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巫女さんに一目ぼれ(2)| 秘密のあっ子ちゃん(187)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

「今のお話では、調査と言っても、神社の関係者に 聞き込むしか手はありませんヨ」ちょっと戸惑いなが らそう言う私に、依頼人 (32才)はすかさずこう答えたのでした。
「それしか方法がないのは分っています。どうして も自分では聞きに行けないので、代わりに聞き込んでほしいのです。それでダメだったら諦めもつきます」  彼は仕事で出向いた神社の巫女さんを見染めたのでした。
私としても、本人がそこまで納得ずくの話なら断 る理由もありません。早速、神社に向ったのでした。
これこれと尋ねる私に応対に出てくれた一人の巫女 さんが結婚式場の主任さんに引き合わせてくれまし た。もの腰が柔く、丁寧な口ぶりの男性でした。
「ああ、あの日はとても忙しい日でした。ウチでは 式場の受付は全て神社の巫女さんが立たれることにな っております。私共スタッフは常にサロンの方でお客 様をお待ちしておりまして、受付にはあまり行かないのです。ですから、受付のことは把握しておりませんので、ちょっと分りかねますねぇ。せっかくお越しいただいたのに申し訳ありません」
彼はそう言いました。そこで話を切られてしまって は聞き込みもなにもあったものではありません。
「どなたか受付のことをご存知の方はいらっしゃい ませんでしょうか?」
私は押します。
「さあ、受付のことは誰が管理しているのか・・・」そう言いかけた彼はじっと見つめる私に気づくと、「じゃあ、ちょっと、宮司さんに聞いてみましょう」と言って、奥に入っていきました。私は内心「やった」と思いながら、彼を待っていました。
しばらくして、彼は明らかに宮司さんと分る白い着 物に水色の袴を着けた初老男性を連れて戻ってきまし た。温厚そうな顔立ちの中に、全てを見抜くような眼 光を持った、いかにも”人格者”といった人でした。
「すみません。お忙しいところを・・・」私はそんな宮司さんの前で、いつになく少し緊張していました。依頼人が自分では聞きに行けないと言った理由が分るような気がしました。
ところが、答える宮司さんの口調はとても優しいも のでした。
「あの日は行事がありまして大変忙しく、たくさん のアルバイトの方に手伝っていただいておりましたね ぇ。その時受付に立ってもらっていた巫女が、アルバ イトの方か神社の者か今からではちょっと分りませ ん。担当が決っている訳ではなく、随時手の空いた人 が受付に立ってもらうようにしておりましたので・・・。
神社側の巫女でしたら、当日受付に立ったかどうか聞けば分るかもしれませんが、アルバイトとなるとちょっと分らないと思いますねぇ」
「その日来られていたアルバイトの方の、お名前だ けでも分りませんでしょう か?」
「それが、アルバイトの人はそれぞれ氏子さんの口 コミで来てもらっていますので、その日どなたに来て いただいていたのか、私ですら分らないのですよ」
こうなると、彼が見染めた巫女さんがアルバイトで ないことを祈るのみです。

とりあえず、私は宮司さんの許しを得て神社専属の巫女さんに、当日受付に立ったかどうかを一人一人に確認することにしました。
確認には例の式場の主任さんが案内してくれました。私は「今日が忙しくない日で良かった」と 思ったものです。忙しければ、そこまで確認に回らせてはくれなかったでしょう。
結果、受付に立った正規の巫女さんは三人いました。
ところが、そのうちの一人がこう言ったのです。
「あの日、受付に立ったアルバイトの人は五人や六人ではなかったと思いますよ」
こうなると、彼が見染めた巫女さんがアルバイトでないことを祈るのみです。
数日して、私は「ドキドキする」と躇う依頼人を叱咤激励しながら、再び神社を訪れました。
「当日受付に立った正社員の巫女さんはあの人とあの人と・・・」と説明しながら、彼と共に境内を 歩き回りました。
私が三人目の巫女さんを指さした時、彼の顔が見る間に真っ赤になったのです。
それで全てが分った私は、「あとは自分で言わないと男じゃない!」と、彼の身体を、筆で何かを書きつけているその巫女さんの方へ押しやったのでした。

<終>

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