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「女王様」を探して(2)| 秘密のあっ子ちゃん(194)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

本名や生年月日、どの辺りに住んでいるのかという材料以外に 何か手掛かりはないかどうかということを私は依頼人 (27歳)に尋ねました。
というのも、風俗に勤めている女性が客にありのままを話しているとは考えられなかったからです。彼は「彼女はうそを言う子ではない」と言い張っていましたが、私にそう尋ねられて急に黙ってしまいました。手掛かりは持っているようでしたが、言うのをためらっていることは分かりました。
彼が黙りこくってしまって話が進まないのに業を煮やした私は、こう言いました。
「本名や生年月日、住所から探せと言われれば探さない訳ではありませんが、おそらくこの材料からでは該当者は出てこないと思いますよ。調査料金や労力が無駄になる可能性が高いと思います」。
私にそう言われて、彼はやっと口を開きました。
「実は、彼女は週に一回くらいのペースでブルセラショップへ自分の下着を売りに行ってるんです」
「SMクラブ」ではさほどびっくりしませんでし たが、私はこの話には驚きました。ブル セラショップまで出てきたのですから・・・。
このお話は二年前のことです。SMクラブについては、それまで数人から問い合わせの電話が入っていましたのでさほど驚きませんでしたが、ブルセラショップについては、さすがの私もびっくりしました。当時、はやり出しているということは耳にしていましたが、実際に自分の下着を売りに行っているという人に直接出くわすのは初めてだったからです。
「それでは、彼女がそのショップへ行く日はだいたい決っているんですか?」
私は依頼人に尋ねました。
「行く日というより、週1回くらいのペースで売りに通ってるみたいです」
彼が答えます。
「それでは、先程お話に出た、本当かどうか分らない名前や生年月日、住んでいる辺りなどの材料からより、そのブルセラショップから尾行した方が確実ですよ」
本当に彼女を探したいのならその方法がベストであると確信した私は、彼にそう提案しました。
ところが、彼はこう言ったのです。
「いえ、彼女は絶対にうそを言う子ではあ りません。尾行なんかよりは、やはり名前とか住んでいる所とかから探してもらいたいんです」
偽名を言っている可能性が高い風俗の女性を探すのに、確実な方法として尾行を提案した私ですが、依頼人がそう言うならその方法で探さない訳にはいきません。
彼としても料金のことを考えてのことだと思うからです。
彼は彼女から今里近辺のワンルームマンションに住んでいると聞かされていました。私達はまず、その「今里辺り」のワン ルームマンションを軒並み当たり、彼が聞いていた”彼女の本名”という人物が住んでいないかどうかを調べました。しかし、百三十軒近くのマンションを当たっても、 該当者は出てきません。私達は名前だけではなく、年齢や容姿まで含めて聞き込んだのですが、結果は芳しくありませんでした。
そして、マンションに該当者がいないと分かると、文化住宅やアパートまで当たりました。しかし、そのような人物は存在しないのです。さらには、「よくコンビニで買い物をする」という彼の話から、一帯のコンビニへも聞き込みに入りました。しかし、それも無駄な努力に終わったのでした。

<続>

「女王様」を探して(1)| 秘密のあっ子ちゃん(193)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

その男性が初めて当社にやってきたのは、2年前の秋のことでした。
彼は、27歳の独身サラリーマンでした。彼は人と接するのが苦手なのか、依頼内容を話している間もずっとうつむいたままで、決して私の顔を見ることはありませんでした。それに、その声は「蚊のなくような」という表現がぴったりと当てはまるような弱々しい声で、聞き取りにくく、私は何度も聞き直さなくてはならない程でした。
しかし、そんな彼であるにもかかわらず、依頼にやってきたその事実は「大胆」と言えるものでした。彼はナントその筋ではかなり名の知られたSMクラブの常連客でした。
しかし、私はそれを聞いてもさほど驚きませんでした。というのも、その店の名はこれまで問い合わせの電話で何度か聞いて知っていたからです。皆、そこに勤めていた「女王様」を探してほしいというものでした。大抵は源氏名しか知らないので、「探しようがない」と丁重にお断りしていましたが…。
彼もまた、その店に勤める一人の女性を目当てに通いつめていて、突然店をやめてしまった彼女を探してほしいというのが希望でした。
彼の依頼がこれまでの問い合わせと少し違っていたのは、源氏名だけでなく、彼女についてもう少し詳しく知っていたことでした。
でも、いくら依頼といえども、私はあまり乗り気になれませんでした。というのも、風俗の女性を「探したところで何になる」という思いが強いからです。それに、先方も「探されては迷惑だ」という場合がほとんどであろうと思うからです。
確かに、風俗に勤めていた女性とハッピーエンドになることも皆無ではないの
ですが、たいがい「探しても無駄ではないか」ということを申し上げるのも、依頼をお断りするケースが多いのも、そうした理由からです。
しかし、彼らは明らかに「商売」と個人的感情を混同していることが多く、私
の「アドバイス」も無意味になることが多々ありま す。よくよく考えてみれば、そのようなことが分かっていれば、当社に依頼しようとは思わないのでしょうが・・・。
彼もまたそうでした。私がいくら無駄だと言っても聞き入れません。放っておけば、彼女が再び現れるまで、毎日でも店の辺り をうろつき、あるいは通いつめそうな勢いでした。

