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夫の家出の原因は・・・(3) | 秘密のあっ子ちゃん(145)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

大手証券会社に勤めるご主人の浮気が発覚すると、彼女はすぐ夫に離婚を申し入れました。

ご主人は初めのうちは言い訳をして離婚には同意しなかった、と言います。

しかし、彼女はあのおとなしさの中のどこにそんなエネルギーがあるのかと思われるほど決然とした態度をとったようです。そしてついに、「裁判も辞さない」という彼女の覚悟を知ったご主人が離婚届けにサインをしました。

その話し合いもついて三カ月も過ぎた今年の夏の盛りのこと。「近くに来たから」と来社した彼女を見て私はびっくりしました。まるで別人のようだったのです。私が彼女に会うのは、調査報告をして以来、初めてでした。

その後の経過もその時に聞いたものです。そこにいるのは、無表情の青白い顔をじっとうつむけていた彼女ではありませんでした。表情も豊かで、目も生き生きとして、こちらから質問もしないのにびっくりするほどよくしゃべります。また、よく笑うのです。私は思いました。彼女はご主人の浮気を前から分かっていたのだ、と。そして、それがよほどつらく、悲しかったのだろうと。

<終>

 

夫の家出の原因は・・・(2) | 秘密のあっ子ちゃん(144)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

『今日こそ会社を辞めてくる』と言って家を出たまま、一か月以上も自宅に戻らないご主人。そのご主人の件で調査依頼に来た若妻ではありましたが、彼女は全く口を開きませんでした。ただ、無表情にうつむいているだけ。

彼女に代わってもっぱら話を進めたのは付き添っていた父親。何と、ご主人は家にこそ帰らないものの、勤め先の大手証券会社にはちゃんと出勤しているというではないですか。

私はすかさず、「それでしたら奥さんが会社に出向かれて、ご主人に帰ってくるように直接、おっしゃればいいことだと思いますよ」と進言しました。

「ええ、昨年の大納会の日に出て行ったまま、正月も家に戻って来なかったようですので、娘に電話を入れさせたんです。すると婿は『会社を辞められ

なかったから帰れない』と言い訳したらしい」とお父さん。

「奥さんは、ご主人が証券会社にお勤めであるのを反対なのですか?」

「いいえ」と、またお父さん。

「娘は会社がいやだとかグチをこぼしたことはありません。昨年の秋ぐらいから突然婿の方から言い始めたらしいんです」

「ウーン、話のつじつまが合いませんねぇ」

「そうなんです。それで『今どこで寝ているの?』と娘が聞きますと、『独

身寮で一つだけ空き部屋になっているところで寝泊まりしている』と言うらしいんです」

何でも寮の友達に見られると具合が悪いから、朝早く出て夜遅くまで時間をつ書ぶし、寮に帰ると電気もつけずにそのまま寝てる・・・と。

「家内や娘は婿の言葉を信用しているのですが、私はどこかおかしいと思います。佐藤さんはどうでしょう?」

「そりゃあ、そんなんまるで嘘ですワ」。私はポンと突き放しました。以前にもよく似た依頼があったので、私は確信をもって言いました。「それは女ができているのだと思います」

話をしている間、彼女は相変わらず青白い顔に何の感情も出さず、ただうつむいたまま。奥さんには申し訳ないのですがと断りながら、「ご主人がおっしゃっていることは全く嘘」「女がいる」と私が断言しても、奥さんは何の反応も示さない。こうした場合、妻というものは逆上したり興奮したりするものなのに…。

私は「こんな無表情でこれまでよく夫婦の会話が成り立っていたもんだ」といぶかしくさえ思うようになりました。

結局、その日の彼女はただの一言も発せずに帰って行きました。彼女の主人の尾行はさほど難しいものではありませんでした。 彼は退社するとまっすぐ「女」のマンションに入っていきました。あとで分かったことですが、そのご主人の「女」とは彼の学生時代の後輩で、結婚する前からのつきあいだったようです。

<続>

夫の家出の原因は・・・(1) | 秘密のあっ子ちゃん(143)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

『家出』といっても、妻が家を出る場合、その原因のほとんどは「夫に愛想がつきた」ということが多いようです。

子供に後髪を引かれる思いをしても「もう顔を見るのも耐えられない」という。とことん追い込まれた心理状態に至っての結果なのです。

家を出た時、別の男と一緒かどうかは根本原因とはあまり関係ありません。その男の存在は、家を出るための単なる『ふんぎり』にすぎず、「その男と暮らしたいから」と家を出るのではないようです。

たいていの場合、妻の側は随分以前からご主人にシグナルを送っているものです。しかし、ご主人の方はというと、それには全く気がつかない。それどころか、彼女の必死の話を聞く耳さえ持っていないのです。

そして、妻に家を出られて初めて気がつく。いや、まだ気はついていません。なぜ家を出たのか、その理由が全く分からず、ただ慌てているだけなのです。これは、定年退職した日に離婚をつきつけられる夫の図によく似ています。世のご主人方は、奥さんのシグナルにくれぐれもお気をつけ下さい。
思い詰めた上での妻の家出とは逆に、夫の家出の原因はいたって単純です。

それは『女ができた』場合がほとんど。家出した夫のほとんどが女の部屋に転がり込んでいるものです。

今年二月に依頼を受けたケースも、「主人が家を出て帰ってこない」というものでした。

依頼者は、結婚3年目という22歳の若妻。ご主人は26歳で、大手証券会社に勤務しています。

当社に依頼に来られたとき、彼女の父親も付き添ってきました。

彼女は、まだまだ幼い感じで、青白い顔をうつむけたままほとんど口を開きません。おとなしそうに見える女性でしたが、私は大変暗い印象を受けました。

話は彼女に代わってもっぱら父親が進めました。

ご主人の様子に変化が現れ始めたのは昨年の夏ごろ。帰宅が遅くなり、秋ごろには外泊する日も増えてきたのです。

「そのころは、娘も『仕事が忙しいのだろう』ぐらいに思っていたようだ。ところが秋ロになると、婿はいきなり『会社を辞めたい』と言い始めた」と。そして、昨年の大納会の日、「『今日こそ会社を辞めてくる』と言って出勤したっきり、戻ってこなくなった」というのです。

