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単なる娘の家出ではなく・・・(1) | 秘密のあっ子ちゃん(119)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

 このお話は、私が我が社「初恋の人探します社」を始めて間もない頃のことです。当時はまだまだ「“初恋の人”ではないのですが…」という問い合わせがよくあったものです。
 その初老の男性も初めにそう前置きして、「実は娘が家を出てしまったんですが、それを探してくれるということは可能ですか?」と聞いてこられました。
 依頼人の話をよくよく聞くと、それは単なる「娘の家出」ではありませんでした。娘は三十五歳。人妻で、男と駆け落ちしたと言うのです。
 翌日、更に詳しく打ち合わせするために、依頼人(六十二歳)は彼女のご主人を連れて当社へやって来ました。
 男と駆け落ちしてしまったという彼女は明るくハキハキとした性格で、若い頃から活発でした。様々な能力にも秀いでており、結婚後も職を持ち、ある大手企業で責任あるポストに就いていました。
 ご主人の方はと言えば、見るからに真面目で誠実、おとなしい感じの人でした。 二人は六年前、彼女が二十九歳、ご主人が三十一歳の時に、親戚の勧めで見合い結婚をしています。二人の間にはまだ子供はいませんでした。
 その彼女(当時三十五歳)の様子がおかしくなったのは、結婚して四年が経った頃です。ご主人の勤務先はラインの製造工場で、三交替制でした。主人が夜勤の時は必ずと言っていい程、「残業」で帰宅が遅くなり、それが次第に日勤の時にも深夜の帰宅が頻繁に続いたのでした。
 「スープの冷めない距離」に住んでいる依頼人、つまり彼女の父親は厳しく叱りました。
 「そんな、亭主を放ったらかしにせなあかんような仕事なら、辞めてしまえ!」 けれど、彼女はこう反論しました。
 「いくらお父さんが家の頭金を出してくれたからと言っても、あの人の給料だけやったら、ローンは払われへん!」
 依頼人はいくつもの店舗を持つ自営業で、経済的なゆとりはありました。彼女が金銭的な問題で残業を重ねているなら、援助してもいいと申し出ました。
 もともと、彼女とご主人の結婚は、「このまま放っておけば三十を過ぎても娘は嫁に行かない」と心配し、ご主人の真面目でおとなしい人柄を見込んで、依頼人が強力に進めた縁談でした。 ですから、依頼人は何としても婿が満足できるような生活を送らせたかったのです。
 もともと、彼女とご主人との結婚は、いつまで経っても嫁に行かない娘のことを心配した依頼人が、主人の真面目でおとなしい性格を見込んで強力に進めた縁談でした。そのせいもあって、依頼人は何としても婿が満足な生活を送れるようにしたいと思っていました。ですから、娘が家のローンを払うために残業を重ね、主人のことを放ったらかしにするのなら、経済的な援助をしてもいいと申し出ました。
 しかし、彼女はこう言うのです。
 「そんな! お金の問題だけと違うわ。私は今の仕事を辞めて、家で引っ込もってるなんて、絶対嫌や!」 依頼人は少し気になることもあって、彼女にこう釘を刺しました。
 「仕事を続けたいならそれでも構わんが、自分の亭主の面倒ぐらいちゃんと見なあかん。それと、お前、親に顔向けでけへんようなことは絶対してへんやろな!?」
 [お父ちゃん、あほなこと言わんといて!]
 彼女はそう答えました。それからしばらくは、彼女も早めに帰宅するようになり、こまごまとご主人の面倒を見る生活に戻りました。その年の正月は二人揃って実家に戻って来て、仲睦まじくやっていたのでした。
 依頼人が釘を刺したことが功を奏してか、彼女はしばらくは早くに帰宅し、こまごまとご主人の面倒を見ていました。正月も二人揃って実家に戻ってき、仲良くやっていたとのことでした。 しかし、一月の末、ご主人が夜勤明けで自宅に戻ると、彼女は家を出ていたと言うのです。衣服や身の回りの小物などが無くなっており、「しばらくは帰りません。探さないで下さい」とだけ書かれた置き手紙が残されていました。
 びっくりしたご主人がすぐに舅である依頼人に連絡し、依頼人が当社に問い合わせてきたという次第です。 ご主人を連れて詳しい話をするために当社にやってきたその前に、依頼人は彼女の職場に出向いていました。彼女の上司に面会し、事情を包み隠さず話した上で、何か心当たりがないかを尋ねようとしたのです。しかし、依頼人が事情を話すまでもなく、会社では彼女のことが大問題になっていました。
 というのも、彼女と元上司が深い仲になっているのではないかということが会社では前々から半ば公然の秘密だったらしく、彼女が家を出る前日に、二人はそれぞれ退職願いを出して消えてしまったので、その噂で持ち切りだとのことでした。
 依頼人は上司の話を聞いて愕然としました。
 「退職願いを受理するかどうかという前に、朝、私が出勤すると置いてありましてネ。二人ともその日から出社していません」
 上司はそう言いました。そして、こう付け加えたのです。
