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連れ去られた?娘(1) | 秘密のあっ子ちゃん(141)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

今回から家出人捜索のお話をしたいと思います。

家出人や蒸発者の捜索は、家族からの依頼だけに限ってお受けしていますが、ひと口に家出人と言ってもさまざまな事情があります。

ある日突然、会社から戻らなくなった夫。

子供に置き手紙を残し、ほんの少しの身の回り品だけを持って消えた妻。

「定職につけ」と厳しく叱った翌日からどこへ行ったかわからないプータローの息子。

駆け落ちをして電話一本の連絡もない娘…などなど。

まずは、今年の春に家を飛び出した十九才の女性のお話から始めます。

最初に彼女の父親から電話があったのは、三月下旬でした。

彼女は一人娘で、両親と共に奈良市に住んでいました。父親は船場の老舗の店を経営し、彼女は京都のある短大へ自宅から通学していたのです。
それが父親の話による一と、卒業を目前に控えた三月三日、何の置き手紙もなく突然、「家を出た」というのです。
相談に来られたご両親はさすがに傭伴(しょうすい)されていました。
「ひとり娘が短大の卒業を目前に、何の置き手紙もなく家を出てしまった」こう言って飛び込んでこられたご両親はひどくやつれたように見えました。

特に母親の方は見るのも忍びがたいほどで、私は『ご両親の心痛はいかばかりか』と、相談の内容を詳しく聞き始めたのです。

ところが、ところがです。父親の話を聞いているうちにだんだんと腹が立ってきました。

つまり、こうでした。

「娘さんが家出される原因に何か心当たりはおありですか?」

「あります。男に連れ去られたんです」

(え!?なにそれ?)

「『連れ去られた』と言うと誘拐ですヨ」と私。

「いやいやそうじゃなくて、その男というのは娘の高校時代の同級生で、親に隠れて四年もつきおうとったらししいです。今年の正月、その男がウチにやってきて、『将来、結婚させてほしい』というもんで追い返してやったんです」「娘は親の言うことをよく聞く素直な子やったのに、それ以降というもの反抗ばかりするようになって、みんなあの男がそそのかしているんですワ」

 

一人娘が短大の卒業式を前に家出したと相談に来た父親の話をよくよく聞いてみると、それは「家出」ではなく「駆け落ち」でした。

・また、このお父さんがひどい。

「結婚を前提に交際したい」と筋を通してあいさつに来た娘の同級生を怒鳴って追い返す。しかも、それからというもの反抗的になったお嬢さんの態度もその男性がそそのかしたのだという。そして彼女が家を出た理由に至っては「男が娘をだまして連れ去った」と言い出す始末なのです。私はと言うと、この父親の話を聞いているうちに、もちろんムカムカしてきました。(これじゃあ、娘さんも家を出たくなるわなあ)(いまだにこんな父親がいるんやなあ)しまいにし、頭痛を通り越して「ウーム」と感心してしまいました。

しかし、まだ納得するには早かったのです。

「正月、あの男を追い返してからというもの、素直だった娘が反抗的になって二月の初めに最初の家出をしたんです」

「えっ!?家を出られたのは今回が初めてじゃないんですか?」

<続>

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