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本気で愛した人が実は・・・(1) | 秘密のあっ子ちゃん(53)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

その日、電話をかけてこられた女性は随分歯切れの良い物言いをする女性でした。年の頃なら四十一、二。主婦というより、女社長か生粋のキャリア・ウーマンと言った感じの人でした。彼女は語り口調がハキハキしているというだけではなく、話の飲み込みが早く、発言も的確でした。
彼女の依頼というのは昔の恋人を探してほしいということだったのですが、はっきりと物を言う彼女が、その辺のことになるとどうもあいまいとなります。何かいわくありげなその彼女の人探しの調査依頼に、私はこれまでの経験から難かしさを感じていましたが、話を聞き進むにつれて、彼女の意外な側面が分ってきたのでした。
まだ二十代の後半だった十五年程前のこと、彼女は一人の男性とつきあっていました。彼は彼女より四つ年上の、曲ったことが大嫌いな男らしく逞しい男性でした。敏捷に動く鍛えぬいた身体やスマートな身のこなし、他人には恐がられる目つきの鋭ささえも、彼女にとっては魅力の一つと思えたのです。
二人のつきあいは、単に「交際していた」と一言で言い切れるような生やさしい繋がりではありませんでした。
彼女が生まれて初めて本気で愛したその人は、関西のヤクザの中堅幹部だったのです。
彼女(41才)が初めて彼(45才)を知ったのは、彼女がまだ高校生の頃で、彼ももちろん「堅気」でした。学生時代から先輩などの関係で、「その方面」のつきあいはあったようですが、歴とした商社に勤務するエリートサラリーマンでした。
彼はもともと学業優秀で、某有名私立大学経済学部を卒業したばかりの、将来を嘱望される青年でした。ところが、ひょんなことからある組の組長に可愛がられるようになり、組に頻繁に出入りするようになるうちに、いつしか正式に構成員となって、二年程後には会社も辞めてしまったのです。 二人のつきあいは彼女が大学に入学した頃から始まりましたが、彼女は当初、その辺のことは全く知りませんでした。ある日、会社に電話して退職しているのが分り、強行に問い正して事実を知ったというのが本当のところです。
もちろん、彼女の両親は二人のつきあいには大反対しました。その両親の反対を振り切り、背くように一緒に暮らし始めた頃は、彼はもう若頭になっていました。
当時、彼女はデザイナーという歴とした堅気のキャリア・ウーマンで、既に自分のオフィスも持っていましたが、出入りする彼の弟分達には「姉さん」と見られていました。
なるほど、それで彼女がテキパキとした印象を与えるんだなと私は納得しました。
当社での行っているこの「思い出の人探し」は、あくまでも人の善意の上に立った所在調査ですので、悪用されることを防ぐためにも、依頼を受ける時には必ず「何故探すのか」という動機を聞きます。
彼女はこう答えました。「私達の子供がもう大きくなってきたので、せめて
私だけでも父親がどこで 何をしているのかを知っておきたいと思って...」 彼と一緒に暮らしている間、彼女は籍をいれたかどうかは明確にはしませんでした。ただ、話の雰囲気から察するに入籍はしなかったように感じ取れました。 彼女は彼と別れた理由についてもあまり語りませんでした。私達は調査に必要な事項や依頼の動機以外、依頼人が話したがらないことについては無理に聞かないことにしています。ですから、その辺のことは皆様にはお話ししようがないのですが...。

<続>

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