これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。
今回は、あこがれの人を探すことによって、仲間みんなに感謝されたお話をしたいと思います。
依頼人は、現在二十七歳になる女性です。
彼女は、高校を卒業すると専門学校へ通うかたわら、喫茶店でアルバイトを始めました。
その喫茶店は彼女の家からバイクで5分ほどのところにあり、彼女は「近いことが何より」と、アルバイトニュースで、従業員を募集していると知るとすぐに、その喫茶店で働くことに決めたのです。
そのお店は姉妹二人が切り盛りし、年齢も近いということもあって、彼女はすぐにママたち施妹と友達のように親しくなりました。
店はK大学正門のすぐ前にありました。お客さんは多くがK大生で、それも、この大学の男女比率を反映して、男子学生がほとんどでした。
彼らは、下校時や授業と授業の合間や、時には授業をさぼって、日に何度となくやってきました。
授業内容の話や、教授の批評、バイトのことや、女の子のこと、遊びの話・・・彼らはいつもそんな話をしていました。
彼女は、「大学生活って、こんなものか」と思ったものでした。
店に来る常連客の中で、一際目立つグループがいました。彼らは商経学部の2回生で、十人ほどが集まっていました。そのリーダー格の人は185cmほどの身長に、100kgはあるかと思われる大きな体でモミアゲから繋がったヒゲを顔じゅういっぱいに生やして、いつも大柄のパジャマのようなペラペラしたズボンをはいていました。大きな体にパジャマのようなズボンがアンバランスで、それが彼を余計目立たせました。
彼らは日に何度もお店へ来るので、彼女はすぐに彼らと親しくなりました。
彼女やママ達は、彼らを、『ヒゲさん達のグループ』と呼んだのでした。
ある日、ヒゲさんが見慣れない人を店に連れてきました。
彼は法学部の学生でヒゲさん達とは学部が違いましたが、グループの一人が 彼の高校時代の友人だということで、仲間に入ってきたようです。
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彼女は、彼を一目見るなり、「カッコいい!」と思いました。
彼は黒のタンクトップの上にモスグリーンのジャケットをはおり、黒いサングラスをかけていました。バジャマズボンのヒゲさんとは大違いでした。
ヒゲさんに連れられて初めてやってきた日から、彼もまた何度となく店へやってきました。彼はヒゲさん達と学部が違うので、取っている授業が異なり、一人でやってくることも多くありました。
彼女は、彼ともまた親しく言葉を交わすようになりました。
夏休みが明日から始まるという日、彼は、ヒゲさん達と待ち合わせのために一人でやってきました。
あいにく、席が満席で、遅い昼の休憩で食事をとっていた彼女に、『ここ、かめへんか?』 と言って、向かいに座ってきました。
そして、彼女がしている腕時計を見て、『そのミッキーマウスの腕時計は、君にはちょっとわかすぎるなぁ』と言ったのでした。
<続>
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