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先妻に償いたい・・・(2)| 秘密のあっ子ちゃん(283)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

妻の父親に不徳をなじられ、彼は離婚の申し出を承諾しました。一年足らずの結婚生活でした。
それから四十六年、紆余曲折はあったものの、彼は何不自由なく暮らしています。あの時の女性はもともと男出入りが多い女で、半年もしないうちに別の男を作ったので、すぐに別れていました。その後、全く別の女性と再婚し、子供にも恵まれました。
平成五年、七十二才になった彼は、自分の人生の中でずっと気になっていた先妻と同じ名前を東京の電話帳で発見しました。
彼はすぐにその人に手紙を書きました。
「私は先妻の消息を探しています。もし、あなたがご本人だったら連絡を下さい」と記して…。
返事は来ませんでした。その人が先妻に違いないと考えていた彼は、翌年、もう一度手紙を書きました。
「四十五年前の償いとして、今後毎月十万円を送金させていただきます」と書いて、現金を同封したのでした。返事は来ました。しかし、そこには、
「人違いです。お金は返します」
と、ただそれだけが書かれてあったのでした。
彼(74才)は諦めきれませんでした。残された時間だけが短くなっていくようで、気持ちだけが逸ります。
「もうこの年ですから、彼女も健在かどうか…。しかし、向こうに行く前に償いだけはしておきたいのです」
人探しの調査を依頼される時、彼はそう切々と語りました。
調査の結果、彼女(72才)は健在でした。姓も変わっていませんでした。
「元気に暮らしております」という言葉は聞きましたが、それ以上の深い話を、私達は敢えて聞きませんでした。そして、彼のことも一切話しませんでした。それは、償いたいという気持ちを伝えるのにも、彼は彼なりの心づもりがあるだろうと判断したからです。彼がそれをどう伝えたのか、もちろん気になることは確かです。しかし、それは彼からの連絡を待つことにしています。

<終>

先妻に償いたい・・・(1)| 秘密のあっ子ちゃん(282)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

今回のお話の主人公は現在七十四才の、見るからに悠々自適の老紳士です。
彼は戦後間もなく結婚し、いろいろな事情のために一年足らずで離婚してしまった妻を探していました。
昭和二十二年、彼はそれまでに交際のあった二歳年下の彼女と入籍しました。
若い二人にとって、新婚生活は貧しいながらもそれは楽しいものでした。彼にとってみれば、あの混乱の時代、二人で生活を築いていくことは「生きていく希望」と同義語でした。
ところが結婚後しばらく経って、仲人から彼女の親元へ送金するようにと迫られました。仲人の言うには、彼女の両親が二人の結婚を許したのは、彼が両親の生活を援助することが前提となっていたとのことでした。それは彼にとっては初耳の話でしたし、当時、二人の生活にはそんな余裕はどこにもありませんでした。二人共、毎日芋を食べてがんばっていたのです。
仲人からは火のついたように送金の催促が来ます。その度に二人の会話は険悪になっていきました。
彼女は夫と両親の間に入って苦しんでいました。
そして半年後、彼女は耐え切れず、友人を頼って家を出てしまったのです。そして、食堂経営者の一人娘が女学校時代の同級生であったよしみから、その店で住み込みとして働き始めたのでした。
彼(当時26才)は妻がどこで暮らしているのかを知っていました。しかし、彼は迎えにはいきませんでした。彼女の両親の要求に腹を立てていたということもその一因と言えました。のみならず、彼は別居直後に、妻を裏切っていたのです。
妻の女学校時代からの友人で、新婚当初から二人の家へ出入りしていた女性がいました。彼女はほっそりした妻に比べて肉感的で、彼は以前から彼女の自分に向ける視線の中にある、その意味を感じ取っていました。
妻が出ていって間もないある夜、妻がいないことを知らずに訪ねてきた彼女を、彼は抱いたのでした。
それは当の彼女も望んでいたことで、彼女は抗うこともなく彼を受け入れました。そして、二人の関係はずるずると続いたのでした。 それは、そのうちに妻だけではなく、舅の知るところとなりました。
彼は妻の父から不徳をなじられ、離婚の申し出を受けたのでした。

<続>

突然店を辞めた彼女が・・・(2)| 秘密のあっ子ちゃん(281)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

