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飲み屋で依頼相談?(2) | 秘密のあっ子ちゃん(28)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。
仕事の忙しさにかまけてほとんど家庭を顧みなくなったことと、会社の立ち上がりが苦しく、所帯費を入れることができない時期が続いたころからでした。
 しかも、彼女の母親、つまりあのスナックのママが問題を余計ややこしくしてしまったのです。
 彼女の父親は事業に失敗し、母親との仲もうまく行かず、今はキャバレーで知り合った女性と暮らしています。母親はそんな亭主にほとほと愛想がつき、スナックを経営して、女手一つで二人の子供を育てたと言います。それはそれで大変なことだったろうと思いますが、彼に言わせると、この母親は性格的にかなりルーズなところがあるらしいのです。
 「やれ、今月は店が赤字やったから五十万円貸してくれやの、やれ、店を改装せなあかんから三百万円都合してくれやの、何回も言うてきよりますねん。そのたんびに、アイツの母親やと思うから用立ててきましたんやけど、いっこも返しますかいな。店もいつ改装するんかいなと思ってましたけど、もともと改装する気なんかあれしまへんでしたんや。それに、家の方も汚いし、掃除なんか一切しまへんねんや。チビらを連れて来い、来い言いまっけど、あんな汚い所、よう行かしまへん」
当然、彼は彼女にこうした母親の文句を言います。それが度重なると、彼女としてもいい気分ではなかったのは確かなようです。
 何度も起こる夫婦げんかの揚句、彼女は家を出たのでした。
 彼女が家を出たと言っても、依頼人は実家に戻っていると踏んでいました。そして、母親が経営しているスナックを手伝っているとも推測することができました。
 ところが、彼が実家に連絡を入れても、母親は「戻ってきていない」と答えるばかりで、隠していることが明らかでした。
 十日ほど経った夜、彼は実家に向いました。そこでは何と、五才と四才の小さな娘達が祖母と母がスナックへ出勤した後を二人で留守番をしていたのです。「こんな小さな子供らだけにしておいて!」彼は腹を立て、すぐさま子供達を連れ帰りました。
 ところが三日程経つと、子供達を通わせていた幼稚園に彼女が迎えにきて、再び自分の元へ連れて帰ったのでした。
 再度、彼が実家へ乗り込んだ時には、もう彼女も子供達の姿はありませんでした。 
 そしてまた十日が経ち、彼女から連絡が入りました。 「もう離婚しましょう」 「そんなこと言うても、子供はどうすんねん?」
 「子供は私が引き取ります。あなたに育てれるはずがないでしょ!」
「それは許すさん!チビらは俺が引き取る!」
 話し合いは埒があきませんでした。すると、彼女は意外な行動に出たのです。
 彼女が依頼人と離婚したいと言う理由は三つありました。
 一つは独立当時、資力を会社運営に注ぎ込んで、一時、所帯費を入れなかったことです。「いや、今はきっちり入れてまんねんで」彼はそう私に言い訳をしていましたが…。第二の理由は、「私の親の悪口ばかり言う」ということでした。それに対しては彼の方としても言い分があるので反論していると、揚句の果てに彼女は「相性が会わない」と言い出したのでした。それが第三の理由です。
 ここまでくると、理由など関係なく彼女は是が非でも彼と別れたいのだと、彼は悟りました。
 「それならそれでもええ。但し、子供だけは渡さん!」彼は思いました。そして、そこまで離婚、離婚と言うのには、きっと男ができたに違いないとも思ったのでした。
 私は「そこまではどうかな?」と反論しました。が、彼は「いや、男の心あたりはありますねん。スナックの常連客ですわ」と言うのです。
 話を元に戻しましょう。 話し合いでは埒があかないと判断した彼女は、十日もしないうちに弁護士を立て、調停に持っていったのです。これには私も随分強行だなぁと思ったものです。
 結局、彼の依頼というのは、離婚するにしても子供だけは渡したくない、そのためにも彼女が今どこに住んでいるのか、そして男がいるかのどうかを確認してほしいということだったのです。
 私としてはあまり乗り気のする仕事ではありませんでした。彼の力なってあげたいという反面、彼の性格を考えると彼女の方にも当然言い分はあることでしょう。それに何よりも、既に調停に入っているのですから、子供の親権というようなことはまず弁護士に相談すべきです。
 私は彼のためにも早期に弁護士に会うことを勧めました。 
 ひと月ほどして、再び彼から電話が入りました。
 「先生、やっぱり男がいよりましてん」
 「まぁ、どうして分ったんですか?」
 「チビらがちょろっと言いよりましたから、追求したら、案の定ということですわ」
 「そうですか。それで、調停の方は?」
 「まだまだこれからですわ。とにかく、あの時、色々と聞いてもらったお陰で、だいぶ気ぃが楽になりましたわ。またなんかあったら頼んますわ」
 「今度はもっといい話の分にして下さいよ」私はそう言って、電話を切ったのでした。
<終>

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