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満州開拓団時代に…(1)| 秘密のあっ子ちゃん(150)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

六十歳代以上の方の「思い出の人探し」は、やはりどうしても戦争がからんだものが多くなります。南方で共に戦った戦友の生死。軍需工場で一緒だった同僚の消息。疎開先でお世話になった人の音信。などなど・・・
どのケースにもあの時代がもたらした重い人生があり、私はそんな依頼を受ける度に心を打たれます。
今回はそうしたケースの中から一つ、満州におられた方のお話をします。
依頼人は現在六十五歳の男性でした。彼の家族は両親と姉・兄・妹二人の七人で、昭和十一年、出身地の長野瞑から「満蒙開拓団」として満州へ入植したのだそうです。
村の半分ほどが貧しい長野での暮らしに見切りをつけて、満州の新しい大地へ希望に燃えて入植したのにもかかわらず、そこでの生活は悪条件下での開墾と寒さで、「それは厳しかった」と依頼人は話してくれました。
その話は電話を通してのものでしたが、あの時代のことなど全く知らない私にも、広大な満州の風景や地平線に沈む大きな夕陽や、その中で一生懸命働いている家族の姿が見えるようでした。

昭和十一年「瀾蒙開拓団」として六人の家族と共に満州(現在の中国東北部)へ入植した依頼人(六五)。 このおじさんの当時の苦労話に、「依頼」だということもすっかり忘れて聞き入ってしまった私ですが、彼女が登場してくると、やはりそこは職業柄と言いますか、「手掛かりになるのはどれだ?」という思いで話を聞き続けました。おじさんの家族が満州へ入植したのは、当時の政府の「二十力年百万戸計画」に基づいて、村長以下、村の半分が渡満したこと
によるそうなのですが、その中に彼女の家族も入っていました。彼女の家族は両親と息子二人、娘一人、そして末亡人になった父親の妹の六人で、当時五歳だった末娘が、今回おじさんが探してほしいという人なのです。異国での厳しい生活の中で、人々は助け合わなければ生きてはいけません。同じ村の出身ということだけではなく、そうした環境の中で両家族は内地にいたころよりも、より一層親しくなったそうです。
そんな中、日中戦争が起こり、両家の兄達も次々と「満州開拓義勇隊」に志願したり、現地徴用されたりしていき、彼は自分の二人の妹と共に、三つ違いの彼女の面倒をよくみたのだそうです。

昭和十一年、共に「満蒙開拓団」として満州(現中国東北部)に入植した依頼人と彼女の家族。二人は幼なじみとして、仲良く昭和二十年八月まで満州で暮らしたそうです。おじさんは十七歳、彼女は十四歳になっていました。
「苦しかったあのころ彼女と遊んだ記憶は唯一楽しい思い出です」と、おじさんは言っています。開墾の仕事は粗変わらず厳しく、彼女のお兄さんが戦死するということもあったのだそうです。
そしてあの昭和二十年八月十五日。おじさんは、その前後のことはあまり詳しくしゃべりたくないようでした。が、話の口ぶりから「すごい混乱だった」ことが、私にも理解できました。「十三歳だった上の妹は、そのころ死にました。十歳だった下の妹が残習孤児になることもなく、よくも無事に日本へ帰れたものだとしみじみ思います」それを聞いて私は、もうその当時のことを詳しく聞く気にはなれませんでした。おじさんの家族と彼女の家族は途中までは一緒に逃げてきたそうなのですが、長春近くで混乱に巻き込まれ、離ればなれになってしまったそうです。そしてその後の彼女と、彼女の家族の消息が全くわからないのだと言います。

<続>

突然彼女の連絡が途絶えて(2)| 秘密のあっ子ちゃん(149)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

おもしろ半分でかけたダイヤルQ2のパーティーライン。そこで知り合ったある一人の女性とやりとりした電話の数、十数回。

当然、依頼人の彼(二八)は彼女に一度会ってみたくなり、「今度会おう」と何度も誘いました。

しかし、その度に彼女は「その日は、仕事の関係で東京へ行くので」とか、「父が病気になり、看病しなければならないから」とか、あれこれ理由をつけては会おうとしなかったと言います。

