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男女交際の会で出会った彼女は・・・(1) | 秘密のあっ子ちゃん(19)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。
 ある日、丹後地方から私宛に長文の手紙が届きました。差し出し人は二十七才の男性で、彼はその手紙の中である女性と知り合ったきっかけから彼女と連絡が取れなくなった経過をこと細かく記載し、どうしたらいいものかと相談してきたのでした。
 その手紙によると、彼が彼女と知り合ったのは東京の或る男女交際の会を通してのことでした。
 この会のシステムは、会費を収めて会員になると一定期間会報が送られて来、そこに恋人を募集している女性の中で気に入った人がいれば連絡を取るというものです。しかし、その連絡の取り方は全て「手紙で会を通して」というもので、相手に自分の住所や電話番号を知られたくない人のためになのか、直接のコンタクトは取らせてくれません。 それを読んだだけでも私は、この会がいかにも胡散臭いと思いました。
 サクラではなく、どこまで現実に交際を希望して掲載に応募している人が存在しているのかが疑わしくあるいは仮にそうした人が確かにいたとしても、売春のカモフラージュや「援助交際」を求める手だてとして使われているのではないかと感じたのです。
 依頼人(二十七才)は純真なのか、あるいは全くの世間知らずなのか、手紙の文面を読む限り、その男女交際の会の会報に応募している女性が現実に存在し、彼女達が心の許せる恋人を求めていて、段階を踏んだ恋愛関係に発展していくことを望んでいると信じているようでした。
 彼はその会報に出ていた大阪在住の二十三才の女性に連絡を取ることにしました。
 彼は休日にはよく大阪へ遊びに出てきていましたので、「大阪で一緒にお茶でも飲めるガールフレンドに」というような軽い気持ちで、彼女宛の手紙を会に出したのでした。
 ところが何度も手紙を交換している間に、彼女に強く魅かれていったのです。それというのも、次第に彼女の方が彼に積極的にアプローチし出したからです。 同封されていた彼女からの手紙のコピーを読むと、その内容は初めこそたわいもない自己紹介や近況報告でしたが、次第に彼を信頼し、彼女の心の中に彼の存在が大きく占められていく様子が書かれていました。そしてセックスを臭わすことや、ついには彼女のヌード写真までが同封されてきたのでした。
 同封されていた彼女からの手紙を見ると、最初の一通だけはワープロで、あとは全て万年筆で書かれていました。
 ペンをかなり使い慣れている文章で、依頼人(27才)は私宛の手紙に「文章にも品があり、大変流暢なものでした」と書いていました。が、私はその文字を見た途端、疑惑をますます深めていったのです。
 第一、最近の若い女の子はほとんど万年筆など使いません。
 しかも、その文字は若い女の子によくありがちな丸文字ではなく、かなり難しい漢字を随所に使用していて、私の年令ですら(ちなみに41才ですが…)既に使わない漢字の草書体を多用しているのです。例えば「本」を「 」、「高」を「 」といった具合です。また、今では若年者の多くが漢字では書かない「あなた」を「貴男」と書いてみたり、「いろいろ」を「いろ 」と書いてみたりしているのです。
 それに若者特有のカタカナの多用や擬音の多用がまるでありません。 私は、この手紙の筆者は少なくとも私より年上の、おそらく五十才以上の人間だと確信しました。しかもこれは女文字ではない!男の手によるものだということも…
 “彼女”から送られてくる手紙の文面は回を重ねるごとに過激になっていきました。「…ゆかりが心に思っているのは貴男だけです」が「何回かデートを重ね、ゆかりという女を解って下されば…でも貴男と俗に言う男と女の関係になってしまったら、どうしようかなあ?きっと、ゆかりは苦しむ事でしょうね。でも貴男とだったら、別れが待っていても男と女の関係まで進んでしまいたい気持ちです。ゆかりは日毎に貴男に魅せられています…」となっていくのです。
 私はその文章を読みながら、「このおっさん、よくやるよ」と思うと同時に反吐が出そうな思いを押さえることができませんでした。 依頼人(27才)が“彼女”に手紙を出す度に、この筆者は、毎回丁寧に長文の返事を書いて寄こしていました。しかも、男性が何を言われれば嬉しいのかという壺をちゃんとを心得えていて(もっとも筆者が男なら、そんなことは苦もないことでしょうが…)、依頼人が「ゆかり」という女性に夢中になるのに時間はかからなかったようです。 依頼人は“彼女”の「そちらの美しいテレカを送って下さいませんか」という言葉をきっかけに、プレゼント攻勢に出たようです。テニスが趣味だという“彼女”のためにテニスウェアを送ったり、「十八金の太めの喜平型ネックレスが欲しくて、今お金を貯めている」という“彼女”のために、それをプレゼントしたいと申し出たのです。
 それに対する“彼女”の答えがふるっています。「そんなに高価なもの、プレゼントされたら、ゆかり困ってしまいます。でも、そんなに言って下さる言葉だけでも嬉しいです」と書きながら、その次の手紙にも「あっ、そうそう、ネックレスことですが、ネックレスとかの物質よりも貴男の心が一番欲しいのです」とひつこく書いて、決してネックレスの話を立ち切れにさせません。そして、依頼人が自ら望んでプレゼントしてくるように仕向けているのです。
 「そもそも、若い女が太めの十八金喜平型ネックレスなんかをするか!」と私は思ったものです。
 ついに十八金ネックレス(もちろん太めのものです)をプレゼントされた“彼女”は、依頼人の心をもっと繋なぎとめておこうと、何とヌード写真を送ってきました。
 「お盆に女子社員ばかりでキャンプに行った時、若いうちにヌードを記念に残しておこうという話になり、みんなで撮りあったのです」そう説明しながら同封されてきた写真は、とびきり可愛いい女の子でした。
 しかし、服を着た“彼女”、下着姿の“彼女”、オールヌードの“彼女”の写真は素人が撮ったスナップにしては凝りすぎていました。後ろの風景は同じでも、三枚の彼女はそれぞれの情況に合わせてヘヤースタイルを変えていましたし、表情の捕え方が抜群なのです。友人同志で撮り合ったにしては腕が良すぎる不自然さに、私はおそらくプロのカメラマンがAVモデルを撮影した写真か何かなのだろうと推測していました。
 依頼人(27才)に送られてきた“彼女”の写真に、私が「おかしい」と思ったのは、友人同志で撮り合ったにしてはあまりにも腕が良すぎるということだけではありませんでした。
 そもそも「若いころの記念に」という理由であっても、女性は女友達同志でヌードを撮り合うなんてことは絶対にしません。「若くて美しい間に」とヌードを撮ってもらうのは“彼”と相場が決っているのです。しかも一緒に寝るどころか、顔も見たことのない“文通相手”の男に、いきなり自分のヌード写真を送るような女がいる訳がありません。 しかし、依頼人はそういうことには気づかず、“彼女”への想いはピークに達したのです。「会いたい」と何度も申し入れました。 ところが、彼女の返事はいつも「ノー」でした。「貴男に会いたくてしかたがない」とか、「このまま列車に乗って、貴男に会いに行こうかと思った」とか書きながら、彼が具体的に会う日を申し出ると、やれ出張だの、やれお母さんが病気になったので看病しないといけないだのと口実を設けては会おうとしないのです。この二つの理由は、決して会うことのできない人の常套手段としての口実なのですが…
 そして、ついに“彼女”はその本音を明らかにし始めたのです。
<続く>

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