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老紳士の後悔(2) | 秘密のあっ子ちゃん(52)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

 返事は来ませんでした。その人が先妻に違いないと考えていた彼は、翌年、もう一度手紙を書きました。 「四十五年前の償いとして、今後毎月十万円を送金させていただきます」と書いて、現金を同封したのでした。
 返事は来ました。しかし、そこには、
 「人違いです。お金は返します」
 と、ただそれだけが書かれてあったのでした。
 彼(74才)は諦めきれませんでした。残された時間だけが短くなっていくようで、気持ちだけが逸ります。
 「もうこの年ですから、彼女も健在かどうか…。しかし、向こうに行く前に償いだけはしておきたいのです」
 依頼の時、彼はそう切々と語りました。
 調査の結果、彼女(72才)は健在でした。姓も変わっていませんでした。
 「元気に暮らしております」という言葉は聞きましたが、それ以上の深い話を、私達は敢えて聞きませんでした。そして、彼のことも一切話しませんでした。それは、償いたいという気持ちを伝えるのにも、彼は彼なりの心づもりがあるだろうと判断したからです。  彼がそれをどう伝えたのか、もちろん気になることは確かです。しかし、それは彼からの連絡を待つことにしています。

<終>

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