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100万円を立て替えて・・・(1)| 秘密のあっ子ちゃん(246)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

それは昨年の夏の盛りのこと。四十才前後の男性が当社にやってきました。見るからに律義そうな人で、 言葉づかいからも彼の誠実さが伺がわれました。職業はエンジニアでした。
彼は同い年の女性を探していました。いえ、住いは知っていたのです。彼は「彼女の勤務先をつきとめたい」と言いました。
彼女は三十九才。結婚して、三人の子を儲けましたが、彼と知りあったころには既に離婚していました。 女手一つで、十七才を頭に三人の子供達を育てていました。
彼と知りあったのは二年前でした。十三のアルサロでした。
何回か通ううちに、彼は彼女と話していると何故かホッとする自分に気づきました。彼女もまた自分の身の上話を彼にするようになっていきました。彼女は、そんな商売のわりには色気で売る訳でもなく、さりとて無愛想でもなく、何かしら居心地のいい気分にさせてくれる人でした。いつも控え目でさほど美人でもないのに、彼女の存在が彼の心の中に次第に根を降していきました。
彼女は十三のアルサロから料亭、キタのスナックと、一年あまりの間に店を転々と変えていきました。

彼女は彼の人柄に絶大な信頼を寄せ、次第にあらゆることを相談するようになりました。子供の進学のこと、店での人間関係のこと、はては自分の生命保険のことまで・・・。
彼はその都度彼女の相談相手になり、ある時などは次に入る店の保証人にもなってあげました。
昨年の春の初め、彼女はずっと浮かない顔をしていました。事情を聞くと、店から持たされた口座の未収が百万円を越えてしまった、今月中に何とかしなければならないと言うのです。
彼女には急に動かせるまとまった金もなく、途方にくれていました。彼はその金を立て替えてあげたのでした。
それから二週間ほどして、久しぶりに彼が店へ顔を出すと、彼女の姿はなく、店長は「一週間ほど休んでいる」と言いました。
彼は早速、彼女の自宅に電話を入れました。彼女は本当に具合の悪そうな声で、「なんか疲れが出たみたい。微熱が取れへんのよ。はよ働かなあかんねんけど、無理みたい。店に出る時は連絡するわ」と言ったのでした。

<続>

 

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