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家族同伴で…(1) | 秘密のあっ子ちゃん(61)

これは平成6年より大阪新聞紙上にて連載していた「秘密のあっ子ちゃん」に掲載されたエピソードより抜粋したものです。なお、登場人物は全て仮名で、ご本人の許可を得ております。

 「今、心斎橋なんですが、今からお伺いしてもいいですか?」
 突然、そう電話をかけてきたその人は二十代後半らしい若い女性の声でした。
 「ご依頼の方ですか?」 スタッフが尋ねます。
 「ええ。お願いしたいことがあって…。前から思っていたんですが、今日、たまたま大阪へ出てきたもんですから、お伺いしたいと思って…」
その返事で、彼女一人がやって来るのだと思っていました。しかし、事務所へ入ってきたのは彼女だけではなく、お父さんとお姉さんも一緒でした。 
 家族揃ってやってきたのを見て、私はてっきり家出人捜索の相談だと思ったものです。 
 しかし、依頼内容を聞くと、あまりはずれることのない私の勘が今日は全く違ったことが分かってきました。
 彼女は現在は家事手伝いをしているのですが、以前にはあるブティックに勤めていました。五年前のある日、彼女の勤務先の向かいの店に彼女と同年代の男性が異動でやってきました。彼女はその男性に一目惚れしたのです。
 依頼というのはその彼の現在の連絡先を知りたいというものでしたが、彼女の父親も姉もにこにこしながら、その話を聞いていました。何とも微笑ましい家族でした。
 彼とは初めは朝の挨拶を交わす程度でしたが、次第に顔を合わす度に様々な話をするようになりました。彼の方も彼女を憎からず思ってくれていたようです。
 「両想いになったんですが…」彼女はそう言いました。
 しかし、相思相愛になったといっても、二人は一度もデートをしたことがありませんでした。しかも、お互いに電話一本かけたことがありません。
 一年後、彼の勤める店は経営が悪化し、ある日突然店じまいをしてしまいました。連絡先を聞くこともなく、彼の姿は消えました。
 五年の月日が経っても、彼女は彼のことが心から離れませんでした。父や母、姉にも相談して、今度家族で大阪へ買物に出る時に当社を訪ねてみようということになったということでした。

<続>

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