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満員電車の「押し込み」係(2) | 秘密のあっ子ちゃん(66)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

 彼女の定期券を拾い、駅長室で「念のため、自宅に連絡しておいてあげたいのですが」と申し入れた彼は、許されて定期券購入控を見せてもらい、彼女の自宅へ電話を入れました。応対に出た彼女の母は「わざわざ有難うございます」と感謝してくれました。
 そんなことがあって、結果的に彼は彼女の名前だけではなく、住所や電話番号まで知るところとなったのでした。
 翌日、彼女は定期券を駅長室まで受け取りにやってきました。彼はアルバイトとはいえ一応駅の職員である訳ですから、拾い主として彼の名前が彼女に伝わった訳ではありません。しかし、彼は彼女の名前が分かったことだけでも大満足していました。
彼女の姿が見えなくなって、彼は何度か自分で連絡をしてみようかと考えました。
しかし、以前定期券取得の件で連絡を入れた際、お母さんの対応から察するに躾の厳しい家庭のように見受けられ、男の声で電話すれば彼女に迷惑がかかるのではと、行動に移すことができませんでした。それに直接彼女に「一度会いたい」などと言える勇気はとてもありませんでした。
 そこで、「何とかならないだろうか」と、当社にやってきたのでした。
彼の希望は、できれば交際したいということでした。そのためには「一度会って、話がしたい」と彼は言いました。 
 「自分で連絡を取るのが一番いいのは分っていますが、最初の一歩がなかなか踏み出せません。一度直接会うことができれば、がんばって気持ちを伝えます。ダメなものなら、きっぱりと諦めます」
彼はそうつけ加えました。
 私達が連絡を取ると、彼女はこう言いました。
 「私は今、おつきあいをしている彼がいます。お気持ちは嬉しいですが、あっちもこっちもという訳にはいきません。ですから、申し訳ないですからお断りして下さい。それに電話も困ります」
彼女の言葉は丁寧でしたが、大変無愛想なものでした。つきあっている彼がいるということについては、断る口実なのか真実なのかは定かではありませんでしたが、脈がないのは明らかでした。 
 「ダメならきっぱりと諦める」と言っていた依頼人にとっても、これはやはりショックな結果であったようです。が、恋とは往々にしてこういうことがあるものです。これも人生経験の一つ、より一層逞しく成長していってほしいものだと、私は年の離れた弟を見る思いで彼が帰っていくのを見送りました。

<終>

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