「主人が帰って来ない」と依頼に来られた22歳の若妻に代わって、事情を説明したのは付き添っていた父親でした。

昨年の大納会の日、『今日こそは会社を辞める』と言って出勤したまま、一か月も帰らない娘婿。父親は「娘も家内も『辞められんからよう帰って来れないんだ』と言っているのですが…」と。

そこで、私は彼女に聞きました。「ウーン、それはどうかなあ。ご主人は、そんなに気の弱い方なのですか?」

彼女は、無表情に下を向いたまま。代わりに父親が答える。

「いや、気は弱くありません。結構活発な方です」

「それじゃあ、損失補てんの問題に絡んで得意先とトラブルがあったとか、

バブルがはじけて業績が悪くて悩んでおられたということはありませんか?」

また、父親が答える。「いや、それも私が会社に探りを入れたのですが、そういうことは一切ないようです」

「で、ご主人は会社の方はどうなされているのですか?」

「それが、元気に出社して勤務はしっかりやっているようなのです」

(それだったら、会社に乗り込めばいいのに)

<続>

連れ去られた?娘(2) | 秘密のあっ子ちゃん(142)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

 

家出した一人娘の調査を依頼してきた父親の話はまだ続きました。実は今回が初めての家出ではなかったというのです。

「そうです。最初の時(二月の家出)は友達関係にいろいろ聞いて回って、三日目ぐらいに京都でアパートを借りている短大の友人の所に泊まっていることが分かったんです」

「じゃあ、彼と一緒だったわけではないんですネ」と私。

「当たり前ですよ。あの男と一緒だったらただでは済ませませんよ」

「!?・・・で、お嬢さんはすぐに戻ってこられたんですネ?」

「いや、言うことを聞かず、また逃げようとしたので『卒業したら結婚させ

てやる』『それまではちゃんと家から学校に通え』と言い含めて連れて帰ってきたんですワ」

「それではなぜ、また家を出られたんですか?」

「そんなん、連れて帰る口実に決まってますやろ」

(そら、だましたらあかんワ!)

私は半分以上、あきれ顔。「マ、お話を聞いてますと、この場合は仕方ないんじゃないですか?」。

ところが、このお父さん、私の話を全然聞いていない。

席を立ちながら「まあ、そういうことなんで、あとは家内とよく打ち合わせて下さい。私は、これからちょっと仕事がありますので失礼させてもらいます

けど、よろしゅう頼んます。あてにしてまっさかいに!」と言うやあたふたと

出て行ってしまったのです。

「なんちゅう親父や!」。ムッとしている私に、お母さんが初めて口を開き

ました。

「すみません、主人はご覧の通りの性格ですので、私が何を言っても聞く訳

がありません」

「しかし、ご主人があれでは娘さんを見つけられても同じ繰り返しだと思い

ますヨ」

「私もそう思います。ですから、このお話、主人に断っていただけませんでしょうか?」

「実は、私もお断りしようと思っていたのです」

「そうしていただけませんか。それで、主人には内緒で私が依頼したいんですが、それを受けてもらえないでしょうか?」「え!?」本当に突拍子もない夫婦だと思いましたが、お母さんの方がよほど娘さんの幸せを考えていました。「主人は当分娘の結婚は認めないでしょう。子は親の言うことを聞くものだと

思っていますから…。私もこの緑談は、初めは乗り気ではありませんでした。だけど、こうなった以上娘の生活が成り立つようにしてやりたいのです。こ

のまま放っといたら、大学生の彼と苦労するのは日に見えています」

さらに、「せめて私だけでも娘の味方になってやらねば。二人は私が隠

します。主人にはいずれその時期がきたら話します」と。

そういう話ならと、私はお母さんの依頼を受けることにしました。

しかし、時間的余裕はありません。あの父親に見つかる前に、こちらで彼女たちを”保護”しなければならなかったからです。

そもそも若い二人の「駆け落ち」というのは、たいていだれかにその居場所を告げているものです。

ところが、短大生の彼女は『大学を卒業すれば結婚を許す』と、父親にだまされて連れ戻された前回の「苦い経験」から、自分の友人のだれにも連絡をし

ていませんでした。

友人たちも今回ばかりはかなり心配していて、私に嘘を言っている素振りはありません。

一緒にいる彼のご両親はというと、彼女の父親に怒鳴り込まれて初めて事態を知り、困り果てていました。

そこで私たちは、二人がバイトで働いていそうな大学周辺を軒並み当たりました。マ、人間というのは、全く知らない土地には行きにくいものですから。

聞き込みを開始して一週間目、苦労のかいあってやっと彼女がバイトをしていたファーストフード店を見つけたのです

彼女は、お母さんが味方だと分かって大変喜んだのは言うまでもありません。

あれから半年、無論、父親はまだ二人の仲を許してはいません。

しかし、私は、一見おとなしそうだけれど芯の強いあのお母さんがついている限り、「二人はまず大丈夫だ」と確信しています。

<終>

連れ去られた?娘(1) | 秘密のあっ子ちゃん(141)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

今回から家出人捜索のお話をしたいと思います。

家出人や蒸発者の捜索は、家族からの依頼だけに限ってお受けしていますが、ひと口に家出人と言ってもさまざまな事情があります。

ある日突然、会社から戻らなくなった夫。

子供に置き手紙を残し、ほんの少しの身の回り品だけを持って消えた妻。

「定職につけ」と厳しく叱った翌日からどこへ行ったかわからないプータローの息子。

駆け落ちをして電話一本の連絡もない娘…などなど。

まずは、今年の春に家を飛び出した十九才の女性のお話から始めます。

最初に彼女の父親から電話があったのは、三月下旬でした。

彼女は一人娘で、両親と共に奈良市に住んでいました。父親は船場の老舗の店を経営し、彼女は京都のある短大へ自宅から通学していたのです。
それが父親の話による一と、卒業を目前に控えた三月三日、何の置き手紙もなく突然、「家を出た」というのです。
相談に来られたご両親はさすがに傭伴(しょうすい)されていました。
「ひとり娘が短大の卒業を目前に、何の置き手紙もなく家を出てしまった」こう言って飛び込んでこられたご両親はひどくやつれたように見えました。

特に母親の方は見るのも忍びがたいほどで、私は『ご両親の心痛はいかばかりか』と、相談の内容を詳しく聞き始めたのです。

ところが、ところがです。父親の話を聞いているうちにだんだんと腹が立ってきました。

つまり、こうでした。

「娘さんが家出される原因に何か心当たりはおありですか?」

「あります。男に連れ去られたんです」

(え!?なにそれ?)

