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いじめの記憶(2) | 秘密のあっ子ちゃん(41)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

そんな時、彼(21才)が彼女に声をかけてくれました。
「どうしたの?このごろ元気がないみたいだけど」 「友達がサークルを退めてしまって淋しいんです。彼女と私は共通するところがありましたから…」
彼女はそう答えました。 「僕じゃだめ?」
驚くべきことに彼はそう言ってくれました。
しかし、彼女は素直な反応ができませんでした。これまでの苦い経験からくる、悲しい自己防衛心が出てしまったのです。
「僕じゃだめ?」
彼(21才)がそう言った時、彼女(19才)は慌てて、「いえ、先輩には分らないことですから」そう答えてしまいました。
「いじめられた」という辛い経験からとはいえ、未だに対人恐怖症を引きずっている自分への自己嫌悪と、他人の好意を素直に受け止められない、というより自分が傷つくことを極度に恐れてしまう臆病さが情けなく、彼女はますます落ち込んでしまいました。
そんな時に、拙著「初恋の人探します」を読んだのだそうです。
彼女は、その中に登場してくる依頼人のそれぞれの想いの強さに衝撃を受けたと言います。そして後悔ばかりしていないで、意を決して自分の想いを伝えたいと思うようになりました。 もちろん、彼に直接会って、自らの口で伝えるのがベストだということは、彼女自身も分っているようでしたが、いくら「意を決した」と言っても、そこまでの勇気は持てなかったようです。手紙を送れる住所を知りたいというのが彼女の希望でした。しかも、「サークルの仲間には誰一人知られないように」という条件つきで…。
調査といっても、彼女(19才)の依頼は、これまでの多くのケースと比べれば、さほど難しいことではありませんでした。いくら「サークル仲間には知られないように」という条件がついても、在学中の彼(21才)の住所を割り出すことは易すいことでした。 彼の現住所はすぐに分ってきました。彼は、田舎から出て、東京で働いているお兄さんと一緒にマンション暮らしをしていました。大学へはそこから通っていたのです。
彼女は清水の舞台から飛び降りるつもりで、生まれて初めての勇気を振り絞って、彼への手紙を書きました。後に、「思うように気持ちのままは書けなかった」と言っていましたが…。
三日後、彼から電話が入りました。
「一度、ゆっくり話そう」ということだったらしいのです。
私はその後、二人がどういうデートをしたのかは知りません。しかし、これをきっかけに、彼女の対人恐怖症が少しでもましになって、彼女の足かせとなっている「いじめに会った」といういやな記憶が少しでも薄らげばいいなぁと思っています。

<終>

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