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あまりに早い奥さんの死(1)| 秘密のあっ子ちゃん(249)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

昨日、とても悲しい知らせが届きました。
「前略 先日は妻の件で大変お世話になりました。お礼申し上げます。
去る7月7日、妻は他界いたしました。
貴社様にたずね人の調査をお願いいたしました方とは無事連絡がつき、励ましのお手紙をいただきましたが、妻の生前にはお会いすることができませんでした。しかし、葬儀には遠方よりお越しいただき、妻の仏前で合掌してくださいました。妻も満足であったに違いございません…」
手紙にはそう書かれてありました。
差し出し人は四十八才、東京在住の男性です。調査途中に一度だけ訪ねて来られました。誠実で優しそうな印象を与える人でした。 彼に調査結果を報告したのは今年の桜の頃です。全ての事情が分っていた私やスタッフは、その後彼から音信がなかったので、奥さんの容態を気にしていました。ですから、予想できたこととはいえ、手紙を読んだ時には私は言葉を失ってしまいました。
彼の奥さんは享年四十四才。あまりにも早い死でした。
明日は彼女の初盆。せめてお線香でもと、私はお供えを送りました。

彼が手紙で問い合わせてきたのは、二月の終わりのことでした。私は被災地での調査に走り回っている頃です。
「私は現在東京都に在住している者です。先日のテレビの放映番組で貴社様の存在を知り、一度お手紙でお伺いして、場合によればお願いしようとも考えている者です」
ワープロで打たれた手紙はそんな書き出しで始まり、手がかりとなる項目だけが列挙してあるものでした。そして、「返信用封筒を同封いたしますので、調査が可能かどうかご連絡下さい」とあったのです。
もちろん、何故探したいのかという理由は書かれていませんでしたので、その時点ではどんな理由で、どういう人が探したいのかなど、私には全く分りませんでした。なおかつ、依頼人の年令すらも分らなかったその時点では、連絡が取れなくなった恋人の所在を確認したい青年であろうとぐらいしか考えていませんでした。 とにもかくにも、その手紙を一見して、調査は可能だったのでその旨を連絡したのでした。
三週間程して 正式に調査を依頼したいと、再び届いた彼の手紙を見て、私は胸が詰まる思いでした。

<続>

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