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離婚した妻と娘は・・・(2)| 秘密のあっ子ちゃん(185)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

半年の入院生活を終えると、彼(48才)は生まれ変わったように働き始めました。飯場を振り出しに全国いたる場所の建設現場で、身を粉にして無我夢中で働きました。これまでのすさんだ生活と決別するためにはそれしかないと思い決め、歯を食いしばってがんばったのです。
三年程して彼はその真面目な働きぶりを請われて、 小さな工務店へ入りました。そこで長年勤め上げ、番頭として店を任されるようになりました。そして離婚して二十六年経った今では、自分で工務店を経営できる身となったのです。
その間、彼は妻子達はどんな生活をしているのか、どこで暮らしているのか、全く知らないでいました。離婚前に知っていた妻の実家はどこかへ引っ越していて、娘達の成長の様子を聞こうにも連絡の取りようがありませんでした。彼としても離婚の原因が自分の行状にあったことを重々承知していましたので、敢えて連絡をするのも惮かられ、結局そのまま二十六年の歳月が経ってしまったのでした。
それが、つい最近、兄から「実は、二年前に俺とこへ連絡が入っていた」と打ち明けられたのです。
妻は下の娘が結婚するのを機に、その報告と近況を 知らせてきたのでした。離婚後転々と住居を変えてい た彼に彼女側からも連絡を取りようもなく、やむなく兄へ連絡を寄こしたのでした。彼女は同時に娘の花嫁 姿の写真を送ってきていました。兄はそのことを、二年も話さずにいたのです。
お兄さんとすれば、必死の思いで立ち直り、再婚も して一男一女の父親となり、今や小さいながらも「社長」と呼ばれるまでになった弟可愛さからのことでした。彼に今さらあの荒んだ昔を思い出させるようなことはしたくなかったのでした。ですから、彼女には何の落ち度はないことはよく分っていましたが、弟と直接話させたくありませんでした。
彼女は兄の冷たい対応にそうしたことを察してか、 自分の居所も連絡先も言わなかったと言います。ただ 「娘が結婚したということを伝えてもらえば結構です」それだけ言って、電話を切ったのでした。
彼も驚きました。兄が二年間もそのことを伏せてい たこともそうですが、離婚したとはいえ二十四年間も 放ったらかしにしていた自分に、妻の方から娘の結婚 の報告を入れてきてくれたことに、今さらながら有難 く、また申し訳ない思いで一杯となったのでした。
「あれだけ苦労をかけたのに、ちゃんと娘の結婚を 知らせてくれたアイツに感謝しています。娘達にも父 親らしいことを何もしてやらず、本当に悪いことをし ました。佐藤さんから見れば何を今さらと思われるか もしれません。それに、探してもらっても会いに行く 勇気が出るかどうか分りませんが、どこでどんな生活 をしているのか、この二年間、そのことだけが気にな って・・・」彼は、そう私に言いました。
こうして、私達は彼の前妻と娘さん達の所在の調査 を開始したのでした。
彼の前妻と二人の娘さんの所在は、早い時期に判明して きました。当然と言えば当然なのですが、依頼人が、妻であった彼女のことについて探す手がかりとなる材料をたくさん知っていたからでした。
彼女は彼と離婚して五年程後に再婚していました。そのご主人も三年前に亡くされ、現在はご主人の地元で一人、小料理屋を経営されていました。下の娘さん は、彼女の連絡どおり二年前にサラリーマンと結婚し て、今や一児のママとなっています。上の娘さんは独身で、旅行会社の主任として仕事にがんばっていまし た。
彼は私達が作製した報告書を黙って受け取って帰っ ていきました。私も彼に今後どうしようと考えている のかなどということは聞きませんでした。そうしたこ とを気安く聞くことがあまりにも興味本位のような気 がしてはばかられたのです。
それから、依頼人から当社への連絡は入っていませ ん。私は彼が前妻と娘達に再会したのか気になってい ますが、今もこちらからの連絡はひかえています。彼の方からの連絡を待っているのです。いつか、いい報 告をくれることを期待しながら・・・。

<終>

 

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