風俗の女性を探してほしいと言ってくる依頼人は、「探しても無駄」だと私達がアドバイスしても、そのほとんどは聞き入れません。彼らは事実を持ってしか、「夢」から醒めえないので す。
彼もまたそうでした。彼が彼女について知 っていることは店の源氏名だけではなく、本名や生年月日、それにどの辺りに住んでいるのかということも聞いていました。
しかし、これにしても、免許証などで確認したものではなく、本人の口から聞いたというだけなのです。
「本名にしても、年齢にしても、必ずうそとは言い切れません が、風俗に勤
めている女性が客に本当のことを言うとは考えられません」
私は彼にそう言いました。しかし、彼は、「あの子はそんなうそをつく子だとは思えない」と言い張るので す。やむなく、私は話の方向を変えました。「では、それ以外に、何か彼女を探す手 掛かりはないですか?」
私がそう聞くと、彼は話したものかどうかという風に下を向いて 黙ってしまいました。「蚊の鳴くような声」どころではなく、うつむいたまま黙りこくってしまって、話が次に進まなくなってしまったのでした。

<続>

彼女を二度も傷つけ・・・(2)| 秘密のあっ子ちゃん(192)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

小学校卒業と同時に彼女がシンガポールへ旅立ったことによって、気まずいまま二人は別れたのでした。
彼は彼女を傷つけたことを深く悔いていました。そして、 それは月日が経つに つれて、思い出したくない出来事となっていきました。
そんなある日、突然、彼 女が東京の彼の家に訪ねてきました。今となっては、 何故彼女が突然訪ねてきたのか、何を話したのかは彼は良く覚えていません。ただ記憶に残っているのは、 まだ世間慣れしていない自分が、彼女の突然の出現で動揺し、幼いころ彼女を傷つけた思い出がよみがえってどう応対していいのか分らず、けんもほろろに応対したということだけです。その時の彼としては、彼女 が短い時間で帰っていってくれたことにホッとしたくらいでした。
ところが三十も過ぎると、二度も彼女を傷つけたことに言いようのない後悔の念が湧いてきました。
「こういったことを思い出すのも三十歳になってからで、おそらくそれまでは自分の中で忘れてしまいたかった事、思い出してはいけないことと思っていたためだと思います」。彼は依頼する時にそう言いました。
「忘れてしまいたい事、思い出したくない事と思い続けてきたのは、小さかっただけに心の影響がすごく強かったからだと思います。いい思い出として取っておくべきでは とさんざん迷いましたが、やはり一生それでは済ませない気もして、連絡を取る手段があるならやってみるべきではないかと思いました。彼女が今どこに居るのか、どうしているのか、ただそれだけが気になります」
依頼時に彼はそう言っていました。
調査の結果、彼女は結婚して一児に恵まれ、現在は埼玉県に住んでいました。
東京在住の彼なら、会いに行こうと思えばすぐにでも行ける距離です。でも、 たぶん彼は彼女に連絡はしないだろうと、私は思っています。彼としては彼女が 元気で幸せに暮らしていることさえ分れば、小学生の頃の事や十九歳の時の話を 蒸し返して彼女の平穏な日常生活を乱すことになるか もしれないようなことなど、きっとしたくないと思うと感じるからです。調査 することによって、彼とし ての心の整理はもう十分についたのです。
再会することだけが調査の目的ではない、そんな調査もあっていいと、私は思うのです。

<終>

彼女を二度も傷つけ・・・(1)| 秘密のあっ子ちゃん(191)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

私はさまざまな異業種交流会に誘われ、そういった所によく出かけます。また、小さなサロンから行政主催の大きな講演会まで、いろいろな所に招かれてお話をさせていただく機会も多く、名刺交換をさせていただきます。
そういう時、「いやぁ、佐藤さんのお仕事は本当にいいお仕事ですネ」とか、「楽しそうなお仕事ですね」とか言っていただきます。そして、その後の反応として、たまには「私も初恋の人はいるけれど、しわくちゃばあちゃんになっていたら嫌だなあ」とか、「禿茶瓶(皆様の中に御髪を気になさっている方がおられましたら、失礼致します)になっていたら幻滅だわ」などとおっしゃる方がいらっしゃいます。
私は、そういう方たちには「探すべきではない」と申し上げます。なぜなら、再会して失望や幻滅を感じる危険があるなら、探さずにいい思い出として残しておく方が、ご本人の人生にとってずっとよいことなのですから・・・。
当社に依頼してこられる方々は、それよりも一歩も二歩も探したい人への深い思いいれを持っておられます。
今回は、その辺を悩んだ結果、調査依頼の決心をしたある青年のお話をしましょう。

