんです」
私はびっくりしました。 「まぁ!最初に依頼されてきた時の話と随分違いますよ」
「そうでしょうね。あの人は外づらはとてもいい人ですから。今となれば、そもそも、私に男の人を見る目がなかったと思っていますが…」
彼女の話は続きました。
「彼が病院に乗り込んで来て、私が治療ミスしたと喚き散らした時は、婦長さんが対応して下さったんですけれど、そんな事実は全くありませんし、何度も乗り込んで来ますので、病院側も彼の対応に手を焼いていたんです。それで、婦長さんが心配して、私に事情を聞かれたんです」
「彼はそんなに荒っぽい人なんですか?」
私は思わず話の途中で口を挟んで尋ねました。
「いえ、日頃はおとなしくて、温厚、誠実な人柄に見える人です。病院へ乗り込んで来るようになったのは、私が別れ話を出してからです」
「そうでしょうねぇ。依頼に来られた時も、そんなことをするような人には見えませんでしたもの。で、婦長さんは何ておっしゃったんですか?」
「初めは私も病院に迷惑をかけたくなかったので、自分で何とかしようと思い、『何でもありません』とか『大丈夫です』とか答えていたんです。その話で私が彼に会うと、しばらくはいいんですが、私が避け出すと、また病院へやって来るんです」
聞く限りにおいては、彼女は依頼人の振る舞いには大変な想いをしたようです。
依頼人が依頼時に話していた内容と彼女の話があまりにも食い違っているので、私は驚いてしまいました。
「で、その後の対応はどうされたのですか?」
「彼が病院へやって来ては喚き散らすことがますますエスカレートしてきますし、私もこれ以上は病院に迷惑をかけたくなかったんで、婦長さんに事情を全て話して、病院を辞めたんです。」
「まぁ!そうだったんですか」
私はさらに驚いてしまいました。彼女は依頼人のせいで、病院を辞めるはめになっていたのでした。
彼女は続けました。
「婦長さんも理事長さんも私の話をよく聞いて下さって、『そんな事になっているなんて…。一人で抱えて大変だったでしょう?』と言って下さったんです。私、嬉しくて…。今、勤めている病院も理事長さんが紹介して下さったんです。だから、彼が病院に問い合わせても、私の居所は一切言わなかったはずです。今も時々、心配して電話を下さったりしていますから…。」 彼女の話はそれだけではありませんでした。彼女が依頼人によって迷惑を被ったのは、勤め先を変わらずを得なかっただけではなかったのです。
依頼人が彼女の次の勤め先を問い合わせても、病院側は言わなかったはずです。婦長さんも理事長さんも、依頼人のしつこさから彼女をかばっていたのでした。
彼女はこうも話してくれました。
「私、車で通勤していたんですけど、自宅のマンションの駐車場に停めてあった車を夜中に傷つけられたり、タイヤを四本ともパンクさせられたりしたことがあるんです」
「まぁ!そんなことまで!?」
私はまたまた驚いてしまいました。
「犯人が彼だという証拠は何もありませんが、そんなことを連続でするのは彼しかないと思ってます。その時は警察にも届けましたが、現行犯でなければどうしようもないと言われまして…。
タイヤをやられた時、ちょうど妹が遊びに来ていて、『お姉ちゃん!これなに!?』って言われるし、妊娠中の妹にあまり心配もかけたくありませんでしたので、その時は適当にごまかしておいたんですが…」
「で、その頃の彼の対応はどうだったのですか?」
「私が彼に文句を言うために会うと、機嫌がいいのです」
私は、彼女がほとほと困り果てていた様子がありありと想像できました。
彼女に別れ話を引っ込めさせるために、病院だけでなく、自宅の車まで嫌がらせをしてくる依頼人には、彼女もほとほと困り果てていたようです。 「妊娠中の妹には心配かけたくありませんでしたので何も言いませんでしたが、もうこうなると、一人ではどう対処していいのか分からず、母に相談したんです。母には『そんな男にひっかかって!』と随分叱られましたけれど、結局、家を替わろうということになったんです。その時まで住んでいたマンションは賃貸だったんですが、いずれ分譲のマンションを購入するつもりで、貯金もしていましたし…。ちょうど、婦長さんや理事長さんの計らいで病院も代わる話も出ていましたので、この際、勤め先も自宅も変えて、彼とは一切縁を切ろうと思ったんです」 彼女は私にそう言いました。
「そうでしたか。彼は私達にはあなたを探したい動機について嘘を言ってたんですねぇ。そういうことでしたら、このままではまずいですねぇ」
私は今後の彼女の身の上を心配していました。
「そうなんです。今の住居は購入したものですから、そうそう引っ越せませんし…」
彼女も困っていました。

<続>

ムッとくる依頼も・・・(2) | 秘密のあっ子ちゃん(133)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

 早速、スタッフは依頼人に娘さんの現在の居所が明らかになったことを伝えました。それに対して、彼の返答はこうでした。
「そうですか。それではすぐに私の手紙をそちらに送りますので、女性名で娘に送ってもらえますでしょうか?私の手紙の中味は読んでもらっても結構です」 「いえ、中味についてはこちらが見る必要ございませんので、そのままお嬢様にお送りさせていただきます」スタッフはそう答えて、料金の精算額を伝えたのでした。
 スタッフは彼からの手紙が届くのを待っていました。しかし、二週間経っても、三週間経っても手紙は届きませんでした。
 いつまでもこのまま放っておく訳にもいかず、処理に困ったスタッフは彼に連絡を入れました。すると、以外な返答が帰ってきたのでした。
 「昨日、そちらに葉書を送りましたので、それを読んで下さい」
 「そうですか。で、手紙の方はどうされます?」スタッフが尋ねます。
 しかし、彼は「葉書を読んでくれればいい」の一点ばりでした。
 翌日、彼からの葉書が届きました。
 「前略、お願い致しました件の事ですが、家も住所も分っているのに、手紙を娘に出すのでしたら、自分でできることです。以前の住所にいて、お宅の名で手紙を出すのでしたら、何の必要もありませんので、この件はこれで打ち切らせていただきます。有難うございました」
 彼と常時コンタクトを取っていたスタッフはこの葉書を見て、目が点になったと言います。当初の依頼内容を変えて、というより忘れたふりをして、料金の精算もせず、「有難うございました」で済まそうとしていたからです。
 そもそも、彼の依頼とは、十七年前に離婚してから一切会ずにいた娘に、自分が離婚した真相を伝えたいというものでした。そして、十七年前の住所は知っているが、引っ越ししたものか、嫁いだものなのかが分らない。しかも、居所が分っても先妻が自分の娘宛への手紙を開封する可能性があるということでしたので、娘さんが今どこにいるのかを調査した上で、当社の女性名で自分の手紙を送ってほしいというものでした。
 しかし、娘さんの住所が判明し、その内容を伝えて料金の精算額を伝えた途端、「もう必要ありません」として、「有難うございました」とだけで済ませようとしたのです。スタッフが「この人は何を考えているのだろう」と思っても無理はありませんでした。
 こんな依頼人はそう多くはいませんが、こすいと言おうか、ずるいと言おうか、人にはいろいろな人がいらっしゃるものです。
もちろん、当社としても判明した後に、当初の依頼内容を変えてこられて、「ご苦労様」だけで済ます訳にはいかず、正当な報酬として料金の精算額を入金していただきましたが、それでもこの方は、ああでもない、こうでもないと辻褄の合わないことばかりを言ってこられたと報告を受けています。

<終>

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