これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。
おもしろ半分でかけたダイヤルQ2のパーティーライン。そこで知り合ったある一人の女性とやりとりした電話の数、十数回。
当然、依頼人の彼(二八)は彼女に一度会ってみたくなり、「今度会おう」と何度も誘いました。
しかし、その度に彼女は「その日は、仕事の関係で東京へ行くので」とか、「父が病気になり、看病しなければならないから」とか、あれこれ理由をつけては会おうとしなかったと言います。
私はどうも”くさい”と思い、依頼人に
「それは、彼女があなたに会えないような嘘を言ってるからじゃないのですか?」と聞く。
すると彼は、「いや、彼女はそんな嘘を言う子じゃありません」と真顔で怒って否定するのです。
私は、内心『そんなムキにならなくても…』と思いながら、再び聞きました。「そうですか。それで彼女はどんなタイプの人なのですか?」
彼の話によると、彼女は二十四歳で可愛い声の持ち主だそうです。そして、オーストラリア人と日本人のハーフで、ある週刊誌のミス・キャンパスにも選ばれたこともあり、現在はアルバイトで大阪空港の国際線のインフォメーションをしているとのことでした。
彼の頭の中では、彼女は”宮沢りえ”のような素晴らしく可愛い子と思い描いているようでした。
私は、彼の思い入れに水をさすようで悪い気もしましたが、そこは心を鬼にして言いました。
「どの内容も話ができすぎて、よけい嘘臭いですね。だいいち、そんな子がこの辺にウロウロしているとも思われませんけど…」
(しまった!最後の言葉が一言多かった)
と思ってもあとの祭り。彼はますますムキになって、「彼女は絶対にそんな嘘をつく子ではありません!」と言い返す。
私は、彼への「説得」はこれ以上無理だと判断し、話の続きを促したのでした。彼女の誕生日にプレゼントを送ろうと住所を聞くと「今、お姉さん夫婦の所に屈候している」と、その住所を教えてくれました。プレゼントを送って、一週間ほどしてから彼女から電話が入り、「お姉さん夫婦が引っ越す。自分も一人でアパートを借りる」と言ってきたのです。
それが最後の電話でした。一度、その住所を訪ねましたが、「そんな子はいない」と。
そして、彼はこうも言いました。
「その後、別の女性から交際を申し込まれもしましたし、親が『結婚しろ』とうるさくて見合いの話を進めたりもしているのですが、彼女のことが気になってまったくその気にならないのです。とにかく、彼女に一度会ってこの目で確かめないことには、僕の中で何も始まらない」
私は、「彼女の話したことが嘘であれ、真実であれ、とにかく彼女を探し出して一度会わせるのが、彼の心の整理にとって一番の薬だ」と思いました。
早速、私たちは「彼女」を捜し始めました。ところがと言うか、やはりと言うか、彼女がミス・キャンパスになったという週刊誌に問い合わせても、「ここ何年もそんな企画はしたことがない」という返答です。
また、大阪空港では「国際線のアナウンスにバイトの人は、使っていません」という回答なのです。私たちは無駄を覚悟で彼女の”お姉さん夫婦のマンション”にも聞き込みに入りました。 すると何と、そのマンションの部屋の住人は、最近入れ替わったどころか、
何年も同じ夫婦が住んでいるというではないですか!
より慎重に聞き込みに入った結果、「彼女」はその部屋の住人の三十六歳の人妻だったのです。
「どこがハーフやねん!」「なにが二十四歳やねん!」と私はあきれました。
これではどんなことがあっても彼には会えない訳です。
私は「彼女」を信じ切っている彼にこの事実を伝えれば、どんなに落胆するだろうかと恐る恐る報告しました。
しかし、彼は報告書を見るなり、「これで見合いする気になりました!」と意外にさばさばと言ったものでした。
とにもかくにも、『一件落着』というところです。
<終>
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