 「実は、これはまだここだけの話ですが、男性の方が会社の金を使い込んでいる可能性があるんです。マ、これについては、今、経理の方で調べさせていただいておりますが……。それにしても、娘さんはつまらん男にひっかかったもんですなぁ」
 上司の話によると、この男性は二、三年前からギャンブルに入れ込み、かなりの借金を抱えているのではないかということでした。その頃から仕事にも身が入らず、本来ならもっと昇進すべきところを、そういうことが原因して、今では窓際に追いやられていると言うのでした。
 依頼人は娘の上司の話を聞いて、非常なショックを受けました。 以前、娘の様子を見ていて疑念を感じた時、「お前、親に顔向けできんようなことはしてないやろな」と釘を刺したものです。けれど、彼女は、その時、そんなことは鼻にもかけず頭から否定しました。しかし、実際は、随分以前から人妻の身でありながら、妻子ある男性と不倫関係にあったのでした。今、「失楽園症候群」という言葉が話題になっているようですが、このお話は六、七年も前のことです。
 彼女が家を出た後、その男性と一緒にいるかどうかを確定する材料は何一つありませんでしたが、同時に退職願いを提出して、二人とも出社もせず姿を消していることから、二人は駆落ちをしたと見る方が自然でした。
 依頼人がさらにショックを受けたのは、娘の相手の男性の人物像でした。
 人妻に手を出したことはこの際不問に伏したとしても、四十半ばになろうとするのに、ギャンブルに入れ込み、妻子に苦労をかけ、会社の金を使い込むような男に、娘が惚れて家庭まで捨ててしまったということがどうしても依頼人には許せませんでした。婿に対して、娘の今回の不祥事を何と謝っていいものかと考えると、より一層許せないという気持ちが沸き上がってくるのでした。
 依頼人は娘の上司に、相手の男のことについてさらに詳しく尋ねました。
 それによると、その男性には小学六年生の男の子を頭に、三年生、幼稚園児の女の子がいるとのことでした。奥さんは病弱で、メヌエルという持病を抱えており、時々激し目まいに襲われると言います。彼がギャンブルにのめり始めると、それなりの給料を取っているにもかかわらず、所帯費も入れないことが度々重なり、彼と同期で入ったこの上司は奥さんから相談を受けたこともあったとのことです。さらに、上司は「今ではサラ金にも手を出しているのではないか」とも話しました。
 「僕もネ、心配しまして、彼には何回となく忠告したんですがねぇ……。こういう事態になって非常に残念です。会社の金の使い込みについては、早く連絡が取れれば何とか押えられると思いますので、今、こちらでも探しているような状態です」
 上司は既に彼の奥さんと連絡を取っていました。しかし、奥さんとは三ケ月前に離婚が成立し、それ以前からも彼は自宅には戻っていなかったという話を聞いています。
 「この離婚についても、いろいろあるみたいで…」 上司はそう言いました。
 聞くと、彼女の相手の男性は二、三年前からギャンブルにのめり込み、サラ金などの借金も重んできたため、所帯費も入れれなくなったとのことです。そのことは彼と同期であったこの上司が、以前より彼の妻から相談を受けていたことでしたが、それが一年程前に突然、彼の方から奥さんに離婚を申し入れてきたのだそうです。今にして思えば、その頃から彼は彼女と付き合っていたと考えられます。 奥さんはメヌエル病という持病を抱え、病弱にもかかわらず幼い三人の子供を育てるために、何とか所帯のやりくりをしてきました。しかし、離婚する気はさらさらありませんでした。
 離婚届に判を押すことをずっと拒否してきましたが、そのうち夫は自宅にも戻って来なくなり、生活はますます窮してきました。「母子家庭としての生活保護を受けるためにも」と夫の執拗な説得に、子供達の生活のためならばと、渋々離婚届を出したとのことでした。 それが三ケ月前の話です。
 娘の上司からこの間のいきさつのある程度の情報を得ると、依頼人はその足で彼女のご主人と一緒に当社にやって来ました。
 今、彼女はその男性と一緒にいることは安易に想像できましたが、二人がどの辺りに逃げたのかということになると、依頼人とご主人の話を詳しく聞いても、私には雲を掴むような話でした。
 私達はまず、彼の奥さんに接触しました。
 「私も会社の人から話を聞いてびっくりしています。情けないやら、悔しいやら……。こんなことなら、離婚届に判を押すんじゃなかったと思います」
 奥さんは暗い表情でそう言いました。今も体調はよくなさそうでした。
 「最近、前以上に目眩に襲われることが多くて……。体がこんな状態ですから、働きに出ることもできなくて。保護のお金を貰えるようになりましたんで、切り詰めれば何とか生活はできるようになりましたけど……」
 そして、こんな話をしてくれたのです。
 「実は、二人が消える二日前も、私は夫のアパートに行ってるんです。その時も、夫と話をしてるんですよ」

<続く>

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