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書店員さんとお話したい(2) | 秘密のあっ子ちゃん(108)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

 「ゆっくりお話ししたいので、お茶に誘っても迷惑がかからないか、彼女に聞いてみてほしいのですが…」
 彼の依頼はこういうことでした。
 当社にはマッチメイキングサービスというのがあって、要請があればコンタクトの代行も行います。
 通常は少ない手がかりの中から、苦労に苦労を重ねた上で所在を判明させ、その上でコンタクトを取ることが多いです。ですから、私は思わず、「そのことを聞くだけでいいのですか?」と念を押してしまいました。 「彼女に迷惑がかからないということが分れば、あとは自分で言いますので…」彼はあくまでもそれだけで結構だと言います。そして、律義な性格の彼らしく、彼女が不審がって様々な質問をしてくる場合に備えて、自分の経歴と家族構成まで私に伝えたのでした。
 彼女の反応はかなりいいものでした。もちろん最初は突然のこと故、随分驚いていましたが、「そんなに気を使っていただかなくても、コーヒーを飲むぐらいなら…」という返事だったのです。
 彼はその話を聞くと、大喜びで、「じゃあ、今日帰りに寄ってみます」と言いました。
 ところが、翌日、彼からまた電話が入ったのです。 「ちょっと様子がおかしいので、もう一度彼女に連絡を入れてほしい」と言うのです。聞くと、退社時間を待って喜び勇んで一階の書店に行くと、彼女は彼の顔を見るなり、奥へ引っ込んででしまって出てこなかったと言います。声をかけれるような雰囲気ではありませんでした。
 私が再び彼女に電話を入れると、昨日の対応と打って変わっていました。
 「店内でのお話は結構ですけれど、外でのおつきあいはしないことにしていますので…。お心は本当に嬉しく思いますが、昨日、私があんな風に言いまして、ご迷惑をおかけして申し訳ございません。彼には私の方から直接謝らせていただきます」
私は「昨晩、あれこれと考えて、構まえてしまったな」と感じていました。
 彼女から彼のオフィスへ電話が入ったのは、その日の夕刻でした。
 「今日、お仕事が終わり次第来ていただけますか?」というものでした。
 終業後、書店に彼が顔を出すと、店には彼女一人だけが残っていました。彼女はシャッタ-を閉めながら、「少し待って下さいますか?…片付けますから…」そう言いました。そして従業員用のコーヒーを彼に勧めながら、「何故、ご自分でおっしゃらずに、人に頼まれたの?」と尋ねたのでした。  
 「いや、それは…」彼は自分の真意を判ってもらおうと懸命に弁明しました。 彼女は押し黙ったままで、彼の言葉が途切れると重苦しい沈黙が流れました。その沈黙を打ち消すように、彼がまた話し出します。
 彼女はくすっと笑って言いました。
 「直接話して下さればよかったのに…」
 それからはとんとんと話が弾んだのでした。
 彼女との話がやっと弾んできました。
 「今週の日曜日のお昼ごろ、空いている?逢いたいのだけれど…」
 彼は自分の気持ちをぶつけるように言いました。彼女は「ええ」と頷づきました。
 「フランス料理でいいですか?」
 「どこのお店?」
 彼は行きつけのフレンチレストランの名を告げました。
 「そこなら知っているわ。予約しましょうか?」   「そうだな」
 彼女はすぐに受話器を取り上げ、予約を入れたのです。
 約束の日曜日の昼下り、二人は絶品のフランス料理を楽しみながら、書物についてはもちろんのこと、思いつく限りの話題に花を咲かせて、その午後を過ごしました。そして、ひと月後の日曜日に再び会う約束を交わして、初めてのデートは終りました。
 別れ際、彼は「ありがとう」と言いながら、自分の手を差し出しました。彼女の手がすっと、そしてそっと握り返してきました。
 今、彼は同じ仕事、同じ仲間、同じ風景の中で、以前とは全く違う張りを感じながら日々を暮らしています。

<終>

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