「『連れ去られた』と言うと誘拐ですヨ」と私。

「いやいやそうじゃなくて、その男というのは娘の高校時代の同級生で、親に隠れて四年もつきおうとったらししいです。今年の正月、その男がウチにやってきて、『将来、結婚させてほしい』というもんで追い返してやったんです」「娘は親の言うことをよく聞く素直な子やったのに、それ以降というもの反抗ばかりするようになって、みんなあの男がそそのかしているんですワ」

 

一人娘が短大の卒業式を前に家出したと相談に来た父親の話をよくよく聞いてみると、それは「家出」ではなく「駆け落ち」でした。

・また、このお父さんがひどい。

「結婚を前提に交際したい」と筋を通してあいさつに来た娘の同級生を怒鳴って追い返す。しかも、それからというもの反抗的になったお嬢さんの態度もその男性がそそのかしたのだという。そして彼女が家を出た理由に至っては「男が娘をだまして連れ去った」と言い出す始末なのです。私はと言うと、この父親の話を聞いているうちに、もちろんムカムカしてきました。(これじゃあ、娘さんも家を出たくなるわなあ)(いまだにこんな父親がいるんやなあ)しまいにし、頭痛を通り越して「ウーム」と感心してしまいました。

しかし、まだ納得するには早かったのです。

「正月、あの男を追い返してからというもの、素直だった娘が反抗的になって二月の初めに最初の家出をしたんです」

「えっ!?家を出られたのは今回が初めてじゃないんですか?」

<続>

浮気調査は…(3) | 秘密のあっ子ちゃん(140)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

美容院の女性経営者(46)の依頼で、夫(48)の浮気現場を押さえるため、張り込みを開始した尾行班は、その彼がマンションから出てくるのをじっと待つ。

<午前七時三十分> 依頼人が事前の打ち合わせ通り、 近所の奥さんたちと温泉旅行へ出発。

<午前八時>調査先は動かず。

<午前九時>調査先まだ動かず。

<午前九時五十分>調査先がついに出てきた。背が高くひょろっとしていてちょっと神経質そうなおっちゃんだ。私たちは、この調査先をこれ以降、親しみ(?) を込めて”オッチャン”と呼んだ。オッチャンはミニバイクに乗り、駅前の方へ走る。

<午前十時五分>オッチャン、 駅前のパチンコ店へ入る。

さあ、それからが大変だった。 オッチャンは、延々とパチンコに熱中し始めたのです。正午を過ぎても三時を過ぎても、昼食も食べずに、ただパチンコだけをしている。七時を過ぎても、九時を過ぎても夕食もとらない。ただひたすらパチンコなのです。何しろ、駅前商店街の中にあるパチンコ店のこと。車を乗りつけてその中で張り込むこともできず、”立ち”で張り込むしかない。

元気のいい、わが尾行班とはいえ、”立ち”の張り込みが十時間以上ともなると、さすがにあごが上がり始めてきたのです。

 

降気調査を依頼してきた美容院経営の主婦との事前の打ち合わせでは、夫は妻の宿泊旅行の間に、浮気相手と密会する手はずでした。ところが、密会どころか朝の十時からすでに十時間以上も、ただひたすらパチンコに熱中している “オッチャン”(ご主人のこと)。

駅前商店街の中にあるパチンコ屋のこと、車を乗りつけてその中から張り込むわけにもいかない。”立ち”の張り込みがこれだけ長時間になると、いくら元気印のわが尾行班といえども疲労の色は隠せません。

食事やトイレは交代で行けるとしても、調査先がいつ動くかもわからないので、休憩さえ取れない。不幸なことに、わが若い衆は全員パチンコがヘタで、オッチャンのそばでパチンコを打っても間が持たない。

尾行班が「もううんざり」と思ってきたころ、店内はついに”蛍の光”が流れ出しました。オッチャンが動き出す。閉店するのだからイヤでも動かざるを得ませんが。尾行班もオッチャンの跡を追う。(ちなみにオッチャンの十二時間の成果はゼロだったようです)。パチンコ店を出たオッチャンは、ミニバイクはそのままに、今度は15メートルほど先の麻雀店に入りました。

その麻雀店に「例の女がいるのでは?」と、メンバーの一人が店内をのぞく。しかし、”女”の姿はなく、オッチャンは早くも麻雀に熱中し始めているではありませんか。

結局その日、彼は午前二時近くまで麻雀をして真っすぐ帰宅したのです。

翌日の日曜日、尾行班は午前八時から自宅前で張り込みを開始しました。前日の十九時間に及ぶ尾行で疲れは倍増していましたが「今度こそは」と気合を入れて張り込んだのです。

<午前十時十分> オッチャンが出てくる。十分睡眠をとったのか元気そうだ。昨日と同様、ミニバイクに乗り駅前へ走る。「またパチンコと違うやろな!」と不安に思いつつ跡をつける。

<十時二十五分> 駅前の喫茶店に入り朝食をとる。「待ち合わせか?」と、張り込みを続けるが女は現れない。

<十一時五分> 喫茶店を出たオッチャンは駅に入り、「動物園前」行きの電車に乗る。尾行班も車とバイクを乗り捨てて電車に乗りこむ。

<十一時五十分> オッチャン、日本橋で下車。地上に出て道頓堀を歩いていく。「これは、いよいよだ」と思ったのもつかの間、オッチャンは何と場外馬券売り場の人込みの中へ入っていくではないか!

