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差出人名のない年賀状(2)| 秘密のあっ子ちゃん(203)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

差出人名のない年賀状が来るようになって五年目、依頼人の板前さんの男性(四六)はそれが彼女に間違いないと思うようになりました。
それは確たる証拠があった訳ではありません。が、彼にはそんな気がしてならなかったと言います。
その年、彼は彼女に手紙を出してみました。 しかし、それはあて先不明で戻ってきたのです。
手紙を出した時は『何となく』であったにもかかわらず、いよいよ彼女と連絡が取れないということがはっきりすると、彼はますます彼女の消息が気になってきたのだそうです。
彼は休みを利用して、十年ぶりに東京のアパートへ行ってみました。
すると、そこはアパートも大家さんの家も全て取り壊され、さら地になっていました。
近くのたばこ屋さんで聞くと、大家さんの家はもう三、四年も前に人手に渡り、今は新しい地主がビルを建てるために整地しているのだということでした。
大家さん一家が、なぜ土地を売り、そこを出て行ったのか。また、どこへ引っ越して行ったのかということについては、それ以上詳しくは分からなかったそうです。
その時の彼としては、それ以上、自力で彼女を探す手だても分からず、結局、彼女と再会することをあきらめたといいます。
しかし、あの差出人不明の年賀状は次の年も、その翌年も来ました。
彼はその年賀状を見るたびに、自分から彼女に連絡を取ることができないもどかしさにイライラしたと言います。
なす術もなく、そうしたことが十年近く続いた昨年の正月も、いつものように年賀状は彼の元に届きました。元旦にその年賀状が届くと、彼は安心します。
『元気だったんだなあ』と。
そんな矢先、彼は偶然、当社の広告を目にしたそうです。『これで、毎年のは がゆさが解決できる』。彼は早速、調査を依頼してきたのでした。
彼は、彼女の所在が分かりすぐにコンタクトを取れれば、「『自分の方から彼女に連絡を入れてもいいか』ということも聞いてほしい」と依頼してきました。
私たちは、とにもかくにも、大家さんが住んでいた家の近所と新しい地主に聞き込みに入りました。
かれこれ二十年近くもたっているので、みんなの記憶は随分薄れてはいましたがその当時、大家さんは友人の連帯保証人となり、全ての不動産を手離さざるを得なくなったのだというこ とです。
私たちは、地主さんからその時仲介した不動産屋を教えてもらい早速、そこへ行ってみました。
運よく、その不動産屋では、当時担当した人がまだ在籍されており、何とか古い記憶をたどってもらって、「埼玉県の和光市に行ったのではないか」ということまで聞き出せたのです。  私たちは例のごとく、和光市で大家さんの姓の人物を片っ端から当たり、ついに彼女の実家を判明することができました。
彼女は十八年前に結婚し、二人の子供をもうけて、現在は神奈川県に住んでいたのです。
私は、依頼人の要望どおり、早速、彼女にコ ンタクトを取りました。
「実は、今日お電話させていただいたのは、○○さんのことなんですが・・・」と言い終わらな いうちに、彼女は「彼がどうかしたんですか?」と矢継ぎ早の質問責め。
「そうですか。探してくれたんですネェ」
「あなたに迷惑がかかってはいけないと、彼の方から連絡してもいいかどうか気にされているんですが・・・」
「すぐに電話してもらって下さい。このまま、電話の前で待っていますから」
私は思わず『!』でした。今すぐにと言われても 彼は仕込みで一番忙しい時間帯。こちらもそんなにすぐに彼と連絡が取れない。
とりあえず翌朝、彼の方から電話を入れてもらうということで、私は電話を切ったのでした。
差出人不明の年賀状の当時者はやはり彼女だったのか。もしそうならば、なぜ名前を書かずに毎年送っていたのか・・・などという質問は、彼の『楽しみ』にとっておいたのです。

<終>

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