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やきもちの理由(2) | 秘密のあっ子ちゃん(39)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。
とにもかくにも、彼は日を置かず、当社に連絡をくれました。
待っていた彼(64才)からの連絡は三日も経たないうちに入ってきました。 私が彼に、依頼人(60才)が探していること、元気かどうか気にされていることなど、これまでの経過を説明すると、彼自身も随分と懐しがられ、彼女が自分を探してくれたことを大層喜ばれたのでした。
「いやぁ、四十年も前のことをよく覚えてくれていました。有難いことです。彼女も元気にされているんですか?そうですか、幸せにお暮らしなんですね?私の方は十年前に退職しまして、今は隠居の身ですわ。ちょっと心臓を患いましたが、もう大丈夫です。彼女にはこちらから連絡しますので、よろしくお伝え下さい」
そういう返答でした。相変わらず、自分の連絡先は言わずじまいでした。
それから二日後、依頼人から喜びの電話が入りました。
「早速、昨日、彼から電話をもらいまして、もう懐しくて懐しくて、三十分も喋ってしまいました。」 これで、この件は一件落着したと私は思っていました。しかし、ひと月後、再び彼女から電話が入り、彼が何故なかなか自分の連絡先を言わなかったのかが分ったのでした。
再び連絡をくれた依頼人(60才)は、何故彼(64才)が自分の連絡先を言いたがらなかったのかを説明してくれました。
「あれから彼の方からちょくちょく電話をくれて、私の体を気づかってくれたり、昔話をしたりで、いい茶飲み友達ができたと喜こんでいたんですけれど…」
彼女はそう切り出して、こんな話をしました。
そもそも、彼の奥さんという人は若い頃から大層なやきもち焼きで、彼も少々閉口していたらしいのですが、近頃依頼人と仲良く電話で話をするものですから、嫉妬の癖が出て、「そんなに楽しいのなら、この家を出て、その幼なじみの所へ行かはったらよろしい!」ということになったのだそうです。
彼女が言葉を尽して、今回は一応納得されたらしいのですが、「そちらへも奥さんから電話が入るかもしれませんので、ご迷惑がかかってはいけないと思いまして…」と、彼女はそう言うのです。
「いえ、いえ、迷惑なんかではありませんよ。ただ懐しいというお二人の気持ちを奥さんは誤解されていると思いますので、お電話があったら、こちらからもよく説明しておきましょう」 私はそう答えながら、これまで何千件というケースを扱ったけれど、四十年以上も前の話にやきもちを焼かれたのは初めてだと思ったものです。
<終>

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