これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。
九月の声を聞いてもまだまだうだるような暑さが続いていたある日、一人の女性から電話が入りました。
『いつも大阪新聞の『秘密のあっ子ちゃん』を読んでいる友人から教えてもらったんですけど、そちらでは家出人も捜して下さるんですか?』
今年四十六才になる彼女は一児の母で、その十九才の一人娘がある日、『絶対に捜さないように』という置き手紙一つを残して、家を出てしまったと言うのです。
『いろいろ手を尽しましたが、どこでどうしているのやら皆目見当がつきません。無事でいるのやら、ちゃんと食べているのやら、心配で心配で、いろていると夜も寝れないのです』彼女は涙声になり、居ても立ってもおれない母の気持ちがひしひしと伝ってきました。そして、『何とか捜し出してほしい』と切々と訴えられるのでした。
『とにかく、もう少し詳しい話を』と、その二日後に彼女は勤めの合い間を縫って、当社にやって来られました。
『で、娘さんはいつごろ家を出られたのですか ?』私達は早速、事情を聞き始めました。
『今年の正月のことです。7日の日でした。私が勤めから帰ったら、『絶対に探さないように』という置き手紙がありましたんで、もうびっくりしてしまいまして・・・』
『では、もう八ヶ月近くにもなるんですね?うーん・・・』
家出人捜索の場合、いかに早く手を打つかどうかで探し切れるか否かが決定すると言っても過言ではありません。ところが、彼女の場合、既に八ヶ月も経っているのです。
『うーん。ちょっと、間があきすぎていますねぇ』私は再び唸りました。
『興信所というのは何か恐そうで、どこに頼めばいいのか分らず、どうしたものか困り果てていたんです。本人の将来を考えるとあまり公けになるのも、と思いましたし・・・。先日、思い余って、親友に話しましたら、ここなら安心やと教えてもらったんです。もう他に頼る所はありませんので、何とか探してほしいんです!』彼女は再びそう訴えるのでした。
依頼人の話は続きます。
『娘の今後のことを考えると、『家出した』と友達に聞き回って余計帰りづらくなってはいけないと思い、何とか私の手
で探そうとしたんですが ・・・。今、ウチではカナダからのホームステイの子を預っているんですけど、その子にも『ちょっと親せきの家に行ってる』とだけ話してあるんです。だけど、いつまでもそれで通す訳にもいきませんし・・・』
『で、娘さんが家を出られた原因はお分りですか?』と、私と一緒に応対した担当スタッフが聞きます。
『ええ、進路のことなのです。実は、娘は今一浪で、予備校に通わせていたのですが、本人は漫画を描くのが好きで、将来は漫画家になりたいと言っています。私は大学へ入ってからやればいいと言うんですが、本人は 『それでは遅い』と。家を出る前はよくそのことで口論になりました』
『そうですか。警察にはもう届けられましたか?』
『ええ。それはすぐに届けました。でも、事故か事件に巻き込まれない限りは警察では動けないと言われたんですよ!』
『ええ。警察は民事不介入が原則ですのでねぇ』と私達。
<続>
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