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単なる娘の家出ではなく・・・(3) | 秘密のあっ子ちゃん(121)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

 三日間とも彼女(三十五歳)は銀行には現れず、張り込みでは何の収穫もありませんでした。しかし、私とご主人(三十七歳)の聞き込みの方は重要な情報を得ることができたのです。 それは、あるビジネス旅館でのこと。三日前まで彼女と男性が泊まっていたというのです。
 「ええ。確かにこの人でしたよ。男の人? ああ、この人です」
 私が差し出した彼女の写真と男性の写真を見て、旅館の女将さんは答えました。 「ご夫婦なんでしょ? そう言っておられましたけど、やはり違うのですか?こういう商売をしていると、たまにあるんですよ。駆け落ちなんかが……。そうですねぇ、かれこれひと月ぐらいおられましたよ。出ていかれた日も引き続き泊まられる予定でしたが、急に事情が変わったとおっしゃって、朝一番に出られました。次に向かわれた所? さぁ? それは何もおっしゃってなかったですから、分かりません」
 この話を聞いて、私はすぐに尾行班を銀行から引き揚げさせました。彼女は二度と大牟田市には現れないことを確信したからです。 それにしても、何故彼女達が急に移動したのか、私にはそのことが疑問に残りました。
 私達が大牟田から引き揚げて一週間が経った頃、再び銀行から連絡が入りました。彼女(三十五歳)が今度は福岡支店から出金しているという情報を伝えてくれたのです。大牟田から移動の過程で福岡支店から出金したとも考えられますが、彼女の親友が福岡の実家に戻っていることを考え合わせれば、彼女は福岡にいる可能性が高いと思われました。
 今度はご主人(三十七歳)だけではなく、居ても立ってもいられなくなっている依頼人(彼女の父、六十二歳)までもが一緒に行くと言い出しました。私は二人の同行をあっさりと認めました。
 今回は彼女の親友にも直接会って、本当に彼女から何の連絡も入っていないのか、その真偽を確認する必要がありました。というのも、大牟田へ行く直前に、ご主人がその友人に対して「大牟田に探しに行くので、時間があればそちらにも回って話をしたい」と伝えており、彼女が大牟田から慌ただしく移動していることを考えれば、その友人が彼女に情報を漏らしたとも考えられるからです。
 その友人に会いに行くには、見ず知らずの第三者の私だけよりはご主人やお父さんである依頼人が一緒の方が効果があると思えました。それで、私は二人の同行を認めたのです。
 私は依頼人(62歳)とご主人(37歳)と共に、今度は福岡へ向かいました。 到着するとすぐに、彼女が出金した銀行の福岡支店に出向きました。というのも、依頼人が彼女の現状の一端でも知りたいと強く希望したからです。
 「カードで出金しているんでしたら、防犯カメラに映ってませんやろか? やつれてへんか心配ですし、どんな服装しているのかを見れば今の生活状態が少しは分かると思いますんで……」
 夫を捨てて他の男と駆け落ちをしてしまった彼女に対する怒りを持ちながらも、娘の身の上を心配する親心は私も十分理解できました。 対応に出てくれた支店長は、最初は「そういった前例がないので」と渋っていましたが、私と依頼人の熱意に負けたのか、最後には「今回だけの特例とさせて下さいネ」と念を押しながらも防犯カメラに映ったビデオを見せてくれたのでした。
 彼女が出金した日のビデオ全てをチェックしていると、午後の閉店間際に彼女は姿を現していました。映像は少し不鮮明でしたが、彼女はやつれた様子もなく元気そうで、依頼人はひと安心したのでした。
 銀行の支店長の好意で、防犯カメラに映った彼女の元気そうな姿を見ることができた依頼人はひと安心したのでした。
 私達はその足で、福岡の実家に戻っている彼女の親友に会いに行きました。
 「ご主人から電話でだいたいの事情を聞いてびっくりしました。別れるとか、離婚するとかを相談していたのは私の方で、彼女からそんな話は一度も聞いたことがありませんでしたから」 友人はご主人(37歳)と彼女の父である依頼人に向かってそう言いました。すると、依頼人はこう水を向けたのです。
 「娘とあんたは大親友やということは聞いています。学生時代からの付き合いですやろから、何かあればあんたに連絡すると思ってますねんけど……」
 「いえ、それが、今回は全く連絡がないんです。今度も福岡へ来ていると聞いて、なんで連絡してくれへんのやろうと思っているくらいです」
 「それは本当でっしゃろな!? どう考えても、あんたには連絡してると思いますねんけど?」
 この少し威圧的な依頼人の問いにも、友人はきっぱりと否定したのでした。