私はどうも”くさい”と思い、依頼人に

「それは、彼女があなたに会えないような嘘を言ってるからじゃないのですか?」と聞く。

すると彼は、「いや、彼女はそんな嘘を言う子じゃありません」と真顔で怒って否定するのです。

私は、内心『そんなムキにならなくても…』と思いながら、再び聞きました。「そうですか。それで彼女はどんなタイプの人なのですか?」

彼の話によると、彼女は二十四歳で可愛い声の持ち主だそうです。そして、オーストラリア人と日本人のハーフで、ある週刊誌のミス・キャンパスにも選ばれたこともあり、現在はアルバイトで大阪空港の国際線のインフォメーションをしているとのことでした。

彼の頭の中では、彼女は”宮沢りえ”のような素晴らしく可愛い子と思い描いているようでした。

私は、彼の思い入れに水をさすようで悪い気もしましたが、そこは心を鬼にして言いました。

「どの内容も話ができすぎて、よけい嘘臭いですね。だいいち、そんな子がこの辺にウロウロしているとも思われませんけど…」

(しまった!最後の言葉が一言多かった)

と思ってもあとの祭り。彼はますますムキになって、「彼女は絶対にそんな嘘をつく子ではありません!」と言い返す。

私は、彼への「説得」はこれ以上無理だと判断し、話の続きを促したのでした。彼女の誕生日にプレゼントを送ろうと住所を聞くと「今、お姉さん夫婦の所に屈候している」と、その住所を教えてくれました。プレゼントを送って、一週間ほどしてから彼女から電話が入り、「お姉さん夫婦が引っ越す。自分も一人でアパートを借りる」と言ってきたのです。

それが最後の電話でした。一度、その住所を訪ねましたが、「そんな子はいない」と。

そして、彼はこうも言いました。

「その後、別の女性から交際を申し込まれもしましたし、親が『結婚しろ』とうるさくて見合いの話を進めたりもしているのですが、彼女のことが気になってまったくその気にならないのです。とにかく、彼女に一度会ってこの目で確かめないことには、僕の中で何も始まらない」

私は、「彼女の話したことが嘘であれ、真実であれ、とにかく彼女を探し出して一度会わせるのが、彼の心の整理にとって一番の薬だ」と思いました。

早速、私たちは「彼女」を捜し始めました。ところがと言うか、やはりと言うか、彼女がミス・キャンパスになったという週刊誌に問い合わせても、「ここ何年もそんな企画はしたことがない」という返答です。

また、大阪空港では「国際線のアナウンスにバイトの人は、使っていません」という回答なのです。私たちは無駄を覚悟で彼女の”お姉さん夫婦のマンション”にも聞き込みに入りました。 すると何と、そのマンションの部屋の住人は、最近入れ替わったどころか、

何年も同じ夫婦が住んでいるというではないですか!

より慎重に聞き込みに入った結果、「彼女」はその部屋の住人の三十六歳の人妻だったのです。

「どこがハーフやねん!」「なにが二十四歳やねん!」と私はあきれました。

これではどんなことがあっても彼には会えない訳です。

私は「彼女」を信じ切っている彼にこの事実を伝えれば、どんなに落胆するだろうかと恐る恐る報告しました。

しかし、彼は報告書を見るなり、「これで見合いする気になりました!」と意外にさばさばと言ったものでした。

とにもかくにも、『一件落着』というところです。

<終>

突然彼女の連絡が途絶えて(1)| 秘密のあっ子ちゃん(148)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

「突然連絡が取れなくなった」と飛び込んでこられる若い人たちの「現在進行形」の依頼の中には、どう見ても「探しても無駄だ」と思われるケースかいくつもあります。つい最近も二十三歳の男性がやってきて、「一年間つき合った彼女が、突然アパートを引き払ってしまった。何とかもう一度連絡を取りたい」と言うのです。