その後、彼は、場外馬券売り場と道頓堀の喫茶店を何往復かし、午後四時半過ぎ、「真面目」に帰宅したのです。

初日の十九時間に及ぶパチンコと麻雀。二日目の場外馬券売り場での競馬への熱中ぶり。調査の結果、彼に「浮気」の事実は出てきませんでした。しかし、かけ事にのめり込んでいる事実は明らかになったのです。

 

夫の浮気調査を依頼してきた美容院の女経営者でしたが、二日間の張り込みの結果、その疑いは晴れました。「浮気の事実はなかったが、賭け事にのめり込んでいるようだ」

尾行報告書を手渡した時、この依頼人は随分意外な顔をしていました。それもそのはず。彼女は、夫の帰宅時間が遅いのも所帯費を入れないのも、全て浮気のせいだと思い込んでいたのですから。

その後一カ月ほどして、彼女から当社へお礼かたがた報告の電話が入りました。彼女は、ご主人を問い詰めるやらなだめるやらしてとうとう、「賭け事の負けが込んでサラ金にも手を出している」ことまで白状させたと言うのです。そして、よくよく話し合い、「賭け事はやめる」「二人で頑張って借金を返し、もう一度やり直す」という結末になったとか。彼女の声は依頼してきたときの悲痛な声ではなく、むしろ晴ればれとしていました。借金という尾ヒレがついてきたため「めでたし、めでたし」と言っていいものかどうかわかりませんが、少なくとも「離婚」という最悪の事態だけは避けられました。

そして、当社も初めて受けたこの浮気調査で、ずいぶんいろいろな勉強をさせてもらったのです。

<終>

 

浮気調査は…(2) | 秘密のあっ子ちゃん(139)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

美容院を経営する四十六歳の主婦からの相談が、会社を設立して初めて受けた浮気調査の依頼でした。「とにかく夫の浮気の証拠をつかんでほしい」と。しかし、仮に浮気の証拠があがったとしても、彼女がただやみくもに騒ぐだけのためなら、何の解決にもならないわけです。そこで、何のために調べるつもりなのかを確認すると、彼女は「今度また、本当に浮気をしているのなら、離婚する覚悟だ」と言うのです。一度は許せても二度目は許せない。ましてや、所帯費も入れないのでは、がまんならない。また浮気しているのかと思うと顔を見るのも腹がたって口をきく気もしない…」などと話しているうちに感情も高ぶってきて、ついには涙声になられるのです。
お兄さんの援護射撃も彼女の腹立ちに油を注ぎました。「幸い子供もいないことだし、お前一人なら美容院で十分食っていけるだろう。そんな男とは別れろ!オレもあいつにはとことん愛想が尽きた」と。マ、こういう場合、私としては「そうですか。けしからん男ですね」と同調するわけにもいかない。かといって、「大丈夫です。浮気なんてされてませんヨ」なんて気休めを言うのもあまりにも白々しい。「分かりました。それでは、きっちり調べてみましょう」とお受けするしかないわけです。あとになって気づいたのですが、「分かりました。きっちり調べてみましょう」という言葉の効能は驚くほど大きいようです。彼女もその言葉を聞いて、それまでの食欲不振と不眠状態がめっきり改善されたというのですから。

 

さて、私は早速、現場に下見に向かうと同時に当社の尾行班に連絡を取ったのは言うまでもありません。尾行班は非常動スタッフで、元気のいい若い衆(と言っても、どこかの組の構成員ではありません)が顔をそろえています。下見の結果に基づいてメンパーたちに尾行の日程や張り込みの時間、位置、車両台数などを具体的に指示します。調査相手の特徴や日ごろの行動パターンなどもできるだけ詳しく伝えます。この時に調査先の写真や現場人の地図などの七つ道具を渡すのは当然のこと。

私自身が尾行現場に出るのは全体の半分くらい。センター機能が必要な尾行は、私がセンターに詰めていますので現場には出られなくなります。だけど、どんなケースでも現場を見ていないと何の指示も出せません。下見に関しては必ず私自身で足を運びます。それはさておき、話は少し戻りますが、この調査先は行動パターンが全く一定してなかったのです。
彼は公務員ですので毎日決まった時間に仕事は終わりますが、アフターファイブに、組合の会議があったり同僚との付き合いも非常におよろしいらしい。いつ、どの行動パターンのときに浮気を実行するかが、まったく予測が立てられないのです。

 

浮気の現場をおさえるための張り込みを始めようにも、同僚との付き合いがよすぎたり、毎日の行動がパターン化されていないケースでは張り込みや尾行に日数がかかります。浮気調査の依頼をしてきた美容院を経営する彼女の主人がそうでした。こうした場合、少なくとも一週間から十日くらいの張り込みが必要となってくるんですが、それでは調査料金が非常に高くつくし、結果的に目当ての女性と逢い引きしなくてもいったん張り込みや尾行を始めれば、調査料金は当然必要になってきますので、依頼人の負担はかなり重くなってきます。

そこで、私は彼女のご主人が「安心して」コトを起こせるように、実家へ帰るとか、旅行に行くとかの口実で、外泊の機会をつくる提案をしたのです。それじゃ、町内の忘年会に行くことにします。それが来週の土、日曜日なんです。町内会の忘年会は毎年、一泊の温泉旅行なんですけれど、今年ばかりは主人があんな状態でしょう。私が城崎へ行っている間に、あの女に会われたらイヤなんで、ずっと断っていたんです。だけどそれに行くことにします。そんなわけで尾行の決行日は、彼女が一泊旅行に出掛ける際の週の土曜日と日曜日の二日間に決定したんです。

美容院を経営する女性から依頼された夫の浮気調査。さて、いよいよその尾行当日の土曜日、わが尾行班は一台とバイクー台、歩き一名の計四名で張り込みを開始。そもそも、尾行中に決してやってはいけないこと。それは、「目立つ」ことです。周りの雰囲気に「溶け込んでいでいる」ことが鉄則なのです。テレビドラマや映画などでは探偵といえばトレンチコートでサングラスをかけ、電信柱の陰から様子をうかがっている」なんて図をよく見かけますが、あんなことはとんでもない。住宅街でそんな格好でたたずんでいようものなら目立ってしょうがない。
実は、私も一度だけ失敗したことがあります。ある新興マンション群の中にある公園で張込んでいた時、ウチのメンバーがつかつかと私に近寄って来て言うのです。「社長、浮いてまっせ」 と。ふと周りを見ると、 その公園の中は、幼児を遊ばせている二十代の若妻ばかりだったのです。自分では、あくまでも溶け込んでいるつもりでしたが、どうも無理があったようで(ちなみに、私は39歳)、内心ちょっとムツとしながら、その時はすぐに若いメンバーと交代したのですが・・・。

