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キャバクラの彼女は・・・(1) | 秘密のあっ子ちゃん(31)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。
その日やってきた男性は三十七才の、まだ青年らしい面影を残した優しそうな人でした。ハンサムということでもなく、派手さがあるということでもありませんでしたが、話しているとその誠実な人柄が伺われました。
その彼がキャバクラに勤めている女性に恋をしたのです。
初めて彼女を見たのは、会社の忘年会の流れで同僚達に誘われ、その店に行った日のことでした。彼女は彼らのテーブルについたのです。
目がぱっちりとして色白で、髪の毛をショートカットにした、どことなく内田ユキに似た娘でした。水商売ずれしたところがなく、彼は一目で彼女を気に入りました。
ご他聞に漏れずと言いますか、それからというもの、彼は頻繁に店へ顔を出すようになり、彼女を指名したのでした。
彼女は二十五才。彼とは一回りも違いましたが、彼が独身であるせいか、音楽やスポーツの嗜好がまだまだ若く、彼女とは結構話が合いました。
そうこうするうちに、これもご他聞に漏れず、店が退けた後一緒にカラオケに行ったり、同伴を頼まれたりするようになったのでした。
彼女(25才)は客の中では人気のある娘でした。 店が退けた後に一緒に飲みに行くようになったり、同伴を頼まれるようになると、彼女は彼(37才)に自分のポケベルの番号を教えました。そのポケベルは明らかに営業用のものだということを彼は知っていました。それでも彼女は、
「いろんなお客さんからベルが入るので、ややこしくなるから、最後に“1”を打ってネ」
と言ったのです。
「じゃぁ、客の中では僕は一番なのかな?」などと彼は内心思ったのでした。 彼が彼女を知って一年近く経ったころです。彼女は店をしょっちゅう休むようになりました。
「今日も休み?」
ある日、彼は店長に尋ねました。
「実は、先週一杯で退めたんです」
そんな返答が返ってきました。それから一週間すると、ポケベルも使用中止となりました。
彼は後悔していました。というのも、彼女が退める直前、いつものように同伴を頼まれたのですが、「今日は仕事が忙しいから、また今度に」と言って断ったのです。彼女からの連絡は、それが最後となったからです。
三十七才の依頼人にとって、もちろん彼女(25才)が初めての恋ではありません。結婚を考えた人がいなかった訳でもありませんでした。しかし、これまで最後の一歩が踏み込めず、独り身で通してきました。
そんな彼にとって、彼女は今まで知りあった女性とは全く異っていたのです。 「後にも先にも、たぶん彼女以上の人は現われないだろうと思います」
彼はそう語っていました。 「今、幸せで元気にやっているのならそれはそれでいいんですけど、どうも何か事情もあるようだったし、もし困っているのなら、僕でできることなら手助けをしてやりたいんです」   彼は彼女の源氏名だけではなく、本名も知っていました。それに水商売に入る前に勤務していた会社も出身地も聞いていました。彼女の方も彼を信頼し、一般的な客とホステスの関係以上のことを話していたようです。
ですから、人探しの調査はそれほど難行すると考えられませんでした。
ところが、蓋を開けてみれば、この調査はそうおいそれと簡単に片付づくようなものではなかったのでした。
彼女(25才)は店で働いている間は店の寮に住んでいました。
私達は、まず彼女が以前勤務していたという繊維会社へ聞き込みに入りました。ところが、元在職者の名簿をどんなに繰ってもらっても、それらしい名前が出てきません。古くからいる“お局さん”のような人に聞いてもらっても、「私は十五年くらい前からの人ならだいたい覚えていますけど、そんな名前の人は聞いたことないですねぇ…」という返答だったのです。
次に、私達は依頼人(37才)が彼女と連絡が途絶える直前に自動車学校へ通っていたらしいという情報から、寮から通い易い範囲の自動車教習所を軒並み当たりました。どこの職員も皆親切で丹念に調べてくれたのですが、やはり該当者はありません。
こうなると、彼女が彼に「本名だ」と言っている名前が、本当にそうなのか疑わしくなってきました。
そこで、私達は店へと向いました。水商売では従業員のプライベートのことはなかなか答えてくれないということはハナから分っていましたので、ツテを頼り、水商売仲間の人に同行を頼んでのことでした。
水商売仲間に同行してもらったのは効果てきめんでした。彼女(25才)が依頼人に言っていた名前は本名であることが間違いないということが分りました。しかし、実家の住所や店の寮に住む以前の住所は履歴書にも空欄となっていて、それ以上の手がかりは把めませんでした。
彼女の苗字が間違いないと分ると、私達は彼女の出身地、鹿児島県のその姓を軒並み電話をかけ始めました。いつもの如く、その数はかなりに上ります。
百数十軒目の電話で、こんな話を聞くことができたのです。
「ああ、それやったら、裏の家の娘とちゃうかな?ウチとは遠い親類に当たりますけど…。確か、結婚してすぐに大阪へ出たけど、一、二年で離婚したという話を聞いてます。詳しいことは裏に聞いてみて下さい」(勿論、今お読みいただいたような大阪弁ではなく、鹿児島弁であった訳ですが、私は大阪弁以外再現不能ですので、皆様の方で鹿児島弁でお読み直し下さい)  という訳で、彼女が以前勤務していた会社で、「そんな名前の人は聞いたことがない」という理由が明らかになりました。彼女は婚家の名で勤務していたのです。
<続>

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