「生まれて初めてでした。女の子をあんなに好きになったのは…」
彼は私達にそう言ったものです。
しかし、調査は大変です。何しろ本名が分りません。ですから、短大に聞き込みに入りようもありません。店の方では、彼が店長にこう言われていました。
「いやぁ、こちらも連絡を取ろうと思って、履歴書にある電話番号に電話したんですが、違う家にかかるんですよ。マ、こういう商売ですから、入る時に履歴書に書いてある事が本当かどうか、そんなに力を入れて調べませんからねぇ…」 つまり、手がかりは庄内あたりの風呂もない古いアパートに両親と住んでいるということだけだったのです。
本名も分らず、それ故に卒業した短大名が分っていても聞き込みに入ることもできず、店へ提出していた履歴書の住所はデタラメだった…。
サクラちゃん(21才)を探すには、彼女が依頼人(25才)に語った、「庄内あたりの風呂もない古いアパート」だけが手がかりでした。
スタッフは住宅地図を片手に現地をくまなく歩いて、それに合致するアパートを探し始めました。
何日も歩き回った結果、それらしいアパートが何棟か見つかってきました。そこで、私達はそのアパートの大家さんに、二十一才くらいの丸顔で元気のいいお嬢さんとその両親が入居していないかを一軒一軒尋ね回ったのでした。
該当者が出てきました。その娘さんの特徴もサクラちゃんにぴったりです。彼女の氏名も分ってきました。 この吉報を依頼人に報告しようとしていた矢先、彼の方から電話が入ってきました。
「サクラちゃんと仲の良かった、店での友達の名前を思い出したんです!」
私は、「そんなことはもっと早く思い出してくれよなぁ」と思ったものです。それが分っていたなら、その友人に聞き込みに入れて、こんなにも足を棒にして歩かなくても済んだのですから。 スタッフ達が足を棒にして歩き回ってつかんだ情報でしたが、「念には念を入れて」と、私は依頼人(25才)が思い出したサクラちゃんの友人に確認に入りました。
彼女は幸いにも今も店に勤めていて、すぐに連絡を取ることができました。
聞き込みの結果、サクラちゃんの本名はスタッフが見つけ出したアパートの住人の姓名とぴったりと一致し、彼女の住居はそのアパートであることが確認できました。
私達がすぐさま依頼人に報告したのは言うまでもありません。
ところが、彼はこう言ったのです。
「店の履歴書にもデタラメの住所を書いていたということは、客だった僕なんかが訪ねていったら嫌がると思うんです。どこにいるか分らなかった時は、それだけが気になっていましたけど、こうやっていざ分ってくると、訪ねていっていいものか迷ってしまいます。どうするか、もう少しじっくり考えてみます。それまではこの報告書も預っておいて下さい。持っていると行ってみたくなりますから…」
彼は報告書に少し目を通しただけで、それを置いて帰っていったのでした。
彼(25才)が「これからどうするのが一番いいか、もう少し考えてみます」と言って帰ってから半月。「持っていれば、行ってみたくなりますから」と置いていった報告書は、相変わらず当社が預かっていました。
三週間後、彼から電話が入りました。
「いろいろ考えましたけど、やはり自分が直接行ったら驚くと思います。そちらの女性のスタッフのどなたかに彼女の家を訪ねてもらいたいんですけど…」
コンタクトの代行をしてほしいという依頼でした。 サクラちゃん(21才)が別の店へ勤めていたとしても在宅しているだろうと思われる時間帯を狙って、スタッフが庄内へ向います。 ドアをノックすると、出てきたのはサクラちゃん本人でした。
やはり、少し体調が悪いらしく、今は勤めに出ていないということでした。丸顔の可愛いいえくぼに変わりありませんでしたが、けだるそうな感じでした。  「彼があなたの体調のことを随分心配されている」と伝えると、サクラちゃんは、「名前だけではどの人のことなのか、ちょっと思い出せませんけど、そんなに心配してもらって嬉しいです」と答えました。
スタッフが客観的な目で見る限りでも、サクラちゃん(21才)は丸顔の中のえくぼが可愛いい、明るい女の子でした。ただ、やはり体調が悪いせいか、少しけだるそうな印象を与えていましたが。
スタッフが彼女に依頼人(25才)のことを覚えているかを尋ねます。
「名前だけではどの人のことかちょっと思い出せませんけど、声を聞けば分ると思います」
彼女はそう言いました。彼が彼女に電話を入れても構わないという確認を取って、スタッフは帰ってきました。サクラちゃんは、自分の体のことを心配してくれて、とても喜こんでいたと彼にくれぐれも伝えてほしいとつけ加えていたとのことでした。
彼は大喜びでした。「早速、電話してみます!」という返事が返ってきました。 翌日かかってきた電話でも、彼の声は弾んでいました。
「『心配してくれて有難う』と、えらい喜んでくれましてね、少し喋ったら、僕のことが分かったみたいです。話も随分盛り上って、『今度会おう』と言ったら、OKしてくれました!」
彼とサクラちゃんのデートの日は、三日後の土曜日でした。
依頼人(25才)とサクラちゃん(21才)がデートした二日後の月曜日、今度は電話ではなく、彼は直接当社にやってきました。 「土曜日のデートはいかがでした?」と私が聞くと、彼の口から意外な言葉が返ってきました。
「実は、諦めることにしました」
彼の話によると、二人は土曜日の夕方、待ち合わせて食事に行きました。サクラちゃんが食べたいと言うので、イタリアレストランに行ったそうです。
サクラちゃんは相変わらず明るく陽気で無邪気で、話も弾みました。それで、彼は思い切って、「つきあってほしい」と申し込んだのです。
サクラちゃんはちょっと考えながら、「そやねぇ…。嬉しいけど、やめとくわ」と答えたと言います。   「どうして?」私は尋ねました。もちろん、彼もサクラちゃんに尋ねた言葉です。
「話していて楽しいけど、ちょっと私のタイプと違うから」と言われたと、彼は話してくれました。
しかし、彼は結構さばさばしていました。
「思い切って申し込んで、サクラちゃんらしく、あっけらかんと振られたので、これで気が済みました」
最後に彼はそう言ったのでした。

