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納得できない離婚要求(1) | 秘密のあっ子ちゃん(134)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

 先日の発表に、二十一世紀には高齢化が飛躍的に進み、未婚率も大巾に増えるというものがありました。その傾向は当然現在も現れており、結婚しない人が増えてきているだけでなく、離婚する夫婦も増えてきています。そのことは、皆さんの回りの方々(ひょっとすれば、当事者であるかもしれませんが)をご覧になればご理解できることと思います。私の友人にも、つい先日離婚を決めた人がいます。
 離婚というものは、それがどんな原因であろうと、恐ろしくエネルギーがいるものです。増してや、相手の浮気が原因となると、自分の気持ちを固めるまでには相当の心労があります。
 この類いで当社に相談に来られる人は、皆一様に出口のない暗闇の中で呻吟されている場合が多いのです。ですから、私達は、最終的に決断を下すのはご当人であることを踏まえた上で、ご依頼人が少しでも問題点を整理しやすいように、客観的な立場からアドバイスをするようにしています。
今回の主人公の女性も、初めて当社にやってきた時はそんな状況の中で苦しんでおられました。
 その依頼人は三十八才の主婦で、小学六年生の男の子と小学三年生の女の子の母親でした。学生時代から交際していた男性と十四年前に結婚し、それなりに幸せな生活を営んでいました。夫はイベントなどを企画する会社に勤務し、かなりの高収入を得、何よりも子煩悩な人柄でした。仕事の関係上、帰宅時間が遅いということはありましたが、彼女は家事と育児に専念し、何の不満もない結婚生活でした。
おかしくなったのは三年程前からです。
実は七年前、夫は知り合いの頼みで、ある女子高校の文化祭のイベントの相談にのったことがあります。知人の娘が文化祭実行委員長だった関係からなのですが、ある日、彼女が父親に、「みんなで話し合っても、何がいいか全く決まらないの。もう日もないし、どうしよう」とふと漏らしたことから、事が始まりました。 「ふーん、そうか。ワシの知り合いで、イベント会社の企画をしてる人がいるが、いいアイディアがないか聞いておいてやろうか?」 父親は何気なくそう答えました。
「そんな人がいるんなら、私が直接聞いてみるわ」
 父親に依頼人のご主人の話を聞いた彼女は、その足で連絡を入れました。
「電話ではなんだから、一度会って話をしましょう」ということになり、彼女は他の実行委員のメンバーと共に彼の会社を訪ねました。 それが縁で、結局、依頼人の夫は文化祭が終わるまで何やかやと彼女達女子高生の面倒を見たと言います。 文化祭が終わって一週間が経った頃、お礼と共に彼へのファンレターともラブレターともつかぬ彼女の手紙が自宅に届きました。  「こんな手紙がきたわ」
 その女子高の文化祭の顛末を一部始終、依頼人に話していたご主人は、その「ラブレター」もごく自然に妻に見せています。
 彼女はまだ高校三年生ですし、知人の娘ということもあって、ご主人としても、「大人の男性に憧れている少女」という風にしか把えていなかったようです。もちろん、依頼人自身もそうでした。
 ですから、その後、彼女が彼を訪ねて自宅までやってきても、快く招き入れて三人で歓談したことも、二度、三度あったのです。
 「彼女も進学して、世間が広がれば、主人への熱も冷めるだろう」と思っていたのでした。
 依頼人の夫が文化祭の手伝いをしてあげた、その知人の娘は短大へ進学しました。
 短大在学中も、「尋ねたいことがある」とか「相談事がある」とかを言って、彼女は依頼人の夫に電話をしてきたり、自宅に訪ねてきたりしました。そのどれもがたわいのない事柄で、依頼人は彼女の目的が何なのかを十分承知していました。しかし、彼女の夫への想いは「一過性の熱病だろうから、いずれ冷めるだろう」と、気にも止めていませんでした。
 ある時、依頼人は冗談で夫にこんなことを言ったことがあります。
 「若い娘さんに惚れられて、あんたも嬉しいわねぇ」 すると、夫はこう答えたのでした。
 「アホか。あんな子供、相手にはできるか。それに知り合いの娘さんやで」
