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告白してくれた彼を・・・(2)| 秘密のあっ子ちゃん(279)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

「随分と嫌な思いをさせてしまった。一度会ってきっちりと謝りたい」
社会人になって五、六年経ったころ、彼女(34才)はそう思うようになりました。
しかし、いざ彼の居所を探すとなると、なかなか踏ん切りがつきませんでした。 「今ごろ会いに行っても『何の用事だ』と言われるのがオチだろうな」とか、「それよりも会ってくれないかもしれない」 そんなことをあれこれ考えると、予備校時代、彼がお姉さんと暮らしていたマンションへ訪ねて行くのも、早稲田に彼のことを聞きに行くのも、足が動きませんでした。 そんな風に躊躇しているうちに、いつの間にか七年があっという間に経ちました。その間、彼女は結婚し、一児をもうけました。自分自身を取り巻く環境の変化や日々の慌ただしい生活の中で、彼を探すことはついつい先送りにしてしまっていました。
そんなある日、彼女は予備校時代の夢を見ました。それも二回立て続けにです。その夢の中で、彼女は彼に相変わらずひどい態度を取っていました。
目が覚めて、彼女は「今度こそ彼にちゃんと謝ろう」と本気で思いました。
彼女はどうしてもそうしなければもう気が済まなくなっていたのでした。
ずっと以前から気にしていたことでしたが、夢を二回も立て続けに見たことをきっかけに、七年越しにやっと本気で彼を探そうと、彼女(34才)は動き始めました。何ケ月か前に雑誌の記事で見かけた当社のことを、「いずれ役に立つかもしれない」と控えておいた電話番号を頼りに、彼女は彼の所在調査を依頼してきたのでした。
結果、彼は田舎に戻っていることが分りました。
彼はその故郷で政治家になっていて、地元での評判は上々でした。政治の世界ではまだまだ駆け出しの三十四才ですが、なかなか熱意のある市会議員だと…。 そのことを報告して二週間目、再び彼女から連絡が入りました。
「予備校時代のことを大変申し訳なく思っています。ずっと気にしていましたが、一度お詫びを言いたいので、連絡をしても構わないでしょうか?」
そう、彼に伝えてほしいと言うのです。その電話が入ったのは、実は三日前のことでした。
当社のスタッフが彼(34才)の後援会事務所に連絡を入れると、彼はすぐに電話口へ出てきてくれました。
彼女(34才)が、予備校時代に彼につらく当たったことをずっと気にしていて、是非きっちりと謝りたいと言っている旨をスタッフが伝えると、彼はこう答えてくれたのでした。
「彼女のことはよく覚えていますよ。随分昔にそのようなことがありましたねぇ。そういうことは月日が解決してくれます。そんなに気になされなくても…」 そしてこう続けました。 「私も元気に生活をしております。彼女も結婚したんですねぇ。私も一人だけ家内がおります。アハハ…。よかったら、電話を差し上げたいのですが…」
彼は地元で評判の良い市会議員らしく、明るく、人なつっこい、それに気配りのある人のように見受けられました。
彼は最後にこう言いました。
「ところで、つい先日、私のことを探していると、ご近所に聞きに来られたのはお宅ですか?」
さすが、政治家。彼は抜群に早い情報網を持っていました。

<終>

告白してくれた彼を・・・(1)| 秘密のあっ子ちゃん(278)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