<続く>

浮気調査は…(1) | 秘密のあっ子ちゃん(138)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

 当社の社名は「初恋の人探します社」。ですから依頼内容は皆さんご想像の通り、「初恋の人は今どうしているか」から始まり、二回目•三回目の相手が(数を重ねてもあくまで”恋をした”ということですのでお間違いなく)「元気かどうか、幸せかどうかを知りたい」。はたまた「南方戦線で一緒だった戦友を探してほしい」といった『心に残っている人』の所在調査が圧倒的に多いわけです。
 そうした心温まる話はおいおい紹介していくとして、しばらくは探偵業務の真骨頂であります浮気調査について話を進めていきたいと思います。
 といっても当社は思い出の人探し」が主体ですから、浮気調査そのものは依頼総数からみればそれほど多くありません。
 が、それでもチョイチョイ、問い合わせが入って来ます。
 そこで、依頼者の話をじっくり聞いて、と言いますか、依頼者の話はたいていアチコチ飛びますので、じっくり聞くしかないわけです。そして、彼女の状態が(たまには「彼」である場合もあります)ご主人の浮気や浮気への疑惑のために食がのどを通らない」夜も寝られない」といった精神的にも肉体的にも限界に近い深刻な状態の時にはまずお受けします。
 浮気の調査依頼をすべて二つ返事で引き受けるわけではありません。半分までとは言わないまでも、当人の「思い過ごし」のケースも結構多いのです。
 ご主人(あるいは「奥さん」)の行動パターンに耳を傾けていると「これは本物だナ」とか、「それって思い過ごしじゃないの?」ってなことはだいたい判断できます。
 「思い過ごしだろうな」という時に『女房心配するほど亭主モテもせず』なあんてことは当然、口が裂けても言えません。「もう少しじっくりとご主人の様子を観察されて、それでもおかしいと思われたら、もう一度お電話ください」とチェックポイントも怠りなくアドバイスします。
 そうすると、何例かは平穏な生活に戻られるようです。私としては、余計なことを言わずに黙って依頼を受けとけばよかったと後で思ったことが、一度ならずありましたが…しかし、その一見ビジネスチャンスを逃すようなことを言うのには、ワケがあります。 浮気調査を引き受けるかどうか、慎重に見極めるには理由があります。
 あれは昭和六十三年の暮れのことでした。依頼人は茨木市で美容院を経営する四十六歳の女性で、ご主人は四十八歳になる公務員。二人の間には子供はいません。
 (と言っても、当社は依頼人のプライバシーに対しての守秘義務は絶対に守りますので、どの人のケースなのかを特定できないよう に、シチュエーションなどはすべて変えてあります。その点は悪しからず…)
 彼女が言うにはこうでした。主人の浮気は今回が初めてじゃなく、実は三年前にもありました。相手は子供が二人もある女性でそのころちょうど離婚したらしいんです」
 最初は『相談に乗ってあげていただけだ』と言いつくろっていたご主人でしたが、結局、浮気はバレてしまったといいます。
  「私の兄がその女性と別れさせたんです。主人は『もう二度と会わない』と約束してくれたので安心していたのですが…。最近帰りの遅い日が多なったし、給料もあまり入れない。絶対、あの女とよりが戻ったに違いないんです」
 それ以外にも、彼女が夫の浮気を確信したという理由をいくつか並べ立てた上で結局、「浮気の証拠をつかんでほしい」ということだったんです。

<続>

依頼の理由は嘘で…(2) | 秘密のあっ子ちゃん(137)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

