これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。
若い人たちの依頼の中には、相手の所在を捜し当てたあかつきには、できれば交際したいと思っている人はかなりいます。
もちろん、その結末はうまくいく場合も、ダメだった場合も様々なのですが交際がかなわなかった時、私たちは依頼人に対して同情を禁じ得ません。
が、相手の意志まで変えることはできないのは当然のことで、彼らを励ます以外になす術はありません。
しかし、そんな場合でも悪いなと思いつつも、思わず苦笑いしてしまう時があります。もちろん、本人は真剣に落ち込んでいるのですが…。
今回の主人公は三十六歳の男性です。
彼は大手商社のエリートサラリーマンで、ずっと独身貴族の気ままさをおう歌していました。
しかし、四年くらい前から両親や親せき、上司、はたまた友人たちまでもが、「結婚せぇ」とうるさく言ってきてならなかったそうです。
彼には女友達もそれなりにいたし、しつこく食い下がる母親の顔を立てて、お見合いも何回かしたそうですが、どうも誰一人として妻に迎えるにはしっくりいかなかったと言います。
そんな時、ふと心に浮かんだのは四年前、彼が赴任先の名古屋にいたころ、ほんの少し付き合っていた彼女のことでした。
彼女は、当時高校三年生の十七歳で、彼とは一回りもの年の差がありました。彼女は、依頼人の行きつけの喫茶店で夏休みだけアルバイトをしていたのです。
夜にはスナックになるその喫茶店に、彼は朝はモーニングコーヒー、昼は食事、夜には帰り際の一杯という具合に前々からひんぱんに出入りし、店のマスターとも親しくなっていました。マスターは男の子がいる所帯持ちでしたが、年格好が彼に近いこともあって、釣りやゴルフにも一緒に出掛け、依頼人とは友達付き合いをしていました。
彼女がアルバイトに来るようになった夏、彼のその店への出入りは、前にも増して激しくなったそうです。営業に出る前に「ちょっとコーヒー」、会議が終わったら「ちょっと休憩」という風に・・・。
彼女は素直で清純で、彼はひと目で彼女のことを気に入ったのでした。ある日、彼は彼女をコンサートに誘いました。彼女は快諾してくれ、その日コンサートが終わったあと、二人は食事をして別れました。それからしばらくたった日曜日、今度は遊園地に誘いました。今度も彼女の返事はOKで、彼女が持ってきてくれた手作りの弁当に感謝したと言います。
彼はますます彼女のことを『いい子だなぁ』と思うようになったのです。
しかし、彼には悩みがありました。それは年の差のことでした。それに彼女はまだ高校すら卒業していない未成年であるということでした。
ある日、マスターからも言われました。
「友達だからはっきり言うけど、あの子は知り合いの娘さんで、ウチだから安心して預けられているのだから、その辺りのことはちゃんと心得ておいてくれヨ」
マスターからそう言われてからは、彼も彼女を誘うのを控えるようになりました。
<続>
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