すぐに私は『それって、ふられているんじゃないの?』と思ったのですが、初めからそんな風につき放してしまっては、あまりにも彼がかわいそう。そういう訳でじっくりと話を聞き始めました。

しかし、聞けば聞くほど、「これは、探したところで彼女の気持ちは戻ってこない」と判断せざるを得ない。『ちょっと本人にはきついかな』とも思いましたが、それこそ「本人のため」とばかり、私は、「お金がもったいないと思うから、調査はやめといた方がいいと思うよ」と言いました。

こういう場合、ほとんどの依頼人は、その事態が示す本当の意味については自覚があるようです。でも第三者と違う所は、「わずかな希望を捨てきれない」という点なのです。

誰が聞いても明らかに「ふられている」という依頼には、とりあえず「探しても無駄だ」とはっきり伝えます。

しかし、たいていの場合、私に指摘されるまでもなく、『認めたくない現実』として、依頼人自身は既にうすうす分かっているようです。

「例え、そうであったとしても、このままでは自分の気持ちの整理ができない。イヤならイヤとはっきり彼女の口から聞かないことには、次に進めない」

ということで依頼を受けることになるのですが、そのあと彼が当社から引きあげるまでの時間のほとんどは「人生相談」ということになってしまいます。しかし、そういうケースとは異なり、なかにはら忠告しても『愛』があると信じて疑わず、当社が報告書を示すまで、まるっきり「騙されている」人もいます。

それは、女性より男性の方がはるかに多い。

やっぱり、男性の方が純情なんだなぁ…と思わざるを得ません。逆に言えば、「よくまぁ、こんなミエミエの嘘をつくわ」とあきれる女性がいるのです。

依頼人は彼女のことをとことん信じて疑わず、しかし、私から見れば「よくまぁこんな嘘がつけるもんだ」とあきれる女性がいます。

今回は、そんな純朴な方々に注意を喚起してもらうためにも、あえてそのお話をすることにします。

それはもう三年も前のことです。

人探しの調査の依頼に来られた男性は当時二十八歳で、見るからにスポーツマンタイプのさわやかな印象を受ける好青年でした。

彼の話はこうでした。

「三ヵ月くらい前、友人三人とおもしろ半分でダイヤルQ2のパーティーラインに電話したんです。そこでつながった一人の女性と意気投合し、話も盛り上がりました。その時、電話番号を彼女に教えたので、それからは彼女の方からちょくちょく電話が入るようになったんです」

十数回も彼女と電話で話していれば、『一度彼女に会ってみたい』と思うのは当然のことで、彼は彼女を何回か誘っています。 しかし、その度に彼女はなにやかやと理由をつけては会おうとしなかった、といいます。私は、そこまでの話を聞いただけで、どうも『くさい』と思いました。

<続く>

名前の分からない彼女(2)| 秘密のあっ子ちゃん(147)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

「見つかるでしょうか?」と彼は聞く。

しかし、探偵社としてはこの質問が一番困ります。

依頼者としてはそれが一番の関心事だということは、私としてもじゅうじゅう承知なのですが、調査というのはやってみないと分からない。

材料が少ないから調査が判明しないということでもなく、逆に多いからといって絶対に見つかるとも限らないのです。それこそケースバイケースなのであって、調査に入る前の予測などまるで無意味です。最善の方策は、「判明に向けてあらゆる努力をする」ということしかありません。

ともあれ、私たちは「せめてもう一度だけでも会いたい」という彼の気持ちを受けて、東北新幹線で出会った彼女を捜すことになりました。しかし、あまりにも手掛かりが少ない。そもそも、依頼人は彼女の名前すら聞いていないのです。名前が分かっていないということは、調査するにはかなり厳しい事態です。

