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いじめの記憶(1) | 秘密のあっ子ちゃん(40)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。
彼女は十九才。文学部二年の女子大生です。
彼女は入学間もなく、大学のあるボランティアサークルに入りました。そこで二年先輩の彼と出会いました。
彼女の依頼というのはその先輩の住所を知りたいというものでした。
同じ大学で、今は退めているとはいえ、同じサークルの、しかも在学中の先輩なのですから、何も調査会社に依頼しなくても調べる手だては山ほどありそうなものです。当社に依頼してきたのには彼女なりの深い訳があります。
彼女はもともと内気で少し引っ込み思案の少女でした。(その傾向は今も大いに残っていると私は思いましたが…)それが災いして、彼女は中学三年生の時に徹底したいじめに会いました。 いじめられた心の傷はなかなか癒すことができず、彼女は対人関係においてますます臆病になり、高校に入ると登校拒否が激しくなって、その不登校が元で学校を中退したのでした。
もともと成績の良かった彼女でしたので、その後、通信教育で大学受験資格を得て、晴れて四年制大学へ入学しました。しかし、大学へ入っても対人恐怖症からはなかなか脱することはできませんでした。
大学に入学すると間もなく、彼女はあるボランティアサークルに参加しました。 そこで、二年先輩の彼と出会うのです。彼は背が高く、野外活動で日焼けした浅黒い肌が印象的な逞しい青年です。キャンプでは小学生達の気をそらせない上手な指導をしますし、老人ホームでは車椅子のおばあさんをとても優しく世話します。
彼女はすぐに彼のことが好きになりました。
ところが、彼女は過去にいじめのターゲットとなったいやな思い出をまだ引きずっていて、「対人恐怖症である自分が人を好きになるなんておかしい」と思い込んでいたのです。彼女は彼を諦めようとしていました。 私は、この時点で私が彼女のことを知っていたら、もっと力になってあげられたものを、と思ったものです。可愛らしくて危なげなこの恋は、今の彼女にとって、ただ後悔だけしか残していません。この恋が成就すれば、彼女の対人恐怖症も逆に少しはましになったはずなのですから…
夏休みを前に、彼女がより一層心細くなる出来事が起こりました。それは彼女の唯一というべき友人がサークルを退めてしまったことです。
彼女(19才)の数少ない友人、彼女にとっては「親友」とも言うべき同級生もまたそのボランティアサークルに所属していました。その友人も性格的に彼女と似たところがあり、対人関係が苦手でした。二人はよく自分達の悩みを話し合い、慰めあって、お互い横にいてくれさえすれば安心できました。そのため、二人は常に行動を共にするという仲でした。
ところが、その友人が別のチームの先輩に厳しい言辞を浴びせかけられ、それを苦にして退めてしまったのです。
彼女は一人になりました。一人でいると不安が募り、ますます自分の思うことが表現できなくなってしまいました。
そんな時、彼(21才)が彼女に声をかけてくれました。
<続>

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