これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。
その日たずね人の調査のご依頼に来られた男性は七十才でしたが、老人というよりまだまだ張りのある声をされていました。が、言葉を出すのが少しつらそうでした。 聞くと、彼は一年前に脳出血で倒れ、現在リハビリを続けているものの、まだ歩行が困難であるのと話しづらいということでした。しかし、依頼を聞くのには彼が気にする程聞き取りにくいということではありませんでした。
彼が探してほしいという人は、入院先の病院に障がい者を対象として派遣されていたヘルパーの女性です。彼女は三十四才。日本人であるのですが、南米出身の日系三世でした。彼女は日本へ出稼ぎに来ていたのです。
彼女はまだまだ日本語をうまく話すことができませんでした。そのせいもあるのか、無口で、友人らしい友人はいませんでした。彼女のそんな姿を見るにつけ、彼は一人遠い異国から働きにきている心細さや淋しさを思い、常々気にしていつも労いの言葉をかけていました。
そんな依頼人の気持ちが通じたのか、彼女は彼に対してだけは打ち解けて何でも話すようになっていきました。
ところが三ケ月程過ぎた頃、彼はリハビリのために転院することになりました。リハビリに励んでいる間、彼は彼女がヘルパーとして頑張っているものとばかり思い込んでいました。
それからまた三ケ月が経って、彼は再び前の病院へ戻りました。彼女の元気な姿が見れるだろうと楽しみにしていた彼でしたが、彼女は既に病院を辞めたと聞かされました。彼はがっかりしました。
「いたしかたない。元気でがんばっているんだろう」初めはそう思っていました。しかし、日が経つにつれて気になってしかたなくなってきました。
彼は病院中に彼女のことを聞き回りはじめたのです。
<続>
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