 既に購入した分譲マンションからそう易く引っ越しする訳にもいかず、彼女は困っていました。
 「私の居所が分かれば、彼はまた私を引っ張ろうとして、嫌がらせをしてくるに違いないと思います」
 「う~ん。そんな陰険な人なんですか?」
 依頼に来た時の印象とあまりにも違う依頼人(39歳)の人物像に、私は再度彼女に尋ねました。
 「本当に外づらはいい人なんです。私もつきあい始めたときは、そんな人とは夢にも思いませんでした。婦長さんも彼が入院していた頃との豹変ぶりにびっくりされていましたもの。結局は私の見る目がなかったということだと思ってますけれど…」
 これから彼の対応を考えると、「まずい、困った、どうしよう」と動揺があるであろうに、彼女は淡々と私に話してくれました。それが却って、彼女の言っていることこそが真実であるとの印象を強くし、彼女の人柄の良さと芯の強さが窺えたのでした。
 しかし、私はふと疑問を持ちました。
 「でも、それだけあなたに嫌われているのが分かっているのに、彼は何故そんなにひつこく追ってくるんでしょうねぇ?金のことでも絡んでいるんですか?」
 「確かに、これまで二百万円くらいは貸しています。でも、今は私からお金を引き出すためということではないと思います。もう、私もそんなにお金を持っていないのは、彼も知っていますから……」 
 彼女はそんな風に答えて、こう続けたのです。
 「私もお金を貸しているということがありましたから、ずるずるとこうなってきてたんですけれど、そんなことをしていればいつまでも切れませんから、お金のことはもういいんです。私としては、彼とは縁を切って、一からやり直したいんです」
 私は「なるほど」と思い、何とか彼女の力になってあげることはできないものかと考えていました。
 「では、あなたとしては、今、どういう風になるのか一番いいのですか?」
 私は彼女に尋ねました。 「それはやはり、彼が私のことを諦めてくれて、私の目の前から去ってくれることです」
 「では、こうしましょう」 彼女の意志を確認して、私は一計を講じました。
 「彼は私達にあなたとコンタクトを取ってほしいと依頼されてきたのです。これまでの経過を聞いていますと、ただ単に『彼女はあなたと接触するのは嫌がられています』と伝えたところで、彼があっさりあなたを諦めるとは考えられません。彼にあなたの前から消えてもらうには、少し荒療治になりますが、私は彼にこう伝えましょう。……」 私は彼女との話がついた後も、わざとすぐには依頼人に連絡しませんでした。彼女に連絡を取って、全ての事情を聞いた翌日、今度は彼女のお母さんから私あてに電話が入りました。 「この度は本当にお世話になっております。娘のしでかしたこととは申せ、あの人のひつこさにはほとほと困り果てていたんです。今は警察の方にパトロールを強化してもらったり、いざという時には知り合いの弁護士さんにお願いしたいと申し上げているところなんですけれど、実際、娘の勤務先や住居を変えても、これまでのあの人のやり方を見ていますと、『いずれ突き止められてしまうのでは』と、娘とも話していた矢先だったんです。それが、娘の調査をあの人がお宅さんのようなところに頼んでくれたのは不幸中の幸いだと思っています。本当にお手数をかけますが、何とかよろしくお願いします」
お母さんは、ただただ「くれぐれもよろしく」と私におっしゃるのでした。それを聞いただけでも、私には彼女達母子がいかに依頼人のやり方に困り果てているかがよく分りました。 私にしても、お母さんにひたすらお願いされなくても、乗りかかった責任上、何とか彼女が今後平穏に暮せるように力になりたいと考えていました。私だって、善意の人探しであるべきこの調査を、その動機を偽って彼女の居所を探させようとした依頼人には腹を立てていたのです。
 「当社では依頼時の契約の折りに、依頼人がご自分の氏名や住所、動機などについて、虚偽の内容をおっしゃっていた場合は即刻調査を中止し、違約金を申し受けることを明示しているくらいです。マ、今回、違約金ウンヌンなどと言うつもりはありませんが、何とか彼女が依頼人のひつこさに煩わされないように協力させていただくつもりです」 私は彼女のお母さんにそう伝えました。
 その後、私は依頼人にこんな風に対処したのでした。 まず、しばらくはこちらから依頼人に対し何の連絡もしませんでした。十日程が経った頃、依頼人の方から連絡が入ってきました。 「彼女へのコンタクトはどうなっていますか?」  「それが、大変だったんですよ。ちょっと様子がおかしいんです。その辺り、何か心当たりはないですか?」 
 私は「待ってました」とばかり、こんな風に答えたのです。
 「それが大変なんですよ。いつ行っても彼女はいらっしゃらなくて、まだ直接彼女とは接触できていないんです。ところが問題はお母さんで、異常に警戒心が強いんです。その警戒心は尋常ではなく、スタッフも『何か事情があるようだ』と言っています。あなたならその辺のことをよくご存じではないかと思いまして、一度お聞きしようと思っていたんです。何かお心当たりはないですか?」
 依頼人は一瞬絶句して、こう言いました。
 「……。いや、僕は分かりません。……。お母さんはどんな風な対応だったんですか?」
 「スタッフが『彼女にお伝えしたいことがあるのでお伺いした』と申しますと、どこの誰でどんな用件なのかを根掘り葉掘り聞かれるんです。こちらの社名とスタッフの氏名を名乗りますと、誰からの伝言なのかをしつこく聞かれます。あなたからは『恥ずかしいので、彼女以外には自分の名前を出さないでほしい』と言われてますので、困っていたところです」
 「彼女のお母さんに納得していただくためには、あなたのお名前を出さなければならない状況なのですが」 私がそう説明しても、依頼人は黙ったままでした。
 「あなたのお名前を出しても構いませんか?」
 私は再度念を押して尋ねました。
 「……いや、やはりそれは困ります。彼女本人ならいいですが、お母さんにはどうも…。何とか彼女直接に連絡を取ってもらえないでしょうか?」