分かっていることと言えば、彼女は高校を卒業したばかりで、サッカー部のマネージャーをしていた。そして、仙台駅から乗車してきたということだけ。

そこで私たちは真っ先に宮城県下の高校をピックアップしていきました。すると公立・私立合わせて四十八市町に百十八校もの高校があったのです。

その百十八校すべてに対して、サッカー部があるか否か、昨年度のマネージャーは女生徒だったかどうかをしらみつぶしに当たっていきました。

こうして、彼女の高校をかなり絞り込めていけたのですが、ここでまた障害が立ち塞がってきました。

例のごとく『プライバシー保護のため』という理由でなかなか、その女子マネジャーの連絡先を教えてくれないのです。何度も学校に足を運び頼み込んだ訳ですが、学校側が「どうしても教えられない」という人については、やむなく先方の方から当社に連絡を入れてもらうようにしました。しかし、これは”賭け”と言えるもので、学校側がちゃんと相手先に打診してくれたとしても、先方の方で『なんのこっちゃ。なんで私から連絡せなあかんねん』(と大阪弁では言うわけはありませんが…)とつむじを曲げられては、この調査はおしまいです。

三日経ち、一週間が経ちました。それまでに調べることのできた女子マネージャーの中には、該当者はいない旨の確認は既にとれていました。 望みは連絡待ちのあと三人だけです。

八日目の朝、電話が入ってきました。それは頼み込んでおいた学校の先生でした。

「本人に連絡をとりましたところ、お宅がおっしゃっている日には東京には行ってないということです。人違いだと思いますよ」

「そうですか。わざわざご丁寧にありがとうございました」

残るは二人です。

『何としても連絡を入れてほしい!』そう願わずにはいられませんでした。

そして、ついに十日目の夕方、二人のうち一人から電話がありました。

「わざわざ電話までしていただいて、つかぬことをお伺いして申し訳ないのですが、今年三月六日の土曜日の午後四時ごろ、新幹線に乗られませんでしたでしょ

うか?」と私が聞く。

「えッ?」と彼女。

「何かその日は、就職後に下宿する東京の親類の家へ行かれるとかで…」

「あーあーっ、思い出しました。乗りました!」

思わず『やった!』と叫びそうになりました。

 

連絡待ちのサッカー部女子マネージャー二人のうち、一人からやっと電話が入りました。ついに彼女こそが依頼人の探している東北新幹線車内での「一目惚れの人」だということが判明したのです。

「あぁ、思い出しました。その日、新幹線には乗りましたが、それが何か?」と不審がる彼女。

そりゃあ、いぶかるのは当然のことです。

「実はあの時、あなたの隣に座っていて、仙台から上野まで話をされた男の人を覚えていますか?

「ええ、覚えています」

こうなると話はうんとしやすくなります。

私が彼女と別れてからの彼の気持ちやこれまでの経過を説明すると、最初は少し照れていた彼女も、彼に対してまんざらでもない様子で、一度会うことをOKしてくれたのでした。

約束のデートの日、彼がめかしこんで出掛けて行ったかどうかは知りません。はたまた、その後二人が交際を始めたのかどうかも、彼からの連絡がは入っていない今、知る由もありません。

ですが、あの電話の感触では何とかうまくやっているんじゃないかなぁ、と思っています。

<終>

名前の分からない彼女(1)| 秘密のあっ子ちゃん(146)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

当社に人探しの調査を依頼されてこられる方のなかでも、二十歳代の人たちは、前回お話ししました中年の方とは異なり、男性・女性半々の割合で依頼しにこられます。

それも『思い出の人探し』ということよりも、「ひと目ぼれの人を探してほしい」とか「三回デートしたけれど、突然連絡がとれなくなった」という”現在進行形”が多いようです。

今年の四月にもこんな依頼がありました。依頼人は、東京在住の二十四歳の営業マン。三月初旬、彼は盛岡からの出張の帰り、東北新幹線に乗車していたそうです。仙台駅で若い女性が乗り込み、空いていた彼の隣の席に座りました。ふとしたことから二人の会話が始まり、上野駅へ着くまでの二時間あまり、話が大いに弾んだそうです。

