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天涯孤独の私に祖母が?(1) | 秘密のあっ子ちゃん(67)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

 秋が始まろうとする頃やって来られた二人は、七十才前後の男性と四十代後半の女性でした。二人は父娘のように見えました。 女性は小柄で、いかにも「働き者」といった人で、少し垢抜けない印象を与えましたが、とても素直な心の持ち主のように思われました。男性の方は温厚な老紳士といった感じの人でした。「実は…」と口の端を切った女性の方が今回の依頼人でした。
 話を聞くにつれて、父娘と思われた二人はまるで赤の他人だということが分ってきました。彼女は複雑な出生と生いたちを持っていました。年配の男性は彼女の後見人だということでした。 
 彼女の話を聞いていると、この仕事を始めて八年間、幾度となく思った言葉がまた私の頭をかすめました。 

「これ程のドラマを持った人生があるのか…」

 彼女には父の記憶がまるでありません。母も五才の時に死亡し、面影は微かななものでした。これは彼女が物心がつく頃になって分かったことですが、母がまだ元気だった頃、彼女が父だと思っていた男性は実の父ではなく、母の内縁の夫だったのです。
 彼女(45才)の母が死亡した時、彼女は五才でした。母の内縁の夫は血の繋がってない幼い子を抱えて途方に暮れてしまいました。四十年前と言えば、今ほど保育所や託児所が完備していず、仕事を続けながらまだまだ手のかかる子供を男手一つで育てていくのは大変なことでした。
 彼は役所に相談に行きました。職員の勧めで、彼女を福祉施設に預ける手続きを済ませると、彼はどこかへ消えてしまいました。
 彼女は施設で義務教育が修了する十五の歳まで育ちました。彼女は天涯孤独のみなし子と思いきり、中学卒業後は進学を断念して就職すると決めていました。彼女はある食料品店の住み込み店員として働き始めました。
 彼女の身元引き受け人となり、その後三十年にわたって後見役を務めてくれたのが、その食料品店の主人で、彼女と同行してきた老紳士だったのです。
 この主人夫婦には子供がいませんでした。陰日向なく、毎日朝早くから夜遅くまで働く彼女を、夫婦は我が子のように可愛がりました。
 三年前、役所から彼女宛に一通の書類が届きました。それに記されていた内容は、孤児だと思っていた彼女にとって驚愕すべきものだったのです。
それは、「祖母が死亡したため、遺産分与を受け取りに来られたし」という通知だったのです。みなし子として育ち、天涯孤独だと思い込んでいた彼女は、祖母がつい最近まで生存していたなどとはまるで知りませんでした。
 「祖母がいたなんて…。どんな人だったのか、せめて話だけでも聞いてみたい!祖母が住んでいた田舎へ行けば、母のことも少しは分るかもしれないし…」
彼女は自分が何者であるかということがやっと分かることに、とても幸福感を持ってその通知を受け取りました。
 しかし、すぐに逆の不安がよぎってきました。
 「身内がいたということは本当に嬉しいけれど、今、自分が出ていったら、遺産目当てだけだととられはしないだろうか?そう思われるのは絶対に嫌だ」
そんな想いが今度は彼女を憂鬱にしたのでした。
 彼女はすぐに後見人である食料品店の主に相談しました。
 長い時間話し合った揚句、彼女は彼のアドバイスに従うことに決めました。
 彼女と後見人である店の主人は、祖母がずっと住んでいた九州へ向いました。
 「遺産目当てだと思われるのは嫌だというお前の気持ちはよく分る。しかし、このまま放っておいても、お母さんやお祖母さんのことは分らない。二人のことを知りたくてやって来たんだということを、先方によく話せば分かってもらえるんじゃないか」
 後見人のおじさんの意見はそういうことでした。彼女は考えた揚句、おじさんの意見に従うことに決めたのです。
 祖母の墓は遠縁から養子に来たという彼女と同年代の男性が守りをしていました。
 彼女はおじさんとその彼を訪ねたのです。彼は彼女が名乗ると、無愛想に「何をしにきたんか?」と訪ねました。明らかに「遺産が目当てだろう」と言いたげな眼差しでした。
 「いえ、会ったことがないお祖母さんがどんな人だったのかを知りたくて…」
 彼女は答えました。
 「ふーん」
彼は胡散臭そうに、彼女とおじさんをじろじろと見つめました。
彼女の脳裏にここまでやって来たことに対する後悔の念がよぎりました。
完全に疑われていると感じた彼女はどぎまぎしながら、それでも真意を伝えようとしました。
 「ばあさんのこと?別に普通の人や。話すことなんか何もあらへん」
無愛想な返事でした。
 「じゃあ、お墓の場所だけでも教えて下さい。せめてお墓参りだけでもして帰りたいですから」
 「別にあんたに墓参りしてもらわんでもええ。わしはあんたが親戚やなんて認めてへんのやから」
彼はそう答えたのでした。 彼女とおじさんは、祖母の墓の場所も教えてもらうことができず、その日はそのまま帰らざるを得ませんでした。後味の悪い旅でした。
 帰阪後、彼女は再びおじさんに相談しました。
 「祖母は私が生まれたことを知らなかった訳がないと思います。なのに何故、孫の私に四十年以上も連絡を取らずに、遠縁のあの人を養子にしたんでしょうか?私が生まれた頃に何があったのか、私はそれをどうしても知りたいんです」 

<続>

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