これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。
依頼人(41才)はその苦痛の通勤時間に、彼女は今、どの駅で働いているのだろうかというようなことをよく考えるようになりました。
彼にしてみても、JRの研修期間で改札に立っていた二十二、三才の女の子とつきあいたいと思った訳ではありません。憂鬱な朝の通勤に一服の清涼剤のようなすがすがしい印象を与える彼女が、今どこでがんばっているのか、それをちょっと確かめておきたいと思ったのです。
彼は改札を通るとすぐ横にあるキヨスクで、毎日新聞を買います。キヨスクのおばさんに彼女のことをそれとなく聞いてみました。おばさんは駅のことは知らぬがことがないくらい色々なことをよく知っているというのは、長年の会話の中で分っていました。
さすが、おばさんは彼女のことも知っていました。名前もどこの大学卒なのかも出身地がどこなのかも。
「それが、今はどこの駅にいるの?」
彼は尋ねました。
「さぁ、それは聞いてないけど、また助役さんにでも聞いておいてあげようか?だけど、そんなこと聞いてどうすんの?会いにでも行くの?」
おばさんにそう言われて、「まさか!そんなつもりで聞いてんのと違う。ただ感じのええ娘やったから、どうしてんのかなと思っただけや」と、彼は慌てて答えました。
キヨスクのおばさんにひやかされて、彼は彼女のことを助役に聞いてあげようかという申し出も思わず断ってしまいました。
ところが、彼女の名前も広島出身で阪大卒だということも分ってくると、彼女がどこの駅でがんばっているのかが気になってきました。
しかし、おばさんに再度尋ねるのは、「やっぱり下心があるんだな」と思われそうで嫌でした。そこで、当社に人探しの調査を依頼してきたという訳です。
JRでは、案の定、彼女の個人的な情報については、プライバシー保護のため調査拒否でしたが、大学名が分っている上に、広島県出身だということも分っていましたので、意外に早い時期に彼女の実家や現在の職場が判明してきました。彼女が今どの駅にいるのかは、彼女に支障があってはいけませんので、ここでは明らかにできませんが、関西圏で大阪よりそれ程遠くない駅の一つでした。
今、彼は仕事でそちら方面へ出向いた時、時節その駅でわざわざ降りて、「やぁ、元気?」と彼女に声をかけています。もちろん、彼女はにっこり笑って、「有難うございます」と返してくれているのは言うまでもありません。
<終>