 彼は言いました。
 「そうなると、少し時間がかかるかもしれませんよ」 私はそう答えて、彼女とコンタクトが取れれば、すぐにでも依頼人に報告すると告げたのでした。
 翌日、私は彼女に連絡をして、依頼人による嫌がらせは起きていないかを確認しました。
 「今のところは何も起こっていません。きっと、彼は私の居所が分かっても、佐藤さんとこに任せてあるので、今は安心しているんだと思います」 
そして、こう続けたのです。 「一応、私も自宅を出入りする時は気をつけるようにしているんですけど…」 私もその方がいいと思いました。というのも、私達が彼女の自宅への嫌がらせを止めることができたとしても、依頼人(39歳)が新しい勤務先まで知ってしまうと、また何を考えるか分からないと感じたからです。
 「帰宅時よりも、仕事に行かれる時を注意された方がいいですよ。今も車で出勤されているのですか? そしたら、尾行されているかどうかの確認はこうされたらいいでしょう」
 私は彼女に、依頼人が尾けているかどうかの確認の方法と、万が一尾けられていた場合の巻き方のアドバイスをしたのでした。
 そういう風に手を打っておいて、私は依頼人への報告書を作成しました。
 「彼女と何度もコンタクトを取ろうとしましたが、なかなか連絡が取れませんでした。あまりにもご連絡が取れないので、スタッフが住所地へ出向くと、彼女の母親が管理人や知人をすぐに呼ばれて、かなり厳しく追求されました。『不審人物』として警察も呼ばれそうになりましたが、事情をお話し、また当社スタッフが女性であったため、事が大きくならずに済み、最終的に母親のお話を聞くことができました」
 「母親はこんな風におっしゃっておられました。
 『お宅に詳しい理由を言う訳にはいきませんが、娘は病院の患者さんと個人的なトラブルがあって、それが原因で病院も退職しました。事情を知って、親としては聞きづてならないことでしたので、私が昔から懇意にしている警察関係の人に預けました。本人は今、その人の保護下にあります。二度とこんなことはあってはならないことですので、監視をしてもらっているのです。学生時代や職場の同僚の方とは連絡を断たせています』……」 
 私の報告書はさらに続きます。
「『娘は私の知り合いの警察関係の人に預けてあります。本人は今、その人の保護下にあって、二度とこんなことが起こらないように、監視してもらっています。学生時代の友人や職場の同僚との連絡は断たせています』」
 「『私には娘と連絡を取りたいと言っておられる方はどなたのことかだいたい分かります。娘が病院を辞めざるを得ない原因を作った人だと思います。もし、その人であれば、今、私がお話ししたことの意味はお分かりのはずです。その人に伝えてほしいのですが、そっとしておいてくれるのなら、これ以上何も言いませんが、また今度そういうことがあれば、親としては警察に行って事件にする腹を決めています。その辺のことは警察と弁護士ともよく相談しました。本人のためを思ったら、これ以上つきまとわないで、そっとしておいて下さい』」
 そして、
 「当社としましても、彼女のお母様の話で、だいたいの事情は察することができました。お母様のご要望どおり、そっとしておいてあげるのが、ご本人のためと思われます」と付け加えて、依頼人に送ったのでした。
 そうしておいて、彼女とお母さんに依頼人に送った報告書内容を伝えました。 「こういう形で報告書を送ってありますので、ここ二週間程は気をつけておいて下さい。これで、本人があなたに付きまとうのを断念すれば動きはないでしょうが、まだ諦めないのなら二週間くらいの間に必ず動きを見せると思います。その様子を見た上で、次の方策を考えましょう」
 私は言いました。
 「それでは、その二週間は自宅に戻らず、よそに行っている方がいいでしょうか?」
 彼女は尋ねました。 「そうですねぇ。どこか泊まれる所があれば、それにこしたことはありません。それと、もし動きがあれば、対応していただかねばならないのはお母さんですから、その辺のところをくれぐれもよろしくお伝え下さい」 そう私は答えました。彼女は大事を取って、しばらくは叔父さんの家に寝泊りすると言いました。
 「もし、依頼人に動きがあれば、対応していただかねばならないのはお母さんですから、その辺のところをくれぐれもよろしくお伝え下さい」
 私が彼女にそう言うと、早速、電話口にお母さんが出られてました。
 「今が娘の正念場ですから、佐藤がおっしゃられるようにさせていただくつもりです」
 二週間がたちました。
 依頼人から当社へは何の音さたもありませんでした。私たちにはあれだけうそを言っていたわけですから、具合が悪くて連絡どころか質問すらできないのだろうと思えました。
 しかし、やはり気になって、私は再び彼女に家に連絡を入れました。
 「ずっと気を付けていましたが、お陰さまで全く動きはありません。佐藤さんが書いて下さった報告書が功を奏しているように思います」
 お母さんの話でした。
 私は確認のためによほど依頼人に連絡を入れ、状況を探ってみようかとも考えましたが、かえってやぶへびになってもいけないと思い、このままもう少し様子を見ることにしました。
 「それでは、もし何らかの動きがあれば、すぐにご相談下さい」
 私はそう言って、電話を切ったのでした。
 ひと月がたったころ、彼女とお母さんが連れ立って当社にやってきました。
 「このたびは本当にお世話になりました。あれから、娘の周りには変な動きは何ひとつありません。おそらくあれで観念してあきらめてくれたんだろうと思います。これもすべて佐藤さんとこのような調査会社がかかわってくれたおかげです」
 お母さんはただただ私にお礼をおっしゃるのでした。彼女はまたこうも言いました。
 「いい勉強をさせてもらったつもりで、今後は男の人を見る目を養っていきたいと思っています。
 こうして、この件は一件落着したのでした。

