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憧れの主治医の先生(1)| 秘密のあっ子ちゃん(207)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

前回のお話は、年の差を気にしすぎて遠慮したばかりに、心に残る人を探し当てた時はすでに知人の奥さんになってしまっていた、というものでした。
今回は逆に、ずっと気になっていた人を探し当てて思いを告げ、ハッピーエンドになったお話をしましょう。この方にも、「年の差」があったのですが・・・。
依頼人は二十四歳の広島県在住の女性でした。
彼女は高校一年生の時、スキーで足を骨折して一カ月ほど入院しました。
彼女は学校ではバスケット部に所属していました。ちょうど、春に向けてレギュラーになれるかどうかがかかった大切な時期です。
それまでの一年間、彼女はレギュラーのポスト獲得だけを目指して必死で練習をしてきたのでし た。
その重要な時期に一カ月以上も練習できないことは、レギュラーになることが危ういことを意味します。
自らの不注意で骨折したことは分かってはいるものの彼女はかなりいら立っていました。
そんな彼女を優しく治療してくれたのが、転勤してきたばかりの二十九歳の主治医の先生だったのです。
彼女はだんだん先生の優しさにひかれていきました。
あれだけ早く退院したいと思っていたのに、いつ知れず『もっと病院にいたい』と思うようになっていたと言います。
しかし、いつまでも入院を続ける訳にはいきません。彼女は内心、『泣く泣く』退院しました。
それも、まだ通院している間は良かったのです。その日には、あこがれの先生に会えるのですから・・・。
ところが、とうとうけがも完治して病院に行く理由がなくなった時、彼女は困りました。
『あこがれの先生に会え なくなるのはイヤだ!』
何かいい方法はないか、と思案したのですが、なかなか妙案は浮かんできません。
しかし、そんなことでめげる彼女ではありませんでした。
思案に思案を重ねるうちに彼女はふと、思いついたのだそうです。
『別にけがや病気でなければ病院に行っていけない、ということはない』
言ってみれば十六歳のけなげな開き直りです。
それからというもの、彼女はちょくちょく病院へ遊びに行くようになりました。
一カ月という入院生活で顔見知りの看護婦さんも多くいたものですから、ロビーにいるとみんなが声をかけてくれました。  お目当ての先生が通れば、彼女の方から声をかけて、ひと言、ふた言話をしました。彼女はそれで満足して帰って行ったのです。
そうしたことが何カ月も続くと、病院の人たちは誰もが、『彼女はあこがれの先生に会いに来ているのだ』と知れ渡りました。
が、別にとがめられることもなく「先生はきょうは休みヨ。 あすまたおいで」と言ってくれたりしました。
彼女の高校生活は、バスケットの練習と部活動が休みの日の病院通いに費やされて過ぎていきました。

<続>

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