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彼女を二度も傷つけ・・・(1)| 秘密のあっ子ちゃん(191)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

私はさまざまな異業種交流会に誘われ、そういった所によく出かけます。また、小さなサロンから行政主催の大きな講演会まで、いろいろな所に招かれてお話をさせていただく機会も多く、名刺交換をさせていただきます。
そういう時、「いやぁ、佐藤さんのお仕事は本当にいいお仕事ですネ」とか、「楽しそうなお仕事ですね」とか言っていただきます。そして、その後の反応として、たまには「私も初恋の人はいるけれど、しわくちゃばあちゃんになっていたら嫌だなあ」とか、「禿茶瓶(皆様の中に御髪を気になさっている方がおられましたら、失礼致します)になっていたら幻滅だわ」などとおっしゃる方がいらっしゃいます。
私は、そういう方たちには「探すべきではない」と申し上げます。なぜなら、再会して失望や幻滅を感じる危険があるなら、探さずにいい思い出として残しておく方が、ご本人の人生にとってずっとよいことなのですから・・・。
当社に依頼してこられる方々は、それよりも一歩も二歩も探したい人への深い思いいれを持っておられます。
今回は、その辺を悩んだ結果、調査依頼の決心をしたある青年のお話をしましょう。

彼は東京在住、現在三十一歳の独身青年です。彼が探したいという相手は、小学六年の二学期に転入してきた同級生の女の子です。彼女は長野県から彼の住む東京へやってきたばかりで、クラスの他の女の子に比べてまだまだ幼さの残る可愛い子でした。
転入してきたその日、たまたま彼の隣の席が空いていたこともあり、彼女はそこに座ることになりました。先生が彼女を紹介した後、「いろいろ分からないことも多いだろうから、教えてやってくれ」と、彼に向かって言いました。それで、律義な性格の彼としては、幼さの残る彼女の兄のような気分で、彼女の面倒を精一杯見るようになったのでした。
彼女は少し内気で東京の雰囲気にすぐには馴染めず、しかも仕草がおっとりしていたため、よくクラスの女の子から意地悪をされました。それに、可愛かったせいもあり、男の子達からはよくからかわれました。そんな時、いつも彼が出ていって、彼女のためにクラスメートと喧嘩をしたものでした。
そのお陰か、彼女に対するいじめは少なくなりましたが、彼女の友達は彼一人となってしまったのでした。
そして、そのことがますます二人の仲を親密にしていったのでした。二人は明けても暮れても一緒でした。そのうちに、彼は彼女がいない生活は考えられなくなりました。十二歳にして、生涯をともにする人であると確信したと言います。それは初恋というより、二十年近く経った今でも彼の人生の中では衝撃的な出来事でした。
ところが、小学校卒業と同時に、父親の転勤のため彼女は再び引っ越すことになりました。今度は海外でした。
彼は絶望感に打ちひしがれてしまいました。彼女を失いたくないという想いは、ついに彼女の体まで求めるようになりました。しかし、あまりにも幼すぎた二人にとって、それは彼の想いを叶えるどころか、彼女を傷つけるだけでした。
あれ程仲のよかった関係が嘘のように、彼女は別れの言葉一つ言わず、シンガポールへ旅立って行きました。
それから七年、音信不通のまま、二人はそれぞれの青春を過ごしたのでした。

<続>

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