このページの先頭です

中学3年生からの依頼(4)| 秘密のあっ子ちゃん(216)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

彼女の留年で、会うことを再び一年待たなければならなくなった依頼人(高2)。
それでも、彼は「待つ」と言いました。
その二年半程、私たちは彼の消息を知りませんでした。
その間に、当社は西中島から心斎橋に移転し、株式会社になりました。久しぶりに彼から電話がかかって来たのは、秋の初めでした。中学三年生だった彼も既に二十歳になっていました。
「覚えてくれてはりますか?」電話口の彼は言いした。
「ええ、もちろん!元気でしたか?彼女には会えましたか?」と私。
「それが・・・」
語り始めた彼の話に、私は「なんと、まぁ・・・」と絶句したのでした。
彼女が留年して、再び一年待った彼は、次の年の三月の終わりに、直接施設を訪ねたのだそうです。
彼女は無事中学校を卒業したようで、今度はちゃんと「今、おばあさんの所にいる」と教えてもらったそうです。
彼は、すぐにおばあさんの家へ行きました。
ところが、「一週間ほど前に出て行った」と言わたのだそうです。
彼女は、施設からおばあさんの所へ戻ってきてすぐ、「一人で暮らす」と出て行ったようです。
おばあさんは、彼に彼女がどこで暮らしているのかは教えてくれませんでした。
二、三カ月ほどして、彼は例の女友達に頼んで、おばあさんに聞いてもらいました。しかし、おばあさんは、その女友達にも彼女の居所を教えてくれませんでした。どうも、「友人」では警戒されてダメのようでした。
「縁がないのかなぁ」
彼は諦めようと思いました。
それからまた、一年程たちました。
彼の「彼女に会いたい」 という気持ちは、まだ消えませんでした。
「縁がないはずはない」彼は思いました。
そして、ある興信所に彼女の所在調査を依頼したのでした。
「ウチに言ってくれればよかったのに」私は言いました。
「ええ、そう思って西中島に行ったんです。移転しているのを知らなくて・・・。潰れたのかと思いました」と彼。
私はガクッとなりながら、「マ、そらそうだろう。NTTの移転案内は半年しかしないからネェ・・・」 と思ったのでした。
彼が依頼した興信所は、彼女の居所を聞き出してくれました。
報告を受けた彼は、その日中に彼女が住んでいるとていうマンションに行きました。
しかし、何と、彼女は一ヶ月以上も前に、そこを引き払っていたのです。
「引き続き、その興信所に頼もうと思ったら、料金がすごく高くなると言われて困っていたんです。電話帳を見ていたら、そちらが心斎橋に移転しているのが分かって、さっそく電話したんです」と彼は言いました。

五年来、彼の彼女へのけなげな思いを知っている私達は、『今度こそ会わせてあげたい』と、必死で調査を行いました。しかし、 彼女の行方は、ようとして分かりませんでした。
聞き込みによると、彼女は『若い男ができて、二人でどこかへ行った』ということでした。
マンションの管理人も、 彼女が引っ越すまで勤めていた職場も、その『男』の名前は知りませんでした。 おばあさんも、今度ばかりは、本当にどこへ行ったのか知りませんでした。
『男と出て行ったまま、 どこへ行ったのやら・・。連絡一つ、よこしてこないですヨ』おばあさんはそう言いました。
しかし、彼も私達もまだ諦めてはいません。
つい先日、彼は私にこう言いました。『今、一番後悔しているのは、彼女に交際を申し込まれた時、自分も好きだということを言わなかったことです。彼女は、自分の片思いだと勘違いしていると思います』
そしてこうも言いました。
『この文章を彼女が見てくれて、自分のことだと気がついてくれたらいいのに ・・・』と。
そして、最後にこう言ったのです。
『今度こそ、ちゃんと言います、いや、是非、伝えたいんです。ずっと好きだった』と。

<終>

Please leave a comment.

入力エリアすべてが必須項目です。メールアドレスが公開されることはありません。

内容をご確認の上、送信してください。