このページの先頭です

「女王様」を探して(3)| 秘密のあっ子ちゃん(195)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

 彼女が住んでいるという一帯の聞き込みで、彼女に該当する人物があらわれない ことから、私達はツテを頼り、彼女が勤務していたSMクラブのオーナーに接触しました。
「彼女はよく働いてくれましたけど、突然退めてしまいましてねぇ・・・。
本名?聞いていますけど、たぶんうそでしょう。この業界で、ありのままのことを言う子は少ないですからねぇ」
その女性経営者が聞いていた「本名」は依頼人が聞いていた名と同じでした。彼女はオーナーにも「住居は今里だ」と話していたと言います。
それまでの調査経過の報告やオーナーの話を聞いて、依頼人はますます彼女の話を信じたようでした。しかし、私達は逆にますます彼女が本当のことを言っていないと確信を深めました。
「今里で該当者がないのなら、布施辺りまで探してもらえませんか」
彼はそう言ってきました。私はよほど「無駄です」と言いたかったのですが、依頼人が望むなら 致し方ありません。これで彼が彼女のうそに気づいてくれることを願いながら、私達はまたもや今里から布施にかけて、こまめに聞き込みに入ったのでし た。
しかし、私の予想どおり、結果は彼女に該当する人物が住んでいる形跡は全くありませんでした。
報告を聞いて、彼はこう言いました。  「そうですか・・・。でも、どうしても彼女のことが忘れられないんです。今は仕事も手につかない状態です」
またまた消え入りそうな声でした。
「何を言ってるの。しっかりしなきゃ!」と言ったものの、私は彼の気持ちが分からないでもありません。
「調査範囲を広げてもらって、お手数をかけているのは十分承知してい ますが、何とか探し出す手立てはないでしょうか?」
彼は必死の様相でした。
「うーん。他にと言えば、例のブルセラショップに張り込んで尾行するしかありませんねぇ」
「やはり、それしかありませんか?・・・そしたら、もう一度、僕がもうその店へ行って、前回彼女がいつごろ来たのかを聞いてきます。その方が次に彼女が来る日が予想 しやすいですから」
彼はそう言って、この日は帰っていったのでした。
しばらくは何の音沙汰もありませんでした。
私は「また気が変わったんだろう」とぐらいに思い、あまり気にもかけていませんでした。
二週間程経ったある日、彼から電話が入りました。相変わらず聞き取りにくい弱々しい声でした。
「あの・・・店に聞きに行ったんですけど、彼女は最近来ていないと言われたんです。最後に来た時に、下着を売るのはもうやめると店の人に言ったらしいです・・・。ど うしましょう。何とかなりませんか?」
彼は泣きつかんばかりでした。
「どうしましょう」と言われても、これではどうしようもありません。今さらそんなことを言うのなら、私が提案した時にさっさと尾行しておけばこんなことにならずに済んだものをと、少し腹立だしくも思えました。
「どうしようもありませんねぇ。いつ現れるか分からない張り込みは、料金も大変になりますから、無理でしょう」
私はいつになく冷たく言い放ちました。
私が断ってから、依頼人からは音沙汰がありませんでした。私は「諦めたんだな」と思っていました。「忘れることができ るのなら、彼にとってもいいことだ」とも思いました。
それから一年半が経ったつい先日、一本の留守番電話が入っていました。彼でした。
「去年の始め頃、SMクラブの女性の調査依頼をした者ですが、覚えてくれてはりますでしょうか?また相談したいことがあります ので、明日もう一度電話します」
翌日、彼は電話ではなく、直接事務所へやってきました。
相変わらず蚊の鳴くような弱々しい声でしたが、それでも勢い込んでこう言いました。
「つい最近、彼女が店へ戻ってきたんです。今度こそ彼女の住所を突き止めたいんです!」
「店に戻られたら、もういいんじゃないですか?そこで連絡はつくんですから」。私はそう言いました。
「いえ、またいつやめるかもしれませんし、今度こんな苦しい思いをするのは嫌ですから」
彼はいつになくきっぱりと答えたのでした。

<続>

Please leave a comment.

入力エリアすべてが必須項目です。メールアドレスが公開されることはありません。

内容をご確認の上、送信してください。