彼は東京在住、現在三十一歳の独身青年です。彼が探したいという相手は、小学六年の二学期に転入してきた同級生の女の子です。彼女は長野県から彼の住む東京へやってきたばかりで、クラスの他の女の子に比べてまだまだ幼さの残る可愛い子でした。
転入してきたその日、たまたま彼の隣の席が空いていたこともあり、彼女はそこに座ることになりました。先生が彼女を紹介した後、「いろいろ分からないことも多いだろうから、教えてやってくれ」と、彼に向かって言いました。それで、律義な性格の彼としては、幼さの残る彼女の兄のような気分で、彼女の面倒を精一杯見るようになったのでした。
彼女は少し内気で東京の雰囲気にすぐには馴染めず、しかも仕草がおっとりしていたため、よくクラスの女の子から意地悪をされました。それに、可愛かったせいもあり、男の子達からはよくからかわれました。そんな時、いつも彼が出ていって、彼女のためにクラスメートと喧嘩をしたものでした。
そのお陰か、彼女に対するいじめは少なくなりましたが、彼女の友達は彼一人となってしまったのでした。
そして、そのことがますます二人の仲を親密にしていったのでした。二人は明けても暮れても一緒でした。そのうちに、彼は彼女がいない生活は考えられなくなりました。十二歳にして、生涯をともにする人であると確信したと言います。それは初恋というより、二十年近く経った今でも彼の人生の中では衝撃的な出来事でした。
ところが、小学校卒業と同時に、父親の転勤のため彼女は再び引っ越すことになりました。今度は海外でした。
彼は絶望感に打ちひしがれてしまいました。彼女を失いたくないという想いは、ついに彼女の体まで求めるようになりました。しかし、あまりにも幼すぎた二人にとって、それは彼の想いを叶えるどころか、彼女を傷つけるだけでした。
あれ程仲のよかった関係が嘘のように、彼女は別れの言葉一つ言わず、シンガポールへ旅立って行きました。
それから七年、音信不通のまま、二人はそれぞれの青春を過ごしたのでした。

<続>

妻子を残し長男が家出(3)| 秘密のあっ子ちゃん(190)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

「ウチはお宅の娘さんが何もかも知っていると踏んでいます。お母さんが、『ウチの娘は何も知りません』とおっし ゃるだけではその心象を消すことができません。やはり、一度娘さんに会わせていただいて、その辺の事情をお聞かせいただかないと…。心象が『黒』のままでは、ウチとしては興信所の仕事として、娘さんに会えるまで昼夜間係なくお宅へ日参しなければなりません し、近所にもいろいろ聞き込みをさせていた だかなくてはならなくなります。それよりは、今ここで私と十分程話す方が、お宅様にとっても迷惑がかからないと思いますが…。私としても早く心象を『白』にしていただいた方が何回も来なくて済み  ますし、社長にヤイヤイ言われなくて助かります」
当社調査員の早朝の訪問に、「興信所なんかには用事はない!」と振り切って出かけようとしていた彼女の母でしたが、スタッフにそう言われるとグーの音も出ませんでした。
「じゃあ、十分だけですよ」
そう言って、調査員の話を聞き始めたのでした。そして、調査員にとっては申し分のない約束をしてくれたのでした。
「今、娘はウチにはいないんです。連絡は取れますが、あなたに会うと言うどうか、本人の意向を聞いてみないことには・・。本人にはあなたの話を聞きたいという意向については間連いなく伝えますから、二週間程時間を下さい。返事は会社の方へ私がするか本人からさせますから」
調査員としては、それで オンの字でした。調査員は二週間経っても連絡がなければ当方としては次にこう動くということまで伝えていましたので、梨の碑(つぶて)になるという危惧はまずありませんでした。
一週間が経ちました。連絡はまだ入ってきていません。でも、まだ一週間ありましたので、私達は安心して構えていました。
十日経ち、十二日が経ちました。連絡はまだ入りません。そろそろ、「次の行動を起こす準備にかからねば」と思っている矢先にその電話は入りました。
それは彼女でもなく、彼女の母でもなく、探し求めている家出した長男その人だったのです。
彼は私達と会う日時を打ち合わせ、用件だけを伝えると電話を切りました。
私達から連絡を受けた依頼人と妻は当日、彼が指定した
喫茶店に向かったのです。
翌日、早速依頼人から報告の電話が入りました。
彼と彼女はやはり連絡を取っていましたが、一緒に住んでいるのではなく、噂されているような関係ではなかったようです。
「息子は共同経営者のルーズさで店がダメになり、保証人になった金を返済するため働いていると言っていました。黙って家を出たのは申し訳ないが、どうも私や嫁に迷惑がかかるのを恐れたようです。
彼はその日、結局家へは帰りませんでした。返済の目処が立つまで、もうしばらくがんばると言うのです。連絡先が分かった今、依頼人もそれで納得したのでした。

<終>