 夫が彼女のことは眼中にないと確認して、依頼人はより一層安心していました。 彼女が短大の二回生になると、「就職のことで相談したい」と、また連絡が入りました。
 夫も妻に気を使ってか、彼女と二人きりで外で会ったことはこれまで一度もなく、今回も自宅へ呼びました。やってきた彼女は、こう言いました。
 「できたら、お兄さん(彼女はいつの間にか依頼人の夫をこう呼ぶようになっていました)がしたはるような仕事がしたいの。イベントとか催しものの企画をするような仕事を…」
 この仕事が単に憧れだけでできるようなものではないこと、就職するにしても、その後生き残っていくにしても、かなり競争のきつい世界であることを、夫はこんこんと説明しました。しかし、彼女は諦める気配がありません。 
 「お父さんは何て言うたはるの?」
 依頼人は聞きました。
 「『自分の好きなようにしたらいい』って言ってくれてます」
 彼女はそう答えましたが、どうも怪し気でした。
 そこで、その日は「もう少し冷静にじっくり考えた方がいい」と彼女を説得し、依頼人夫婦は彼女の父親と連絡を取ることにしました。 案の定、父親は何も知りませんでした。
 「えっ?!今まで何回もおじゃましてるんですか?えらいご迷惑をおかけしてましてんなぁ、申し訳ない」 彼女の父親は随分と恐縮していました。
 「いえいえ、迷惑ということはありませんが、就職のこととなると、やはり将来にかかわりますので、僕が応援したげるにしても、親御さんのご意見を聞いておいた方がいいと思いまして…」
 依頼人の夫はそう言いました。
 「そうですなぁ。しかし、イベントの企画とはねぇ。ワシも家内も、短大を卒業させたら、しばらくは花嫁修業でもさせて、嫁に出そうと思とったんですがねぇ」 彼女の家庭は地元の資産家で、父親はそれなりの規模の運送会社を経営していました。彼女は三才年上の兄との二人兄弟で、一人娘である彼女をこの父は大層可愛がっていました。しかも、父親は女性の生き方についてはかなり古い考えの持ち主で、依頼人の夫はその辺りのことを十分承知していましたので、今回のことを敢えて知らせたのでした。
 依頼人の夫が、彼女の父親に連絡を取って、三週間が経ちました。今度は、父親の方から電話がありました。 
 「いやあ、あれから何とか諦めるように、家内と一緒に説得していたんですが、聞きしませんわ。あいつもワシに似て、自分がしたいと思ったらテコでも動かんとこがありますさかいなぁ。ちょっと我儘に育てすぎましたワ。」
父親は半分自嘲気味に、そう言いました。
 「マ、家内とも話しておったんですが、こうなったら二、三年勤めさせて、そのうちに見合いでもさせようと思っとるんですワ。それまでは、本人の望むように、イベントの企画かなんか知りませんけど、働きたいのなら勤めさせてもええと思ってますねん。それでというとなんですけど、どっか、ええとこありまっしゃろか?」 
 突然そう言われても、依頼人の夫としても困ってしまいます。しかし、駆け出しの頃に随分世話になった社長さんのことでありますし、今も何かにつけて顧客を紹介してくれている相手に、そう無下に突き放すこともできません。
 「そうですねぇ…。じゃあ、心当たりを少し当たってみます」
 そう答えたのでした。
 父親の頼みで、依頼人の夫は彼女の就職先について奔走したのでした。
 その努力が実り、彼の会社と提携している同業者に、彼女を半ば強引に押し込むことができたのでした。
 その間も依頼人の夫は彼女と何度となく会っています。就職のこととなると、いちいち自宅に招いて話している間もない時もあり、その頃から二人は依頼人の知らないところで会うようになっていきました。しかも、初めのうちこそ、「今日はあの子の相談に乗ってやらないといけないから、少し遅くなる」とか、「今日は先方に連れていってやる」とかという風に、夫も依頼人に報告していましたが、それも次第に何も言わなくなっていったのでした。 それが三年程前のことです。
 依頼人は、当初、「まさか」と思っていました。それに、二人がどうにかなっているなどと考えたくもありませんでした。 しかし、彼女から電話がかかってくると、夫はすぐに隣の部屋に電話を持っていって、小声で長々と話すのです。依頼人が「何の用事なの」と問い詰めると、「仕事の話や!」と声を荒げて答えます。
