これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。
行きつけの喫茶店ヘアルバイトに来ていた高校三年生の彼女をたいそう気に入った依頼人でしたが、年の差がひと回りもあり、彼女が未成年であるために、彼は彼女を誘うのを控えるようになりました。友人であ
るマスターから、「知り合いから預かっている大事な娘さん」とクギを 刺されてもいたからです。夏休みが終わり、彼女は学校へ戻っていきました。
彼もまた大阪へ呼び戻され彼女に再び会うこともなく、彼の思いは中途半端のまま終わったのでした。
四年後、身辺から「結婚しろ」コールが沸き起こった時、周りにはこれといって意中の人がいなかった彼は、その彼女のことを思い出しました。『彼女なら…』と。
「彼女も二十歳になっている。再会できたら、一から今度は真剣に付き合いたい」
そういう思いがますます強くなっていったのだそうです。
彼は彼女の住所も電話番号も聞いていませんでした。
名古屋のその喫茶店のマスターとは、彼が大阪に戻ってきてからは疎遠にな り、今では全く連絡を取っていませんでした。
彼は、まず喫茶店に行ってみました。
ところがどういう訳か、その喫茶店はなくなっていたのでした。自宅の電話も すでにつながらず、どうも引っ越したようです。
喫茶店のすぐそばにある勤務していた名古屋支店の同僚に聞けば、ある程度の事情は分かるかもしれなかったのですが、『なぜ、探しているの?』と根掘り葉掘り聞かれるのも煩わしい。かといってこのまま諦めるには心残り過ぎる。
彼はある興信所に彼女の捜索を依頼したそうです。
ところが、結果は芳しくなく、「不明」との回答が来ただけだったのです。 もはや彼としては彼女のことを諦めるしかなく、その後は努力して見合いの席 にも出るようになりました。
しかし、どうしてもこれという人が現れない。
三十六歳になって、いよいよ周りの目がうるさくなってきた時、彼は何気なく見ていたテレビで当社のことを知ったのだと言います。
彼は『最後の賭け』という思いで、私たちに依頼してきたのでした。
私たちは、彼女がマスターの知り合いの娘さんだという手掛かりから、まずマスターを探すのが先決だと判断しました。しかし、依頼人は、自宅の方も店の方も四年前に自分が直接行って、彼の行方が分からないことを確認しているので調査しても無駄だと言って聞かない。
そこで、やむなく私たちは、彼が一度だけ見たこと があるという彼女の制服姿 のかすかな記憶から、それがどの高校かを割り出す作業にかかったのです。
<続>
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