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「マディソン郡の橋」のように(2)| 秘密のあっ子ちゃん(162)

 これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

お互い不倫と承知しつ つも、その恋心を押さえることができなかった依顆人(40)と彼(35)。
会える機会の少ない二人は、会った時は一秒でも長く一緒にいたいと思っていました。しかし、 お互い自分達の子供のこ とを考えると、家庭を壊してまで一緒になろうとはどうしても思えません でした。
その分、彼は彼女に対してはとても優しく、約 東はどんなことがあって も守ってくれました。
彼女は不倫への負い目は感じてはいましたが、 夫のあまりにも激しい浮 気に、『お互いさまや』という気持ちがどこかにあったことも事実でし た。
そんな人目をしのぶ二人のつきあいが二年程続いた暑い夏のある日、彼 女の夫が肝臓病で倒れ、緊急入院したのでした。
夫はその年の暮に一旦退院したものの、翌年の一月に再び倒れ、三月になってあっという間に亡くなってしまいました。
夫は二人の仲は一切知りませんでしたが、彼は 『罪作りなことをした』と自分を責めました。
夫の四十九日を済ませると、彼女は彼の会社に 電話を入れ、『別れた い』と一方的に通告したのでした。
彼もまた別れを覚悟していたのか、『仕方ないなぁ』とだけ言ったきり黙っていました。そして、彼女が電話を切ろうとした時、『今までのことは感謝している』とぽつりと言ったの でした。
それからというもの、彼女は二人の子供を育てるた めと、亡くなった夫が残した多額の借金を返済するた めに必死で働きました。
苦しい時はよく彼のことが思い出されました。彼の優しい一言があるだけでど れだけ心強いだろうか…。 そんな思いを抱いて寒い冬の夜に、彼の家の回りをぐ るぐる回ったことも何回かありました。しかし、やは り会うことはためらわれました。
何とか娘も結婚させ、息 子も大学を出したころ、彼女は再婚しました。新しい夫も二度目の結婚で、前妻 へ月々渡す慰謝料は、彼女 がやりくりして工面しまし た。彼女の二度目の結婚生活も何年かたって夫の出張が急に増え出し、ふと気づ くと二度目の夫にも女がで き、そこにいりびたりとなってしまっていたのです。 最初の夫にもさんざん浮気で泣かされた彼女は、もう耐える気力は起こりませ んでした。彼女はついに離婚を決意したのです。
『もう男はコリゴリ。一人の方がどんなに気楽か』そんな思いで久しぶりにのびのびした心で暮らしてい た彼女でしたが、子供達二人も既に独立して遠くに住んでいては、淋しさは募る 一方でした。
もともと動物好きの彼女は、その淋しさを犬一匹と 猫二匹を飼うことでまぎらわせようとしました。それ からまた何年か経ちまし た。彼女は骨身を惜しまずに働くことをいとわなければ、それなりの平穏な生活 を続けることができまし た。
ところが、昨年になってそうした生活も急変したのです。家族同様に可愛がっていた犬と猫が相次いでバ タバタと死んでいったのです。
彼女は本当の孤独を感じていました。全く一人で暮 らすのは生まれて初めてでした。不安と孤独が食も細 めていきました。ペット達が生きていればそんな気にもならなかったのかもしれませんが、彼女は無性に彼 に会いたくなっていったのです。
彼女は彼の調査を当社に依頼してきました。しか し、依頼はしてみたもの の、『今さら』という思いが強く湧き上がり、一度は キャンセルしました。
しかし、やはり彼に会いたいという思いはどうしても消すことができません。 彼は彼女の人生の中で、一番美しい思い出の人でし た。三ヶ月後、彼女は再び当社に依頼してきました。
彼は職場も自宅も当時とは変わっていましたが、一週間もしないうちに所在が判明してきました。

<続く>

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