<終>

依頼の理由は嘘で…(1) | 秘密のあっ子ちゃん(136)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

 「ストーカー」という言葉があります。最近テレビで放映されて以降、我が社もマスコミの取材の折によく質問されます。
「『思い出の人を探したい』と言って、ストーカーみたいなことにはなりませんか?」
 海外では、つけ狙われ追い回された女性が精神的な被害を蒙ったり、車などを傷つけたりするため、問題がクローズアップされて、「ストーカー法」なるものも作る動きがあるとか…。しかし、翻かって我が社へ依頼されてくる人について考えてみると、ストーカーに変身することはまずないと私は断言できます。
 というのも、この問題は全て依頼の動機に関わるからです。「思い出の人を探したい」と言って来られる依頼人のほとんどは、相手が「元気かどうか」「幸せかどうか」と気づかって来られる、いわば「善意の人探し」です。
 同時に、私達も「何故、探すのか」という動機を必ず聞きます。嘘を話されていると、辻褄が合わないとか、ニュアンスがおかしいとか、「そんなことで、お金を出してまで探す?」と疑問が湧いてきます。ですから、当然突っ込んで聞くことになります。すると、依頼者の方がしどろもどろになってくるのです。
 例えば、金融会社が居所不明になっている債務者を安く調査させようと、「中学校の頃の同級生」と言ってくることもありました。しかし、話を聞いていると、本籍やつい一、二年前の勤務先など、とうてい「中学校のころの同級生」では知り得ないことを知りすぎていて、その嘘がすぐに分ってしまったことがあります。 あるいは、追いかけ回そうとか何かの仕返しをしようと考えて依頼されてきても、依頼人の「気がかりでしかたがない」という想いの発露がないため、二、三十分も話していれば、「この動機は嘘だな」と結構分ってくるものです。
 しかし、今まで一例だけ、当の相手を探し当てるまで、依頼人の嘘が分らなかったケースがありました。
 その依頼人は三十九才の男性でした。三年前、彼は腎臓を患い、ひと月程入院した経験を持っています。 彼が探してほしいという人は、その時に大変お世話になった看護婦さんでした。その人は二十七才で、仕事振りはなかなかてきぱきとしており、患者への対応もとても親切だったと言います。
 彼は退院直後にお礼の品を送りたいと思い、病院に問い合わせて、この看護婦さんの住所を教えてもらっています。その後、何回か年賀状などのやりとりをしたということでしたが、今年の正月には「宛名不明」で葉書きが戻ってきたとのことでした。病院に問い合わせると、彼女は既に退職していて、その後の勤務先などは分からなかったのでした。
 依頼人は私達にこう言いました。
 「今、どうされているのか、気になって…」
 こんな話なら、よくあるケースです。何年も経ってから、入院中にお世話になった看護婦さんに「一言お礼が言いたい」とか、「実は憧れていたので、再会したい」というケースは結構多いのです。ですから、この依頼もそうしたケースの一つとして、私達は考えていたのでした。
 もともと、依頼人は彼女のつい最近までの住所を知っていましたので、私達はまっ先に近所への聞き込みに入りました。彼女は依頼人が「非常に親切な看護婦さん」と言っていたことが頷ける程、近所でもとても評判のいい人でした。この近所の聞き込みで、「懇意にしていた」という人からこんな情報を得ることができました。
 「あの人は本当にいいお嬢さんですよ。お父さんとお母さんは離婚されたんですけど、そんな暗い影は一切なくてネ。妹さんが嫁がれてからは、彼女がお母さんの面倒を見ておられたみたいですよ。もちろん、お母さんもパートに出て働いておられましたけど…」
 「それが、半年くらい前に急に越されましてネ。何でも、妹さんの嫁ぎ先のそばだって言っておられましたけど…。あんまり急だったんで、私達もびっくりしたんです」
 この話から、私達は妹さんの嫁ぎ先の近辺を丹念に当たって、彼女の現住所を判明させることができたのでした。
 彼女の居所は判明してきました。
 その報告をして一週間が経った頃、依頼人から、今度は彼女にコンタクトを取ってほしいという希望が入ってきました。
 私達はすぐさま彼女に連絡を入れました。そして、その時の彼女とのやりとりで、なんと、依頼人が彼女を探したいという動機について嘘を言っていたことが発覚したのでした。
 「実は、お宅様が以前お勤めされていた病院で、大変お世話になったという患者さんが、あなたが今、どうされているのか気になさって、お探しだったんです」と私。
 「……。」
 反応がありません。
 私は変だなと思いました。というのも、普通こう言った場合、「まぁ!どなたですの?」とか、「いやぁ、そんな気にしていただいて有り難いです」というように、ほとんどが驚きと喜びの反応を示されるからです。 「ひょっとして、私を探しているというのは○○さんではないですか?」
 「ええ。よくお分かりですね」
 彼女の方から依頼人の名前が出ました。でも、その声は暗く沈んだものでした。 「…。その人のことは、私、困っているんです」
 彼女は「お宅を信用して話しますけど」と前置きして、意外な話を始めました。 「確かに、彼は私が勤務していた病院の患者さんでした。初めは患者と看護婦という間柄だったんですけれど、彼が退院してから、私達、つき合うようになったんです。ところが、彼はとてもやきもち焼きで、仕事として患者さんに接していても、あれこれと疑い、私を責めることが多くなってきたんです」
 「それがあまりにもひどくなってきて、私も嫌気がさしてきたので、別れ話を出したんです。そしたら、彼、病院まで乗り込んできて、自分の治療の時に『私がミスした』と喚き散らしたり、仕舞いには『俺から離れようとしたら、病院も勤められへんようにしてやるからな!』と脅したりするようになったんです」
 私はびっくりしました。 「まぁ!最初に依頼されてきた時の話と随分違いますよ」
 「そうでしょうね。あの人は外づらはとてもいい人ですから。今となれば、そもそも、私に男の人を見る目がなかったと思っていますが…」
 彼女の話は続きました。
  「彼が病院に乗り込んで来て、私が治療ミスしたと喚き散らした時は、婦長さんが対応して下さったんですけれど、そんな事実は全くありませんし、何度も乗り込んで来ますので、病院側も彼の対応に手を焼いていたんです。それで、婦長さんが心配して、私に事情を聞かれたんです」
 「彼はそんなに荒っぽい人なんですか?」
 私は思わず話の途中で口を挟んで尋ねました。
 「いえ、日頃はおとなしくて、温厚、誠実な人柄に見える人です。病院へ乗り込んで来るようになったのは、私が別れ話を出してからです」
 「そうでしょうねぇ。依頼に来られた時も、そんなことをするような人には見えませんでしたもの。で、婦長さんは何ておっしゃったんですか?」
「初めは私も病院に迷惑をかけたくなかったので、自分で何とかしようと思い、『何でもありません』とか『大丈夫です』とか答えていたんです。その話で私が彼に会うと、しばらくはいいんですが、私が避け出すと、また病院へやって来るんです」
 聞く限りにおいては、彼女は依頼人の振る舞いには大変な想いをしたようです。
 依頼人が依頼時に話していた内容と彼女の話があまりにも食い違っているので、私は驚いてしまいました。
 「で、その後の対応はどうされたのですか?」
 「彼が病院へやって来ては喚き散らすことがますますエスカレートしてきますし、私もこれ以上は病院に迷惑をかけたくなかったんで、婦長さんに事情を全て話して、病院を辞めたんです。」
 「まぁ!そうだったんですか」
私はさらに驚いてしまいました。彼女は依頼人のせいで、病院を辞めるはめになっていたのでした。
 彼女は続けました。
 「婦長さんも理事長さんも私の話をよく聞いて下さって、『そんな事になっているなんて…。一人で抱えて大変だったでしょう?』と言って下さったんです。私、嬉しくて…。今、勤めている病院も理事長さんが紹介して下さったんです。だから、彼が病院に問い合わせても、私の居所は一切言わなかったはずです。今も時々、心配して電話を下さったりしていますから…。」 彼女の話はそれだけではありませんでした。彼女が依頼人によって迷惑を被ったのは、勤め先を変わらずを得なかっただけではなかったのです。
 依頼人が彼女の次の勤め先を問い合わせても、病院側は言わなかったはずです。婦長さんも理事長さんも、依頼人のしつこさから彼女をかばっていたのでした。
 彼女はこうも話してくれました。
 「私、車で通勤していたんですけど、自宅のマンションの駐車場に停めてあった車を夜中に傷つけられたり、タイヤを四本ともパンクさせられたりしたことがあるんです」
 「まぁ!そんなことまで!?」
 私はまたまた驚いてしまいました。
 「犯人が彼だという証拠は何もありませんが、そんなことを連続でするのは彼しかないと思ってます。その時は警察にも届けましたが、現行犯でなければどうしようもないと言われまして…。
タイヤをやられた時、ちょうど妹が遊びに来ていて、『お姉ちゃん!これなに!?』って言われるし、妊娠中の妹にあまり心配もかけたくありませんでしたので、その時は適当にごまかしておいたんですが…」
 「で、その頃の彼の対応はどうだったのですか?」
 「私が彼に文句を言うために会うと、機嫌がいいのです」
 私は、彼女がほとほと困り果てていた様子がありありと想像できました。
 彼女に別れ話を引っ込めさせるために、病院だけでなく、自宅の車まで嫌がらせをしてくる依頼人には、彼女もほとほと困り果てていたようです。 「妊娠中の妹には心配かけたくありませんでしたので何も言いませんでしたが、もうこうなると、一人ではどう対処していいのか分からず、母に相談したんです。母には『そんな男にひっかかって!』と随分叱られましたけれど、結局、家を替わろうということになったんです。その時まで住んでいたマンションは賃貸だったんですが、いずれ分譲のマンションを購入するつもりで、貯金もしていましたし…。ちょうど、婦長さんや理事長さんの計らいで病院も代わる話も出ていましたので、この際、勤め先も自宅も変えて、彼とは一切縁を切ろうと思ったんです」 彼女は私にそう言いました。
 「そうでしたか。彼は私達にはあなたを探したい動機について嘘を言ってたんですねぇ。そういうことでしたら、このままではまずいですねぇ」
 私は今後の彼女の身の上を心配していました。
 「そうなんです。今の住居は購入したものですから、そうそう引っ越せませんし…」
 彼女も困っていました。

<続>

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