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キャバクラの彼女は・・・(2) | 秘密のあっ子ちゃん(32)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。
彼女(25才)には婚姻歴があることが実家のお父さんからの話で判ってきました。しかも、一児をもうけ、既に離婚していました。 以前勤務していたという会社を、彼女が依頼人(37才)に本名だと言っていた名前でいくら探しても該当者が出てこないはずです。彼女はその当時は婚家の名前で勤めていたのです。  やっとのことで彼女の所在が判明してきた訳ですが、難行したケースが判明してきた時のいつも喜びはありませんでした。「後にも先にも彼女に代る人はいない」と言っていた依頼人の心情を思うと、この事実を知った時、どれほど落胆するだろうかと気が重かったのです。
彼女の居所が判ったといそいそと調査結果の報告書を受け取りにきた彼は、案の定、私の説明を聞くうちに顔の血の気が引いていくのが分りました。
しかし、それでも彼は、「離婚して、若い女手一つで小さい子を抱えているなら、なおさら力になってやれることはないかと思います。彼氏か誰かがもういるのなら僕の出る幕じゃありませんけど…」と言いました。
彼は、彼女が既に誰かと一緒に暮らしているのなら、直接自分が出向いていくと、却って迷惑がかかると、私達にコンタクトの代行を依頼したのでした。
彼女(25才)が依頼人(37才)には語らなかったその経歴を知ると、彼は落胆するどころか、「それならなおさら自分でも力になれることがあるかもしれない」と言ったのでした。そして、今、彼女がどんな暮らしをしているのか知りたいと言いました。
しかし、万が一、彼女が既に他の男性と一緒であれば却って迷惑がかかる。そんな思いが、彼をして自分で直接訪ねていきたい衝動を押さえさせました。彼は私達に彼女の現状を見に行くことと、彼女へのプレゼントとして赤い鮮かなセーターを託したのです。
彼女の家へは年配の女性スタッフが出向きました。 彼女は誰かと暮らしているという様子は伺えませんでした。幼い息子と一緒であるのはもちろんのことでしたが…。
応対に出た彼女は、最初、「何故ここが分ったのか?」という具合に驚いていましたが、「どういう風に暮らしているのか、心配されて…」というスタッフの説明を聞くと、快く彼からの贈物を受け取ってくれたのです。そして、「私の方からお礼の電話を入れます」と言いました。
彼は期待に胸をふくらませ、彼女からの電話を待っていました。しかし…
しかし、待てど暮らせど彼女からの電話は入りません。
三週間が経ち、業を煮やした彼は彼女が住んでいるマンションまで行ってみました。すると、何と彼女はそこを引っ越していたのです。
彼からの相談を受け、私達は管理人さんに聞き込んでみました。
その結果、少しは彼女の様子が分ってきました。管理人さんの言うのはこういうことです。
彼女が引っ越したのは、依頼人が訪ねていった一週間前のことでした。誰か男性と同居していたということではなく、幼い息子と二ケ月ばかり暮らしていたということでした。但し、引っ越しの時は若い男性や友人らしい女性が手伝いに来ていたと…。
彼は悩んでいました。状況から考えると、彼に所在が分ったために慌てて引っ越したとも考えられます。しかし、彼の心情に沿って解釈すれば、引っ越しの慌ただしさのために彼に電話を入れる間もなかったとも考えられなくもありません。

「僕が彼女の居所を知ったので迷惑だと思って引っ越したなら、これ以上追うのは申し訳ないし…」

彼は悩んでいました。
確かに、彼女(25才)が引っ越した理由はそうであるかもしれません。しかし、当社のスタッフが訪ねていった時の反応の良さを思うとそうとも言いきれませんでした。それに依頼人と彼女のこれまでのつながりを考えると、そんな理由だけで住み心地の良さそうなあのマンションを僅か二ケ月で引っ越すだろうかと疑問が残りました。
これは、依頼人にとっても却って消化不良を起こしていました。「こういうことだったら、はっきり嫌だと言われてる方がまだ気持ちがすっきりする」彼はそう言っていました。
確かにその通りでしょう。迷惑なら、スタッフが訪ねて行った時にはっきり言うなり、「電話する」と自分から言ったのなら、ちゃんと電話して自分の真意を伝えてあげるべきでしょう。期待だけ持たせておいて、再び雲隠れのようなことをするのでは、私としても“依頼人”というひいき目を差し引いても、「彼女も罪作りだなぁ」と思ったものです。
依頼人からの要望があればまだしも、普通は当社の方から差し出がましいことは言わないものなのですが、彼(37才)の悩んでいる姿を見かねて、私は彼女(25才)の引っ越し先を突き止めて、再度彼女の様子を見ることを提案したのでした。
彼女の新しい住所は意外に早く判明してきました。しかし、新しい住居で彼女は再婚し、新たな生活を始めていたのでした。
彼には何とも報告しづらい事実でした。しかし、私達には事実は事実として報告する義務があります。
ところが、彼は一度目の報告の時と比べて意外と淡々としていました。
「再婚して幸せになっているのならそれでいいです。今さら押しかけていこうとも思いませんし…。ただ、電話ででも彼女の口から一言聞きたかったという気はありますが…」
彼はそう言いました。そして、照れ笑いを隠しながら、こうも言ったのです。 「だけど、この名前の男性のことは知っていました。やっぱりお客さんで、よく指名してくれる人ということで、彼女からその名前を聞いたことがあります。お客さんと再婚したのなら、僕ももう少し積極的にアプローチしておけばよかったかなぁという思いは残りますけど…」
<終>

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