彼女は東京在住の三十四才の女性です。既に結婚し、現在は官庁に勤めています。大学は一浪して、慶応大学を卒業しました。
彼女の気がかりというのは、その学生持代に起こった出来事にありました。
彼女は浪人中、ある大きな予備校に通っていました。そこで同じく一浪して、早稲田大学政経学部を目指している男性と知り合いました。
予備校に通い出してしばらくしたある日、彼女は風邪を引き授業を休みました。その頃は予備校での友達がまだできていなかった時期で、休んだ授業のノートを誰に見せてもらおうかと困っていました。その時、隣の席に座っていた彼が昨日のノートを差し出してくれたのでした。
それからは、彼女は彼とちょくちょく話をするようになりました。彼は彼女が分らない問題の考え方を教えてくれたり、模擬テストの設問傾向なども話してくれたりしました。
そのうち二人は予備校の帰りに喫茶店に寄ったり、本屋に一緒に行くようになりました。
夏休みも済んで、秋と言ってもまだまだ暑いある日、彼は彼女に交際を申し込みました。
彼に交際を申し込まれた依頼人は、その途端に彼が鬱陶しく思えてきました。別に彼の申し込み方が悪かった訳ではありません。彼はごく普通に、「よかったら、つきあってくれないか?」と言っただけです。また、彼はそれなりの身長もあり、顔立ちも悪くなく、容姿から言っても他の男性に引けを取るものでもありませんでした。
それに彼の優しさや親切は、知りあった当初から変わりありません。案外、彼のその優しさが負担になったのかも知れませんが、彼女は何故急に彼の存在が鬱陶しく思うようになったのか、その理由を自分でもうまく説明できませんでした。 彼女は彼につらく当たるようになりました。随分嫌味な言葉も吐きました。「そこまでするか」という程の態度も取ってしまいました。
それに対して、彼は黙っていました。かなり不愉快な思いをしただろうに、言い返したり、怒ったりはしませんでした。
入試の日がやってきて、二人はそれぞれの志望校、早稲田と慶応に無事合格しました。
予備校の最後の日、彼は「卒業したら、連絡をする」と彼女に言いました。それが彼との最後の会話でした。
大学が別々となって、予備校最後の日、彼は「大学を卒業したら、また連絡するよ」と言って去っていきました。
大学在学中、彼女は彼のことを思い出すこともありませんでした。入学当初は志望校だった慶応に入れた嬉しさ一杯でしたし、学生生活に慣れていくと新しい友人もでき、サークル活動も楽しいものでした。それに、それなりの勉強もしましたし、小遣い稼ぎのためのバイトも結構おもしろいものでした。
ですから、卒業した後も彼から連絡が入らなかったことなど気にも止めていませんでした。
しかし、社会人になって五、六年経ったころ、少しは世間の荒波も分り出すと彼のことが気になり始めました。会いたいということではなく、自分が示した対応が如何に彼を傷つけたのかが分るようになったからです。
「交際を申し込まれた途端、あんな嫌味な言葉を投げつけ、心をえぐるような態度を取った。なのに、彼はずっと耐えていてくれた。私は何てひどいことをしたのだろう。もう一度会って、心から詫びたい」
大人になった彼女は、そう思うようになったのでした。

<続>

やさしいパイロットさん(2)| 秘密のあっ子ちゃん(277)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

「できたら、一度お話しできる機会を持ちたいんですが…」
「姪御さんとですか?」私は尋ねました。そもそも彼女は、「姪がそのパイロットの親切に大感激しているもので、改めてお礼が言いたい」というのが調査する目的だと言っていたのですから。
「いえ…姪ではなく、私と会えるように、先方にお話ししていただけませんでしょうか?」
「やっぱりな」と私は思ったものです。長年、この仕事をしていれば、誰かの代理で人探しの調査を依頼しているのか、自分が探していて名乗るのが恥ずかしくて、誰かの代理を装って依頼してきているのかは、話を聞けばすぐに分ります。マ、インテリ系の人に多い傾向です。しかし、そんなことは敢えて問い詰める必要もないので、大概は黙って聞いているのですが…。彼女の場合も照れがあったのでしょう。が、人に好意を持つことは別に恥ずかしいことではありません。
話を聞いていると、依頼人はインテリであると同時にプライドも高く、それに石橋を叩いて渡るような性格で、
「どんな風に先方に連絡を取るのですか?」とか、「私のことはどういう具合に伝えて下さるのですか?」とか、「先方がNOと言えば、どうなるのですか?」とかをこと細かく尋ねます。質問としては至極当然のことなので、スタッフはそれについて一つ一つ答えるのは当り前のことなのですが、何度も何度も念を押すように聞き返します。私は「彼女は異性に対して自分からアタックをしたこともなければ、ふられた経験もないんだろうな」と思いながら、スタッフが何回も同じ質問に答えているのを横で聞きながら思っていました。
彼女は最後に、「絶対、先方に迷惑がかかるようなことはしないで下さいネ!」かなり威圧的にそう言って彼女は電話を切ったものです。「ハイ、ハイ、そんなこと言われなくても、百も承知」事務所にいたスタッフ全員がそう思ったのは当然です。何しろ、先方に迷惑がかかるようなことをすれば、彼女のみならず、当社の信用問題に関わることなのですから…。
そんなこんなで、私達は、例のパイロットに対して、コンタクトの代行をすることになったのでした。

依頼人のお目当てのパイロットは、勤務が忙しく、なかなか連絡が取れませんでした。やむなく、私達は彼に当社へ連絡をくれるようにと、センターへ伝言しておきました。 翌日、すぐに彼から電話が入りました。スタッフが、「親子航空体験」のイベントでとても親切にしてもらったことを感激して、もう一度是非連絡を取りたいと言っている人がいる旨の説明をしました。
彼は照れながら、それに随分恐縮して、「どの方のことでしょう?」と尋ねてきました。
スタッフが、写真を一緒に撮ってもらった人だと告げると、「ああ、あの方達ねぇ…」と言ったのです。彼は彼女のことを覚えていました。そして、最後に、「乗務便は前日にならないと分らないことも多く、センターにもなかなかおりませんので、こちらの方からお電話させていただきます」と言ってくれたのでした。

スタッフは彼からの電話を切ると、すぐにその足で(“その手で”と言った方が正確ですが)彼女に連絡を入れ、今しがたの電話の内容を伝えました。
彼女は今度は、くどくどと尋ねることもなく、威圧的でもなく、「有難うございました」を連発していたと、スタッフは私に報告したのでした。