二人は新幹線を降りると「じゃあ、お元気で」と行きずりの人に交わすごく普通の挨拶をして別れました。

ところが、それから三日ほどしてから、彼はどうにも彼女のことが気になって

仕方なくなってしまったのです。

こういうケースは結構よくあります。その時は何とも思わなかったのに、あとになって気になって仕方ないということが、です。

人というものは、「その時は何とも思わなかったのに、しばらくしてその人のことが気になって仕方ない」ということが多々あるようです。当社にもこうしたケースがかなり持ち込まれます。

が、手掛かりの少ない場合が多く、『もっときちんと聞いておけばいいのに』と思ったりするものです。(マ、そういうことがあるからウチの商売も成り立つのだけれども…)

今回取り上げる男性(24)の場合も、その時ばかりはこれといった感情を相手に抱いてなかったものですから、彼女の名前すら聞いてなかったのです。

仙台から上野までの新幹線の車中で二時間も、ずっと話をしていながらです。 分かっていることといえば、彼女は高校三年生でサッカー部のマネージャーを務め、卒業したら東京での就職が決まっている。その日は就職後の下宿先の親せきの家へ挨拶に向かう途中だ、ということ。それだけなのです。

調査するにはあまりにもあいまいな材料ばかり。

彼は彼で、自分なりに調べようと努力したそうです。しかし、この漠然とした材料ではどこから手をつけたらいいか分からず「困り切った」らしいのです。

人は『ひょっとすれば二度と会えないかも知れない』と思うと、余計思いが募るようです。会って三日も経ってから急に気になり出す。探し当てるにも目ぼしい手掛かりどころか、名前すら聞いていない。

「どう探せばいいのか…。分からない」

時が経てば経つほどますます『もう一度会いたい』という思いが強くなっていくる。仕事中も彼女のことが頭から離れなくなる。

ほとほと困り果てていた時、たまたま当社のことを知って急いで電話してきたという具合なのです。

<続く>

夫の家出の原因は・・・(3) | 秘密のあっ子ちゃん(145)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

大手証券会社に勤めるご主人の浮気が発覚すると、彼女はすぐ夫に離婚を申し入れました。

ご主人は初めのうちは言い訳をして離婚には同意しなかった、と言います。

しかし、彼女はあのおとなしさの中のどこにそんなエネルギーがあるのかと思われるほど決然とした態度をとったようです。そしてついに、「裁判も辞さない」という彼女の覚悟を知ったご主人が離婚届けにサインをしました。

その話し合いもついて三カ月も過ぎた今年の夏の盛りのこと。「近くに来たから」と来社した彼女を見て私はびっくりしました。まるで別人のようだったのです。私が彼女に会うのは、調査報告をして以来、初めてでした。

その後の経過もその時に聞いたものです。そこにいるのは、無表情の青白い顔をじっとうつむけていた彼女ではありませんでした。表情も豊かで、目も生き生きとして、こちらから質問もしないのにびっくりするほどよくしゃべります。また、よく笑うのです。私は思いました。彼女はご主人の浮気を前から分かっていたのだ、と。そして、それがよほどつらく、悲しかったのだろうと。

<終>

 

夫の家出の原因は・・・(2) | 秘密のあっ子ちゃん(144)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

『今日こそ会社を辞めてくる』と言って家を出たまま、一か月以上も自宅に戻らないご主人。そのご主人の件で調査依頼に来た若妻ではありましたが、彼女は全く口を開きませんでした。ただ、無表情にうつむいているだけ。

