これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。
以前、「興信所」業界全体についてのお話をさせていただいておりました が、今回はその続きをもう少し進めていきたいと思い ます。
「興信所は恐い」という悪いイメージが完全に払拭されきっていない現在、大阪では業界の社会的責任を自覚して社団法人大阪府調査業協会を組織し、市民生活への寄与と業界内部のモラルの向上に努めています。
しかし、未だに存在している若干の悪徳興信所が何かの事件を引き起こすたびに、その努力が水泡に帰しているのも事実です。そこで、皆さんの今後のご参考 のためにも、今回はその悪徳興信所の手口の一部をご紹介しておきたいと思います。
悪徳興信所は、企業信用調査にも大衆調査にも、あらゆる調査部門に存在しています。その一つ、企業信用調査
の中には、「化調」もしくは「B調」と呼ばれるものがあります。
本来、企業信用調査は取引先の経営や信用状態に不安を感じた企業が調査を出 すものです。従って、当然依頼主が存在します。これを「本調」もしくは「A調」と呼びます。
しかし、「化調」では依頼主が存在しないのです。
存在しない!?それは 一体どういうことでしょうか?
そもそも、調査というものはその依頼主を公表しないのが常套です。それは企業信用調査といえども同様です。
信用調査は、新たに大きな取り引き話が出ているとか、長年取り引きをしていても少し様子がおかしいとか、あるいは大手企業が下請業者に対して定期的に経営状態を調べるといった依 頼が多いのです。従って、調査を受ける企業は、興信側が依頼主の名を明らかに しなくても、どこからの調査かはだいたい察している 場合が少なくありません。
「化調」はそれを利用するのです。「今後の取り引きを有利に運びたい」と思っている被調査先が、勝手に想像している依頼主に対 して「よりよい報告書を書 いてもらいたい」という弱みに付け込み、自社の調査チケットを売り込んだり、会員にさせたりする。そういう手口なのです。
具体的にはこんな具合です。
ある日、「興信所」と名乗る者から中小企業の代表者あてに電話が入ります。彼らは大手企業が相手では商売になりませんので、必ず中小企業を対象としています。
彼らは必ず代表者と話したがります。それは、中小企業ではワンマン社長が多く、専務や部長では「即決」が取れないことが多いからです。彼らにとって、「即決」こそが命です。「二、三日考えて」など言われて引き下がっていては、相手が調査の依頼主と思っている企業に問い合わ されたりしてしまいます。そんなことをされようものなら、調査依頼などないことがバレてしまうからで す。
代表者が電話口に出ると、彼らはこんな具合に話します。
「あっ、社長ですか?実は今回、御社に対して信用調査が入りまして・・・。ついては、少しお尋ねしたいんですが・・・」
そして、創業時期や従業員数、主要な取り引き先、メインバンクなど会社の概略を聞いてきます。
「ところで、これはどこ からの調査ですか?」
質問に答えている社長が気になりだして聞きます。
「何分、興信所ですので、依頼主についてズバリは答えできませんが、だいたいご見当はおつきになっておられますよね?」
彼らはそう言うのです。
<続>
Please leave a comment.