 彼女から電話がかかってくると、依頼人の夫はそそくさと受話器を持って隣の部屋に行き、小声で長々と話すのでした。そして、時には何も告げず、そのまま出かけていくこともありました。しかも、「出張だ」と言って、外泊する日も増えてきたのです。 その頃の依頼人は、子供達二人がまだまだ小さく、子育てに追われて、以前のように細々と夫の面倒を見れない日々が続いていました。しかし、それでも夫の変化は嫌でも気がつきます。 依頼人は、時には厳しく夫を詰め寄ることもありました。
 「出張、出張って、会社に聞いたら、その日は出張なんか入ってへんやんか!どこに行ってたん!」 「会社の女の子にいちいち言うてへん出張だってあるんや!男の仕事にごちゃごちゃ言うな!」
 「何言うてんの!あの子と会ってたんやろ!」
 「あほか!人の行動に探りを入れるようなしょむないことすんな!会社にもかっこ悪いわ!俺のことが信じられへんねんやったら、出て行ったらええねん!」
 こんな夫婦喧嘩が断えなくなっていきました。
 ある日、依頼人は、夫の手帳のある日付の欄に、女文字で「○○の誕生日」と書かれてあるのを発見しました。彼女が直接夫の手帳に書いたに違いありませんでした。
 その当日、夫は無断で外泊しました。
 依頼人の堪忍袋の緒は切れてしまいました。帰宅した夫を捕まえ、声を荒げて罵倒したのでした。それは、今までにない激しい夫婦喧嘩となりました。子供達は子供部屋で泣きべそをかきながら、じっとうずくまっていました。
 翌日から夫は帰ってこなくなりました。
 一週間が経った頃、依頼人は会社に電話を入れました。
 「今、どこで寝てんの?」 彼女は尋ねます。
 「会社に寝泊りしている。考えたいことがあるから、しばらくは家へ帰れへん」 夫の返答はそんな風でした。
 「私も話したいことがあるから、とりあえず帰ってきて。このままでは、何も始まれへんから。一度話し合いたいねん」
 彼女は夫にそう訴えました。
 「ああ、分ってる。そのうち、話をしに一ぺん帰るから」
 夫はそう答えましたが、二週間経っても、三週間経っても、夫は帰ってきませんでした。
 ひと月近く経った頃、依頼人は子供達を連れて、会社にいる夫を訪ねました。子供達は久しぶりに父親に会って大喜びでした。しかし、夫は依頼人に離婚の話を持ち出したのです。
 夫の言い分はこうでした。 「俺がこうなったのも、お前が悪いからや。『子育て、子育て』と言って、俺のことは放ったらかしやったやないか。それにお前の性格が悪い。いつもキーキー、キァーキャーと口うるさいし、俺は家へ帰ってもくつろぐことがあれへん」 依頼人は驚きました。まさか、夫にそんなことを言われようとは思ってもいなかったのです。夫は例の彼女のことは一切口にせず、自分が家を出た原因は依頼人のせいであるということを繰り返し述べるのでした。 それを聞いて、依頼人は夫に謝りました。
 もちろん、依頼人は腹立たしい思いで一杯でした。しかし、もともと離婚する気などまるでありませんでし、ただ、彼女から夫を取り戻し、以前のように親子四人の水いらずの生活がしたかったからです。
 夫が並べたてる離婚要求の理由に対して依頼人は理不尽だと思いながらも謝ったのでした。
 「確かにこの子らに手がかかって、あなたの面倒を十分に見れなかったことは反省しているわ。だけど、私もすき好んで、口うるさく言ってた訳じゃない。彼女のことをはっきりしてくれたら、私もとやかく言う必要があらへんのやから。私の悪い所は直すから、この子らのためにも、家に戻ってきてほしいねん」
依頼人の想いはただ一点、夫が彼女と手を切り自分達夫婦がもう一度やり直したいということでした。そのためには、謝りもし、自分の至らなかった所は本気で直そうと考えていました。依頼人は何度もそのことを訴えました。
 しかし、夫の返答はこうでした。
 「もう遅い。今さらやり直すことなんかでけへん」 「そしたら、この子らはどうなるの?」
 小学六年生と三年生の二人の子供に目をやりながら、依頼人は言いました。下の小学三年生の長女は無邪気にお子様ランチについていた旗で遊んでいましたが、上の六年生の長男は両親の様子を察して、デザートに頼んだチョコレートパフェを、黙りこんでひたすら口に運んでいました。
