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病弱だった彼女(2) | 秘密のあっ子ちゃん(58)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

 高校時代、あたかも幼なじみであったかのように仲が良かった彼女。病弱だった彼女を一生懸命に世話したという依頼人(31才)はこう言いました。
 「初恋?初恋と言えば初恋になるのかもしれないけど…、あんなん、初恋と言えるのかなぁ。でも、僕が医者をめざそうと思った一つのきっかけは、体の弱かった彼女と仲が良かったということがあったのには違いないですわ。マ、言わば、僕の人生の進路を決めてくれた恩人のようなもんですわ」 彼はそう言うと、言葉を続けました。
 「高校を卒業して、彼女は進学も就職もしなかったと思いますわ。僕は東京の大学へ行きましたけど、しばらくは『元気か?』なんて、電話してましたねぇ。だけど、僕の方もレポートやら研修やらで忙しくなると、あんまり連絡ができなくなって…。インターンになってから久しぶりに連絡したら、もう引っ越してたんですわ。それからしばらくして同窓会があったんですけど、彼女は来てませんでした。結婚したような噂は聞きましたけど…。本当に元気で暮らしていてくれたらいいんですけど…」  ただひたすら「元気で暮らしてくれていたら」と、病弱だった同級生の彼女を気遣う依頼人。 私達はすぐに調査を開始しました。
 ところが、彼女のことが判明してきた時には、彼の願いは空しいものになっていたのです。 
 彼女は昨年の秋に死亡していました。まだ三十才という若さです。しかも三才の女の子を残して…。
 それを報告した時、依頼人は呟きました。
 「死んだんか…。そうか、死んでしもたんか…。あの子の病気は難病やったもんな…。だけど、秋に死んだって、僕が彼女は元気なんかいなぁと気になりだしたのも秋やったし、なんか因縁めいたもんを感じますね。死ぬ前に会いに行ってやられへんかったんが何とも残念ですわ」
 私は返答の言葉が出ませんでした。
 しかし、彼はすぐに気を取り直すように、こう言いました。
 「しゃあけど、ようがんばって子供を産んだなぁ。子供が生まれただけでもよかったですわ」
 彼女が亡くなってまだ日も浅いことから、ご主人もご両親もつらいだろうからと、彼は「訪ねていくのはやめときます」と、そう言って帰っていきました。

<終>

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