 銀行で防犯カメラのビデオを見せてもらうことと彼女の親友に会うという目的が達成したため、私は依頼人とご主人に一足先に大阪へ帰ってもらうことにしました。そして、スタッフに指示して、今度は福岡市内で彼女が行きそうな所を、写真を持って軒並みに聞き込みに入るように指示したのでした。
 スタッフは五日間、足を棒にして聞き込みに入りましたが、これと言った収穫はありませんでした。
 ところが六日目、スタッフの一人がある土木作業員の手配・仲介をしている宿舎で彼女らしい人物がいたという情報を入手してきました。
 その宿舎は年配の夫婦が経営しており、作業員に現場の斡旋と賄いの面倒を見ているところでした。
 私はすぐにそのスタッフと共に宿舎へ向かいました。 「ええ。この人でしたよ。間違いありません」
 奥さんは私が指し示した写真を見て、はっきりとそう言いました。
「ええ。この人でしたよ。間違いありません」
 福岡市内で土木作業員向けに現場の斡旋と賄いの宿舎を経営している奥さんははっきりとそう答えました。 「夫婦ものでしたよ。どちらかと言うと、ご主人より奥さんの方が働き者でしたねぇ」
 「で、ご主人の方はこの人でしょうか?」
 私は駆け落ち相手の男性の写真を指し示しました。 「ええ、ええ。この人ですよ。ひと月程前に来られましてね、次の現場も決まっていたんですけど、二日前に急用ができたとか言われて出て行かれましたよ」
 「えっ?! 二日前ですか?」
 またしても彼女達は私達が突き止める直前で姿をくらましていました。私はどうもクサイと感じました。偶然にしてはできすぎているのです。
 大阪へ帰ると、私は依頼人にこの状況を報告しました。そして、こう言ったのです。
 「どうも怪しいですねぇ。これはどう考えても内通者がいるとしか思えません。大牟田の件や福岡の件を知っているということは身内の方だと思いますが……それも、かなり詳しいことを知っている人ですねぇ」
 「これはどう考えても内通者がいるとしか思えません」
 私は依頼人(62歳)に言いました。そして、こう続けたのです。
 「その内通者とは、大牟田の件や福岡の件を詳しく知っている人です。この件はどなたに話されましたか?」
 「話したのは家内と下の娘だけですけど、まさか、うちの家内と娘がアイツに連絡が取る訳ありません。なにしろ、ワシがどれだけアイツのことを怒っており、どれだけ探しているのかを一番知っているのは、当の二人ですから」
 依頼人は私の疑いをきっぱりと否定しました。それでも、私は自分の考えを述べました。
 「そうですか。でも、情況から考えて、内通者がないとこんな動きはできませんけれどねぇ」
 しかし、依頼人はこう言いました。
 「ワシはあの親友が逐一連絡を取っているんだと思います」
 依頼人は頑として「家内と娘に限って、そんなことをする訳がない」と言い張るのでした。私としても、何か証拠があって言っているのではなく、それは単なる経験からくる「勘」でした。そこまで依頼人に言われれば、執拗に奥さんと彼女の妹さんが怪しいとは言えませんでした。
 「では、次の手立てを考えましょう」
 私はそう答えました。
 しかし、二回も私達に捕まる寸前で逃げ切っていることを考えれば、彼女の警戒心はかなり強いと判断せざるを得ません。おいそれと今までのように尻尾を出すとは考えられませんでした。
 「この際、彼女自身の目にも触れるように、新聞の『尋ね人』広告を出してみては如何ですか? 身の回りの人からも、『あんた、新聞に出ていたよ』と言われ出すと、何らかの形で接触を取ってこざるを得なくなるでしょうから」
 私は彼女の裏を書く方策を提案しました。依頼人もすぐさまこの案に乗り、九州の新聞に「尋ね人」広告を出すことになりました。 「但し、念のため、このことは奥さんと下の娘さんにはおっしゃらないで下さい」
 私は依頼人にそう念を押しました。
 私と依頼人(62歳)は、念のため、奥さんと下の娘さんには伏せて、九州地区の新聞に尋ね人広告を出すことにしました。
 広告が掲載されて三日目、依頼人から電話が入りました。
 「実は、昨日、無言電話がありましてな。あれは絶対アイツですわ」
 依頼人は言いました。
 「相手は何も喋らなかったんですか?」
 「そうですねん。電話はいつも家内が出るんですけど、昨日はたまたまワシが出たんですわ。『もしもし』と言っても黙ってましたさかい、『お前か!』と言うと、ブチッと切れてしまいましてん」
 「周りの雰囲気はどんな感じでしたか?」
 私は尋ねました。
 「静かな所からのようでしたなぁ。音楽や車の音も聞こえませんでしたから、どっかの部屋から掛けてきたんでっしゃろなぁ」
 依頼人はそう言いました。 何日かしてまた電話があるかもしれないので、私達はもうしばらく様子を見ることにしました。私は依頼人に、今度電話があった時は、頭ごなしに怒るのではなく、「お前の考えを聞きたいから、一度会おう」と言うように指示したのでした。

<続>

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