ただひたすら、夫ともう一度やり直したいと願っていた依頼人は、最後の手段として、子供達のことを引き合いに出し訴えました。
 「やり直すにはもう遅いって、そしたら、この子らはどうなるの!?」
 「こいつらには悪いと思うけど、しゃあない。みんなお前の責任や。それに、全然会われへんようになる訳じゃないし、養育費は出す」
 「そんな!勝手すぎるわ!」
 この日の話し合いは、こんな言い合いばかりが堂々巡りとなり、それ以上進展しませんでした。
 翌日、依頼人は姑に会いに行きました。姑の口調は基本的には息子の不貞と家族への無責任さを詫びていましたが、そこは長年母一人子一人で暮らしてきた可愛いい息子をかばうニュアンスが漏れ聞こえるのでした。 
 これは、依頼人もこれまでの夫と姑の母子関係を見ていると予想できたことでしたので、さほどがっかりはしませんでしたが、孫のために力を貸してくれるのではないかと少しは期待もしていました。しかし、その淡い期待は全く的はずれだということがよく分ったのでした。
 ただ、こんな話が聞けたのです。
 「この前、電話があったけど、もう部屋を借りてるみたいなこと言ってたよ」 全く知らない話でした。夫は、依頼人にはずっと会社で寝泊まりしていると言っていたのです。
 「えっ!?部屋を借りているって、彼女と一緒なんですか?」
 「いやぁ、そこまでは知らんけど…」
 姑の返事は歯切れの悪いものでした。
 「で、それはどこなんですか?」
 「近鉄線の何とかという駅の側やって言うてたけど、聞いた住所のメモは無くしたわ」
 明らかに息子をかばっているのが分かりました。
 依頼人は、前々から相談に乗ってもらっていた近所の友人の元へ走りました。 「もう、どうしたらええか分れへんようになったわ」依頼人はそう言いながら、泣くのでした。というのも、両親の様子を察した小学6年生の長男が家庭内で暴れ始めるようなっていたことも、依頼人が嘆く原因の一つとなっていました。
 父親が帰らなくなってから、長男は依頼人に刃向かうようになっていました。依頼人は、どちらかと言えば教育や躾には口うるさい方です。
「宿題はちゃんとしたの?!」「家に帰ってきたら、すぐ手を洗わなあかんと言うてるでしょ!」
 そんな依頼人に、長男はこれまでブーとふくれながらも言うことを聞いていたのです。しかし、近頃はどうでしょう。「うるさいなぁ!くそババア!」です。 そして、二日前、食事の途中でファミコンに興じている息子を叱りつけたところ、長男は「うるさいんじゃ!」と叫びながら、茶碗を窓に向けて投げつけ、ガラスを割ったのでした。 十二才という難しい年頃の長男の心が荒んでいくのを、依頼人は一番恐れていました。 「だけど、それはご主人が家に帰ってけぇへんことだけが原因じゃないんと違う?だいたい、あんたは少し口うるさすぎるよ。もっと、あの子の気持ちも考えたげんと」
 今までもずっと、黙って依頼人のグチを聞き、励ましもし、相談にのってくれていた友人はそう言うのでした。
 友人は言うのでした。
「十二才と言えば反抗期で、一番難しい年頃やんか。まして、あんたとこは今ご主人がそんな状態やねんから。子供って、知らん顔してるようやけど、みんな分かってるよ。ガミガミ叱るばっかりじゃなくて、もうちょっと、あの子の気持ちも考えてあげんと。あんたのしんどい気持ちも分かるけど、子供に当たってたらあかん」 「分かってる・・」
 依頼人はか細く頷くばかりです。
友人はこうも言いました。 「子供のためにも今、あんたがしっかりせなあかんやん。いつまでもこんな状態をズルズル放っておく訳にはいかへんのと違う?」 「でも、私はもう一ぺんやり直したいねん。主人は私の責任やって、私の悪いことばかり並べたてて腹が立つけど、それも一理あるような気がするし、戻ってきてくれるんやったら、それはちゃんと直そうと思ってる。だけど、あの女は絶対に許せへん!人の家庭を壊しておいて、私が離婚することになんかなったら、絶対に主人と一緒にさせへんから!」
 その日、依頼人は友人に夫が家に帰ってくれるよう、もう少し努力すると言ったのでした。
<続>

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