これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。
「ウチはお宅の娘さんが何もかも知っていると踏んでいます。お母さんが、『ウチの娘は何も知りません』とおっし ゃるだけではその心象を消すことができません。やはり、一度娘さんに会わせていただいて、その辺の事情をお聞かせいただかないと…。心象が『黒』のままでは、ウチとしては興信所の仕事として、娘さんに会えるまで昼夜間係なくお宅へ日参しなければなりません し、近所にもいろいろ聞き込みをさせていた だかなくてはならなくなります。それよりは、今ここで私と十分程話す方が、お宅様にとっても迷惑がかからないと思いますが…。私としても早く心象を『白』にしていただいた方が何回も来なくて済み ますし、社長にヤイヤイ言われなくて助かります」
当社調査員の早朝の訪問に、「興信所なんかには用事はない!」と振り切って出かけようとしていた彼女の母でしたが、スタッフにそう言われるとグーの音も出ませんでした。
「じゃあ、十分だけですよ」
そう言って、調査員の話を聞き始めたのでした。そして、調査員にとっては申し分のない約束をしてくれたのでした。
「今、娘はウチにはいないんです。連絡は取れますが、あなたに会うと言うどうか、本人の意向を聞いてみないことには・・。本人にはあなたの話を聞きたいという意向については間連いなく伝えますから、二週間程時間を下さい。返事は会社の方へ私がするか本人からさせますから」
調査員としては、それで オンの字でした。調査員は二週間経っても連絡がなければ当方としては次にこう動くということまで伝えていましたので、梨の碑(つぶて)になるという危惧はまずありませんでした。
一週間が経ちました。連絡はまだ入ってきていません。でも、まだ一週間ありましたので、私達は安心して構えていました。
十日経ち、十二日が経ちました。連絡はまだ入りません。そろそろ、「次の行動を起こす準備にかからねば」と思っている矢先にその電話は入りました。
それは彼女でもなく、彼女の母でもなく、探し求めている家出した長男その人だったのです。
彼は私達と会う日時を打ち合わせ、用件だけを伝えると電話を切りました。
私達から連絡を受けた依頼人と妻は当日、彼が指定した
喫茶店に向かったのです。
翌日、早速依頼人から報告の電話が入りました。
彼と彼女はやはり連絡を取っていましたが、一緒に住んでいるのではなく、噂されているような関係ではなかったようです。
「息子は共同経営者のルーズさで店がダメになり、保証人になった金を返済するため働いていると言っていました。黙って家を出たのは申し訳ないが、どうも私や嫁に迷惑がかかるのを恐れたようです。
彼はその日、結局家へは帰りませんでした。返済の目処が立つまで、もうしばらくがんばると言うのです。連絡先が分かった今、依頼人もそれで納得したのでした。
<終>
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