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浮気?思い過ごし?(1)| 秘密のあっ子ちゃん(228)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

今回は久しぶりに尾行のお話をしましょう。
以前にもお話ししましたように、浮気調査の依頼には依頼人の『思い過ごし』 もかなり含まれています。
今回お話しする依頼人のケースも、私は『どうもこの奥さんの思い過ごしのような気がする』と思っていました。
彼女が言うには、ご主人の帰りが遅い、車のドアを開けるときつい香水の香りがする、助手席に毛皮のコートの毛がついている、といったたぐいのものでした。
聞けば、ご主人は広告関係の会社を経営し、業務のほとんどは社員がこなしてくれる上に、不動産も所有していることから、長時間働かなくても済むと言います。その上、飲みに行くのが大好きで、しょっちゅうキタやミナミに出かけていると言うのです。
『それなら帰りも遅くなるでしょう。同伴で店の女の子を車に乗せただけでも、車の中に香水が香るし、毛皮の毛がつくことも十分考えられますよ。もう少し様子を見られた方がいいのではないですか?』
私はそう答えたのです。
『そんなもんなんですか?』お嬢さん育ちらしい彼女は、ネオンの世界のことは全く知らないようでした。
『”同伴”でもすれば、それくらいのことはありますよ』
帰宅が遅い、車に香水の香りがする、毛皮のコートの毛がついているといったことで、ご主人が浮気していると思い込んでいた依頼人は、”同伴”というシステムさえも知りませんでした。
『そんなもんなんですか?』
『もう少し様子を見られた方がいいと思いますよ』という私の言葉に、その日、彼女は納得して帰って行きました。
それから半年ほど経って、彼女から電話が入りました。
『今度は間違いないです! 名刺が出てきたんです!』
『いやぁ、名刺なんていうのはみんなに配りますよ』
『いえ、この前、カードの支払い明細に”婦人服”ってありましたから、問い詰めましたら、『行きつけの店の女の子の誕生日にプレゼントするって、前から約束していたから買ってあげた』 と言うんです。この子が絶対怪しいですよ!この名刺の子が服をあげた子だと言います!』
彼女の意気込みは、もう『そんなんで浮気と言えるかいな』と、私に言わせないものでした。
『この名刺の子に間違いないです!』
一度ならず二度も、ご主人の浮気を訴えてきた依頼人は、『私、夜も眠れないんです。食欲も出ませんし・・・どうしたらいいのか・・・』と辛そうに言いました。
私から言わせれば、金にゆとりのある経営者が毎夜ネオン街で遊び回っているだけとしか見えないものでも、当の奥さんにしてみれば悲痛でした。お嬢様育ちの彼女は、夫が常に自分の方に向いていてほしいと思っていました。仮に浮気が事実であっても別れる気など毛頭なく、ただただ不安なのです。
『主人は、服をプレゼントした子は前の店を辞めて尼崎の店に変わったから、もう会ってないと言ってるんですが・・・』
『尼崎? キタの子が尼崎へ?』
『ええ、そう言ってました。名刺の裏に電話番号が書いてありましたから、それが自宅だと思います。その子が尼崎の店に行ってる子かどうか確認してほしいんです』
私は変な依頼だと思いました。
『ご主人が浮気されているかどうかを確認されたいんでしたら、ご主人を尾行した方がいいんじゃないですか?』

<終>

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