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実の父を探して(2) | 秘密のあっ子ちゃん(56)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

「やっぱり、知っていたん」母は養父の遺影の前でぽつりとそう言い、彼女の実父の話を始めました。
 実父は名家の長男で、母と実父が恋に落ちた時、母は実父に妻がいることを知りませんでした。そのことを母が知ったのは、彼女を身ごもってからのことでした。
 実父としても初めから母を騙そうとしていた訳ではなかったようですが、事の成りゆき上、結局母を傷つけることになってしまいました。
 実父は何とか母の身の立つようにと奔走したようで、実父の両親、つまり彼女の祖父母も交えて話し合いも持ちました。しかし、母が選んだ結論は実父へ離婚を要求することでもなければ、祖父母が申し入れた援助もきっぱりと断り、生まれてくる子供を自分一人で育てるということでした。
 実父に妻がいることを知った母は、離婚も慰謝料も要求することなく、そして援助の申し入れさえもきっぱりと断って、彼女を一人で育てる道を選んだのでした。 その後しばらくして母は養父と知り合い、結婚しました。養父は全てを承知で、彼女を一人娘として、それは大層可愛がり、育ててきたのでした。
 養父の初七日の夜、初めて実父の存在を知っていると告げた彼女(34才)は、是非本当の父に会ってみたいと母に言いました。
 母は探しても詮無いことだと言いました。
 「向こうでは、私が援助の申し入れを断った時に、あんたのことは既になかったことになっているはず。名家だけに、今さら名乗り出ても財産目当てだと思われるのがオチや」そう言うのです。
 彼女も、財産目当てだと思われることだけは嫌でした。
 で、一度は実父を探すことは諦めました。
 その後、彼女は良縁に恵まれ、結婚し、そして一児を産みました。自分が母親となって、再び実父とはどんな人なのかが気になり始めたのです。 
 彼女は悩んだ末に当社にやってきました。
 「決して、財産が欲しい訳ではありません。自分が親になってみて、我が子のためにも自分の実の父親がどんな人かをどうしても知っておきたくなったのです。息子が成長した時に事実を話すかどうかは別として、知っておく必要があると思うようになりました。そして、父が構わないと言うのでしたら、向こうの家族に迷惑がかからないように、一度でいいですからひっそりと会ってみたいのです」 彼女(34才)は私にそう言いました。
 調査は若干込入ったものになりましたが、彼女は母親からそれなりのことを聞き出してきていましたので、間もなく彼女の実父のことは判明してきました。
 彼女の実の父親は、五年前に他界していました。享年五十八才でした。
 「実の父はひっそりと会ってみたい」という彼女の希望は叶いませんでした。私達は、彼女がいつか望むことになるかもしれないと、墓所の所在を探しました。故人の名誉と彼女の尊厳を傷つけないためにも、先方の家族には内密に探し始めました。調査はこちらの方が大変でしたが、彼女が思い立った時にはいつでもお参りができるようにと探し回って、それも報告書に書き加えたのでした。 

<終>

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