<終>

突然店を辞めた彼女が・・・(1)| 秘密のあっ子ちゃん(280)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

彼は二十五才になるサラリーマンです。
今年の夏、彼はキタのキャバクラへ行きました。
ここまで書けば、いつもこのコーナーを読んで下さっている皆様はもうお分りでしょう。
そうなんです。彼はそこで知り合った女の子を探してほしいと人探しの調査を依頼してきたのでした。
マ、ここまでは、水商売の女性に惚れてしまった男性によくあるパターンのお話なのですが、今回のケースがいつもと違っていたのは、依頼人である彼と探される彼女の双方の対応にありました。それは調査している私達の方が少しとまどってしまう程、律義なものだったのです。
彼は彼女の本名を知りませんでした。彼女の源氏名は「サクラ」ちゃん。
その「サクラ」ちゃんは彼より四つ下の二十一才で、短大を出ていました。大学の頃からバイトで水商売をしていたということでしたが、すれた所が全くなく、気立ての優しい、笑顔の可愛いい女の子でした。
そんな性格ですから、客に人気があっただけではなく、店長を初め店の男子社員、同僚のホステスさんからも可愛いがられていました。
依頼人(25才)が初めてそのキャパクラに行った時も、「サクラ」ちゃんはあどけなさが残る笑顔で迎えてくれたのでした。
彼の第一印象でもサクラちゃんは明るくて元気のいい、楽しい子でした。さほど美人ではありませんでしたが、丸顔のほほに出るえくぼがその明るさを一層引き立てていました。
彼はその店へ五回程通っています。
その間に彼は、彼女がある短大を卒業したこと、家庭がさほど裕福ではなかったため学生時代から水商売でバイトをし、学費の足しにしてきたこと、今は庄内の方で両親とアパート暮らしをしていることなどを聞いています。
「本当にイヤになるのよ。古くて狭いアパートだから風呂もなくって。近くの銭湯は店が終ってからじゃもう閉っているから、いつも来る前に入って来なくちゃならないんで、忙しくって…」
サクラちゃんはそんな風にグチったりしていました。 彼は当初、サクラちゃんに恋愛感情を持っていた訳ではありませんでした。ただ、話していて「楽しい子だな」とくらいしか思っていませんでした。
しかし、店で彼女の姿が見れなくなってからは気持ちが一変したのでした。
彼(25才)はサクラちゃん(21才)のことを楽しい子だなと思っていたものの、初めはさほど意識していませんでした。
ところが、夏の盛り、彼が店へ行くと、いつもは真っ先に目に飛び込んでくるサクラちゃんの元気のいい姿がありませんでした。店長に聞くと、夏休みだと言います。二、三日もしたら出勤するということでした。
一週間後、盆が明けた頃に彼が再び店へ行くと、彼女の姿はまだ見えません。
「サクラちゃんはまだ夏休み?」
彼がそう店長に聞くと、意外な答えが返ってきました。
「いや、実は休み明けに一日来ただけで辞めたんです。どうも体調がよくないらしくて…」
その言葉を聞いた時の衝撃を、彼は今でも忘れられません。頭をぶち抜かれたような感覚でした。もう会えないと知って初めて、サクラちゃんのことが好きだった自分に、彼は気づいたのでした。
それからというもの、彼はサクラちゃんのことを諦めようとしました。
「どの道、彼女と会えたとしてもうまくいきっこないんだから…」そう思うよう努めました。
彼(25才)はサクラちゃん(21才)のことを諦めようと努力しました。
しかし、諦めようとすればする程、想いはますます募っていきます。もう会えないと思うと、余計居ても立ってもいられず、会いたくなるのでした。時間が経てば経つ程、サクラちゃんのことばかり考えてしまいます。それは「寝ても覚めても」という言葉がぴったりでした。
「こんなことではいけない」と思った彼は、ついに当社に彼女の所在調査を依頼してきたのでした。

<続>