彼女に代わってもっぱら話を進めたのは付き添っていた父親。何と、ご主人は家にこそ帰らないものの、勤め先の大手証券会社にはちゃんと出勤しているというではないですか。

私はすかさず、「それでしたら奥さんが会社に出向かれて、ご主人に帰ってくるように直接、おっしゃればいいことだと思いますよ」と進言しました。

「ええ、昨年の大納会の日に出て行ったまま、正月も家に戻って来なかったようですので、娘に電話を入れさせたんです。すると婿は『会社を辞められ

なかったから帰れない』と言い訳したらしい」とお父さん。

「奥さんは、ご主人が証券会社にお勤めであるのを反対なのですか?」

「いいえ」と、またお父さん。

「娘は会社がいやだとかグチをこぼしたことはありません。昨年の秋ぐらいから突然婿の方から言い始めたらしいんです」

「ウーン、話のつじつまが合いませんねぇ」

「そうなんです。それで『今どこで寝ているの?』と娘が聞きますと、『独

身寮で一つだけ空き部屋になっているところで寝泊まりしている』と言うらしいんです」

何でも寮の友達に見られると具合が悪いから、朝早く出て夜遅くまで時間をつ書ぶし、寮に帰ると電気もつけずにそのまま寝てる・・・と。

「家内や娘は婿の言葉を信用しているのですが、私はどこかおかしいと思います。佐藤さんはどうでしょう?」

「そりゃあ、そんなんまるで嘘ですワ」。私はポンと突き放しました。以前にもよく似た依頼があったので、私は確信をもって言いました。「それは女ができているのだと思います」

話をしている間、彼女は相変わらず青白い顔に何の感情も出さず、ただうつむいたまま。奥さんには申し訳ないのですがと断りながら、「ご主人がおっしゃっていることは全く嘘」「女がいる」と私が断言しても、奥さんは何の反応も示さない。こうした場合、妻というものは逆上したり興奮したりするものなのに…。

私は「こんな無表情でこれまでよく夫婦の会話が成り立っていたもんだ」といぶかしくさえ思うようになりました。

結局、その日の彼女はただの一言も発せずに帰って行きました。彼女の主人の尾行調査はさほど難しいものではありませんでした。 彼は退社するとまっすぐ「女」のマンションに入っていきました。あとで分かったことですが、そのご主人の「女」とは彼の学生時代の後輩で、結婚する前からのつきあいだったようです。

<続>

夫の家出の原因は・・・(1) | 秘密のあっ子ちゃん(143)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

『家出』といっても、妻が家を出る場合、その原因のほとんどは「夫に愛想がつきた」ということが多いようです。

子供に後髪を引かれる思いをしても「もう顔を見るのも耐えられない」という。とことん追い込まれた心理状態に至っての結果なのです。

家を出た時、別の男と一緒かどうかは根本原因とはあまり関係ありません。その男の存在は、家を出るための単なる『ふんぎり』にすぎず、「その男と暮らしたいから」と家を出るのではないようです。

たいていの場合、妻の側は随分以前からご主人にシグナルを送っているものです。しかし、ご主人の方はというと、それには全く気がつかない。それどころか、彼女の必死の話を聞く耳さえ持っていないのです。

そして、妻に家を出られて初めて気がつく。いや、まだ気はついていません。なぜ家を出たのか、その理由が全く分からず、ただ慌てているだけなのです。これは、定年退職した日に離婚をつきつけられる夫の図によく似ています。世のご主人方は、奥さんのシグナルにくれぐれもお気をつけ下さい。
思い詰めた上での妻の家出とは逆に、夫の家出の原因はいたって単純です。

それは『女ができた』場合がほとんど。家出した夫のほとんどが女の部屋に転がり込んでいるものです。

今年二月に依頼を受けたケースも、「主人が家を出て帰ってこない」というものでした。

依頼者は、結婚3年目という22歳の若妻。ご主人は26歳で、大手証券会社に勤務しています。

当社に調査依頼に来られたとき、彼女の父親も付き添ってきました。

彼女は、まだまだ幼い感じで、青白い顔をうつむけたままほとんど口を開きません。おとなしそうに見える女性でしたが、私は大変暗い印象を受けました。

話は彼女に代わってもっぱら父親が進めました。

ご主人の様子に変化が現れ始めたのは昨年の夏ごろ。帰宅が遅くなり、秋ごろには外泊する日も増えてきたのです。

「そのころは、娘も『仕事が忙しいのだろう』ぐらいに思っていたようだ。ところが秋ロになると、婿はいきなり『会社を辞めたい』と言い始めた」と。そして、昨年の大納会の日、「『今日こそ会社を辞めてくる』と言って出勤したっきり、戻ってこなくなった」というのです。