<終>

やさしいパイロットさん(1)| 秘密のあっ子ちゃん(276)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

今年の春に、大阪空港で「親子航空体験」というイベントがありました。それは空港内にあるシミュレーター室を使って、パイロット体験が出来るものです。従って、パイロットやスチュワーデスに憧がれている子供達には大変人気があります。
今回の主人公である依頼人は、その催しに姪と参加しました。
依頼人は三十九才。大阪の大きな病院に勤務する薬剤師で、一度は結婚しましたが離婚して、子供はいません。
姪は現在中学校二年生で、将来スチュワーデスになりたいと小さい頃から常々言っていました。それで、仕事のために付き添って行けない姉夫婦に代わって、彼女が姪と一緒に伊丹に行ったのです。
午前十一時に伊丹空港内に集合し、皆で食事を取った後、いよいよシミュレーター室に入ります。
シミュレーター室では、五十過ぎと四十ちょっと手前の二人のパイロットが子供達に計器の見方や操縦の仕方をとても親切に教えてくれました。
当然のことながら、姪は大喜びで、彼女もまたそのパイロット達の優しさに感激していました。
二人のパイロットの説明は丁寧で、それでいて子供達にもよく理解できるように噛み砕いたものでした。それに二人ともとても親切で、スチュワーデスに憧れている依頼人の姪は大感激でした。
イベントが終わりに近づいた頃、姪は若い方のパイロットにねだって、一緒に写真を撮ってもらいました。彼は四十才前後の、背の高い、浅黒く陽に焼けたスマートな人でした。その写真は今も依頼人の手元にあります。
彼女は当初、「大変親切にしてもらったので…。それに、姪がそのパイロットの人をとても気に入りましたので」と、人探しの調査依頼の動機を語っていました。私は「ふぅーん。姪御さんのためにねぇ…」と思ったものです。その疑問は正しかったと、後に分るのですが、そのことはもう少しあとでお話しすることにしましょう。
さて、私達はまず、その「親子航空体験」イベントを企画した会社に問い合わせ、二人のパイロットがどこの航空会社の人なのかを割り出しました。そして次に、その航空会社へ聞き込みに入ったのですが、内部規制が厳しく、住所や連絡先については明らかにしてもらえませんでした。ただし、勤務地だけは教えてもらえたのです。
依頼人は、そのパイロットの勤務地が分っただけで十分だと言いました。
報告書を送って一週間程経ってから、依頼人から再び電話がありました。

<続>

新人の駅員さん(2)| 秘密のあっ子ちゃん(275)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

依頼人(41才)はその苦痛の通勤時間に、彼女は今、どの駅で働いているのだろうかというようなことをよく考えるようになりました。
彼にしてみても、JRの研修期間で改札に立っていた二十二、三才の女の子とつきあいたいと思った訳ではありません。憂鬱な朝の通勤に一服の清涼剤のようなすがすがしい印象を与える彼女が、今どこでがんばっているのか、それをちょっと確かめておきたいと思ったのです。
彼は改札を通るとすぐ横にあるキヨスクで、毎日新聞を買います。キヨスクのおばさんに彼女のことをそれとなく聞いてみました。おばさんは駅のことは知らぬがことがないくらい色々なことをよく知っているというのは、長年の会話の中で分っていました。
さすが、おばさんは彼女のことも知っていました。名前もどこの大学卒なのかも出身地がどこなのかも。
「それが、今はどこの駅にいるの?」
彼は尋ねました。
「さぁ、それは聞いてないけど、また助役さんにでも聞いておいてあげようか?だけど、そんなこと聞いてどうすんの?会いにでも行くの?」
おばさんにそう言われて、「まさか!そんなつもりで聞いてんのと違う。ただ感じのええ娘やったから、どうしてんのかなと思っただけや」と、彼は慌てて答えました。
キヨスクのおばさんにひやかされて、彼は彼女のことを助役に聞いてあげようかという申し出も思わず断ってしまいました。
ところが、彼女の名前も広島出身で阪大卒だということも分ってくると、彼女がどこの駅でがんばっているのかが気になってきました。
しかし、おばさんに再度尋ねるのは、「やっぱり下心があるんだな」と思われそうで嫌でした。そこで、当社に人探しの調査を依頼してきたという訳です。
JRでは、案の定、彼女の個人的な情報については、プライバシー保護のため調査拒否でしたが、大学名が分っている上に、広島県出身だということも分っていましたので、意外に早い時期に彼女の実家や現在の職場が判明してきました。彼女が今どの駅にいるのかは、彼女に支障があってはいけませんので、ここでは明らかにできませんが、関西圏で大阪よりそれ程遠くない駅の一つでした。
今、彼は仕事でそちら方面へ出向いた時、時節その駅でわざわざ降りて、「やぁ、元気?」と彼女に声をかけています。もちろん、彼女はにっこり笑って、「有難うございます」と返してくれているのは言うまでもありません。

<終>