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中学3年生からの依頼(3)| 秘密のあっ子ちゃん(215)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

突然施設に入らなければならなくなった憧れの彼女 (中一)からの『半年待っていてほしい』という伝言を聞いて、依頼人(中三) は、その半年間、彼女が戻ってくるのを心待ちに待っていました。しかし、半年たっても、 一年たっても、彼女は戻ってきませんでした。
家庭裁判所に問い合わせてもラチがあかないことに業を煮やした彼は、彼女を探してくれるところを探し始めたのです。当社を見つけた彼は、すぐにすし屋のアルバイトを始めました。
そして、それまでの思いのすべてを込めて、当社へ電話してきたのでした。
「未成年だし、お金がいることだし・・・」と踌躇している私に、彼が懸命に訴えたのは、こうした事情があったからです。
私たちは、大阪府下の福祉施設を軒並み当たりました。
やはり、彼女はその中の一つのある施設に在籍し、そこの寮から中学校へ通っていました。
依頼人にその内容を報告して半年ほどたったある日、再び彼から電話が入りました。彼は高校一年生になっていました。
「施設の方へ電話を入れたら、そんな子はいないと言われたんです」
彼はそう言ってきました。
私たちは依頼人に代わって、その施設の先生に連絡を取ったのです。
「あの子は家庭的に恵まれておりませんが、明るく元気にがんばっています」 と先生は彼女の近況を教えてくれました。
そして、「複雑なことがいろいろあったようですが、今は大分落ち着き、学校へもまじめに行っています。卒業したら就職するのだと、毎日がんばっているんですヨ。私たちも何とかして卒業してもらいたいと懸命です」
「ここにいる子供たちはいろいろな事情を背負ってきていますので、外部からややこしい話が入ってきます。私たちは親同然なので、あの子たちを守る義務があります。ですから、部外との接触はさせておりません。彼女はあと一年で卒業ですので、そっと見守ってやってほしいのです」 と話されました。
私たちは、依頼人に先生の話を伝え、「彼女のために、気を長く持って、もう少し待ってあげてほしい」 と話したのでした。
私たちから、そう伝えられた依頼人は、あと一年待つことに決めました。
「あと一年したら会えるのは間違いないから、待とうと思った」。後に、彼はそう語っています。
それから一年三カ月。彼女の卒業の時期が来ました。
彼から、三たび電話が入ってきたのはそのころでした。
彼が言うには、彼女が卒業間近になった二月から三月にかけて、彼は施設の近くまで何回か行ったということでした。
「朝早く行って、通学路の道ばたで彼女を待っていたんです」
私は、彼のけなげさがなんともいじらしくてなりませんでした。
しかし、彼女は現れませんでした。
そこで、彼は彼女の女友達に頼んで施設に電話をしてもらったそうです。すると、今度も「いない」と言われたと言います。
私たちは、再び施設に状況を聞きました。
「彼女は、もう一年学校に残ることになりました」先生はそう教えてくれました。
彼の思いは再び一年先送りとなったのです。

<続>

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