「主人が帰って来ない」と依頼に来られた22歳の若妻に代わって、事情を説明したのは付き添っていた父親でした。

昨年の大納会の日、『今日こそは会社を辞める』と言って出勤したまま、一か月も帰らない娘婿。父親は「娘も家内も『辞められんからよう帰って来れないんだ』と言っているのですが…」と。

そこで、私は彼女に聞きました。「ウーン、それはどうかなあ。ご主人は、そんなに気の弱い方なのですか?」

彼女は、無表情に下を向いたまま。代わりに父親が答える。

「いや、気は弱くありません。結構活発な方です」

「それじゃあ、損失補てんの問題に絡んで得意先とトラブルがあったとか、

バブルがはじけて業績が悪くて悩んでおられたということはありませんか?」

また、父親が答える。「いや、それも私が会社に探りを入れたのですが、そういうことは一切ないようです」

「で、ご主人は会社の方はどうなされているのですか?」

「それが、元気に出社して勤務はしっかりやっているようなのです」

(それだったら、会社に乗り込めばいいのに)

<続>

連れ去られた?娘(2) | 秘密のあっ子ちゃん(142)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

 

家出した一人娘の調査を依頼してきた父親の話はまだ続きました。実は今回が初めての家出ではなかったというのです。

「そうです。最初の時(二月の家出)は友達関係にいろいろ聞いて回って、三日目ぐらいに京都でアパートを借りている短大の友人の所に泊まっていることが分かったんです」

「じゃあ、彼と一緒だったわけではないんですネ」と私。

「当たり前ですよ。あの男と一緒だったらただでは済ませませんよ」

「!?・・・で、お嬢さんはすぐに戻ってこられたんですネ?」

「いや、言うことを聞かず、また逃げようとしたので『卒業したら結婚させ

てやる』『それまではちゃんと家から学校に通え』と言い含めて連れて帰ってきたんですワ」

「それではなぜ、また家を出られたんですか?」

「そんなん、連れて帰る口実に決まってますやろ」

(そら、だましたらあかんワ!)

私は半分以上、あきれ顔。「マ、お話を聞いてますと、この場合は仕方ないんじゃないですか?」。

ところが、このお父さん、私の話を全然聞いていない。

席を立ちながら「まあ、そういうことなんで、あとは家内とよく打ち合わせて下さい。私は、これからちょっと仕事がありますので失礼させてもらいます

けど、よろしゅう頼んます。あてにしてまっさかいに!」と言うやあたふたと

出て行ってしまったのです。

「なんちゅう親父や!」。ムッとしている私に、お母さんが初めて口を開き

ました。

「すみません、主人はご覧の通りの性格ですので、私が何を言っても聞く訳

がありません」

「しかし、ご主人があれでは娘さんを見つけられても同じ繰り返しだと思い

ますヨ」

「私もそう思います。ですから、このお話、主人に断っていただけませんでしょうか?」

「実は、私もお断りしようと思っていたのです」

「そうしていただけませんか。それで、主人には内緒で私が依頼したいんですが、それを受けてもらえないでしょうか?」「え!?」本当に突拍子もない夫婦だと思いましたが、お母さんの方がよほど娘さんの幸せを考えていました。「主人は当分娘の結婚は認めないでしょう。子は親の言うことを聞くものだと

