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突然店を辞めた彼女(1) | 秘密のあっ子ちゃん(49)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

 彼は二十五才になるサラリーマンです。
 今年の夏、彼はキタのキャバクラへ行きました。
 ここまで書けば、いつもこのコーナーを読んで下さっている皆様はもうお分りでしょう。
 そうなんです。彼はそこで知り合った女の子を探してほしいと依頼してきたのでした。
 マ、ここまでは、水商売の女性に惚れてしまった男性によくあるパターンのお話なのですが、今回のケースがいつもと違っていたのは、依頼人である彼と探される彼女の双方の対応にありました。それは調査している私達の方が少しとまどってしまう程、律義なものだったのです。
 彼は彼女の本名を知りませんでした。彼女の源氏名は「サクラ」ちゃん。
 その「サクラ」ちゃんは彼より四つ下の二十一才で、短大を出ていました。大学の頃からバイトで水商売をしていたということでしたが、すれた所が全くなく、気立ての優しい、笑顔の可愛いい女の子でした。
 そんな性格ですから、客に人気があっただけではなく、店長を初め店の男子社員、同僚のホステスさんからも可愛いがられていました。
 依頼人(25才)が初めてそのキャパクラに行った時も、「サクラ」ちゃんはあどけなさが残る笑顔で迎えてくれたのでした。
 彼の第一印象でもサクラちゃんは明るくて元気のいい、楽しい子でした。さほど美人ではありませんでしたが、丸顔のほほに出るえくぼがその明るさを一層引き立てていました。
 彼はその店へ五回程通っています。
 その間に彼は、彼女がある短大を卒業したこと、家庭がさほど裕福ではなかったため学生時代から水商売でバイトをし、学費の足しにしてきたこと、今は庄内の方で両親とアパート暮らしをしていることなどを聞いています。
 「本当にイヤになるのよ。古くて狭いアパートだから風呂もなくって。近くの銭湯は店が終ってからじゃもう閉っているから、いつも来る前に入って来なくちゃならないんで、忙しくって…」 
 サクラちゃんはそんな風にグチったりしていました。 彼は当初、サクラちゃんに恋愛感情を持っていた訳ではありませんでした。ただ、話していて「楽しい子だな」とくらいしか思っていませんでした。
 しかし、店で彼女の姿が見れなくなってからは気持ちが一変したのでした。
 彼(25才)はサクラちゃん(21才)のことを楽しい子だなと思っていたものの、初めはさほど意識していませんでした。
 ところが、夏の盛り、彼が店へ行くと、いつもは真っ先に目に飛び込んでくるサクラちゃんの元気のいい姿がありませんでした。店長に聞くと、夏休みだと言います。二、三日もしたら出勤するということでした。
 一週間後、盆が明けた頃に彼が再び店へ行くと、彼女の姿はまだ見えません。
 「サクラちゃんはまだ夏休み?」
 彼がそう店長に聞くと、意外な答えが返ってきました。
 「いや、実は休み明けに一日来ただけで辞めたんです。どうも体調がよくないらしくて…」
 その言葉を聞いた時の衝撃を、彼は今でも忘れられません。頭をぶち抜かれたような感覚でした。もう会えないと知って初めて、サクラちゃんのことが好きだった自分に、彼は気づいたのでした。
 それからというもの、彼はサクラちゃんのことを諦めようとしました。
 「どの道、彼女と会えたとしてもうまくいきっこないんだから…」そう思うよう努めました。
 彼(25才)はサクラちゃん(21才)のことを諦めようと努力しました。
 しかし、諦めようとすればする程、想いはますます募っていきます。もう会えないと思うと、余計居ても立ってもいられず、会いたくなるのでした。時間が経てば経つ程、サクラちゃんのことばかり考えてしまいます。それは「寝ても覚めても」という言葉がぴったりでした。  
 「こんなことではいけない」と思った彼は、ついに当社に彼女の所在調査を依頼してきたのでした。

<続>

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