思っていますから…。私もこの緑談は、初めは乗り気ではありませんでした。だけど、こうなった以上娘の生活が成り立つようにしてやりたいのです。こ

のまま放っといたら、大学生の彼と苦労するのは日に見えています」

さらに、「せめて私だけでも娘の味方になってやらねば。二人は私が隠

します。主人にはいずれその時期がきたら話します」と。

そういう話ならと、私はお母さんの依頼を受けることにしました。

しかし、時間的余裕はありません。あの父親に見つかる前に、こちらで彼女たちを”保護”しなければならなかったからです。

そもそも若い二人の「駆け落ち」というのは、たいていだれかにその居場所を告げているものです。

ところが、短大生の彼女は『大学を卒業すれば結婚を許す』と、父親にだまされて連れ戻された前回の「苦い経験」から、自分の友人のだれにも連絡をし

ていませんでした。

友人たちも今回ばかりはかなり心配していて、私に嘘を言っている素振りはありません。

一緒にいる彼のご両親はというと、彼女の父親に怒鳴り込まれて初めて事態を知り、困り果てていました。

そこで私たちは、二人がバイトで働いていそうな大学周辺を軒並み当たりました。マ、人間というのは、全く知らない土地には行きにくいものですから。

聞き込みを開始して一週間目、苦労のかいあってやっと彼女がバイトをしていたファーストフード店を見つけたのです

彼女は、お母さんが味方だと分かって大変喜んだのは言うまでもありません。

あれから半年、無論、父親はまだ二人の仲を許してはいません。

しかし、私は、一見おとなしそうだけれど芯の強いあのお母さんがついている限り、「二人はまず大丈夫だ」と確信しています。

<終>

連れ去られた?娘(1) | 秘密のあっ子ちゃん(141)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

今回から家出人捜索のお話をしたいと思います。

家出人や蒸発者の捜索は、家族からの依頼だけに限ってお受けしていますが、ひと口に家出人と言ってもさまざまな事情があります。

ある日突然、会社から戻らなくなった夫。

子供に置き手紙を残し、ほんの少しの身の回り品だけを持って消えた妻。

「定職につけ」と厳しく叱った翌日からどこへ行ったかわからないプータローの息子。

駆け落ちをして電話一本の連絡もない娘…などなど。

まずは、今年の春に家を飛び出した十九才の女性のお話から始めます。

最初に彼女の父親から電話があったのは、三月下旬でした。

彼女は一人娘で、両親と共に奈良市に住んでいました。父親は船場の老舗の店を経営し、彼女は京都のある短大へ自宅から通学していたのです。
それが父親の話による一と、卒業を目前に控えた三月三日、何の置き手紙もなく突然、「家を出た」というのです。
相談に来られたご両親はさすがに傭伴(しょうすい)されていました。
「ひとり娘が短大の卒業を目前に、何の置き手紙もなく家を出てしまった」こう言って飛び込んでこられたご両親はひどくやつれたように見えました。

特に母親の方は見るのも忍びがたいほどで、私は『ご両親の心痛はいかばかりか』と、相談の内容を詳しく聞き始めたのです。

ところが、ところがです。父親の話を聞いているうちにだんだんと腹が立ってきました。

つまり、こうでした。

「娘さんが家出される原因に何か心当たりはおありですか?」

「あります。男に連れ去られたんです」

(え!?なにそれ?)

「『連れ去られた』と言うと誘拐ですヨ」と私。

「いやいやそうじゃなくて、その男というのは娘の高校時代の同級生で、親に隠れて四年もつきおうとったらししいです。今年の正月、その男がウチにやってきて、『将来、結婚させてほしい』というもんで追い返してやったんです」「娘は親の言うことをよく聞く素直な子やったのに、それ以降というもの反抗ばかりするようになって、みんなあの男がそそのかしているんですワ」

 

一人娘が短大の卒業式を前に家出したと相談に来た父親の話をよくよく聞いてみると、それは「家出」ではなく「駆け落ち」でした。

・また、このお父さんがひどい。

「結婚を前提に交際したい」と筋を通してあいさつに来た娘の同級生を怒鳴って追い返す。しかも、それからというもの反抗的になったお嬢さんの態度もその男性がそそのかしたのだという。そして彼女が家を出た理由に至っては「男が娘をだまして連れ去った」と言い出す始末なのです。私はと言うと、この父親の話を聞いているうちに、もちろんムカムカしてきました。(これじゃあ、娘さんも家を出たくなるわなあ)(いまだにこんな父親がいるんやなあ)しまいにし、頭痛を通り越して「ウーム」と感心してしまいました。

しかし、まだ納得するには早かったのです。

「正月、あの男を追い返してからというもの、素直だった娘が反抗的になって二月の初めに最初の家出をしたんです」

「えっ!?家を出られたのは今回が初めてじゃないんですか?」

<続>

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